不死の転生者
雫たちが何とかラスの元に到着した時、ラスはぐったりと地に伏していた。再生している最中のようで身体は燃えていた。それを興味深そうに観察するナルタルは先ほどとは雰囲気がことなっていた。外見には変化は無いがその存在感は増している。雫の考え通り強さが戻ってきているのだろう。
「ちっ、戻ってきやがったってことは『霊魂貸与』の効果もあらかた把握されたってことか。使えねー奴等だぜ」
ナルタルもこの展開を予想してたのか雫たちの帰還にさして驚いた様子を見せない。この感じであるとこの不完全な復活がナルタルの致命的な弱点と言う訳では無いのだろう。
それにしても再生能力のみが売りのラスが地に伏して動かないのは気になる。
「…ラスが倒れてるのは珍しいです。再生スピードも遅い。何かしたです?」
「あ? 大したことはしてねーよ。肉体と魂の繋ぎを不安定にしてるから上手く動けないだけだ。にしてもこんな種族特性だけで不死性を獲得されたらたまんねーぜ」
忌々しそうに語るナルタルの瞳はどこかラスを羨んでいた。
「まあそんな事はどうでもです。けどどうしようかです」
ナルタルを削るのは確定としても宛が外れた雫は、この後どうするか決めかねていた。
このまま鉄ちゃんとアンフェたちで『十二守護魔』を殲滅できれば簡単なのだが雫とわんこで4、鉄ちゃんが4、アンフェとシロで3で合計11人。1人足りないのだ。
「守護魔の人はスキルは効かんと言ってたです。となるとスキルを解除される系も駄目です。あ、取り敢えずわんこはアレをボッコボコにしておいてです」
わんこが始動する。後衛職で本来の力の半分ほどしか出せないであろうナルタルは成す術がない様子でめちゃめちゃにやられている。
「ピィエェー!」
「お前ももう少し頑張れです」
いつの間にか隣に来てわんこを応援しだしたラスには雫も呆れ顔である。とは言えわんこが稼いでいる時間を使って対策を練らなくてはいけないので気を取り直して考え始める。
「ちょっ、まて、やめ…くそが!」
「わん!」
「ふざけ、なに、言わせ…」
「わんわん!」
「ピェェ~」
成す術が無さすぎて可哀想になる。雫は考えるのに夢中でわんこは止まらない。ラスすら同情する状況が少し続いた。
しかしここで展開が変わった。どこかで『十二守護魔』が倒されたのかナルタルの力が一気に戻る。急激な変化にわんこも追撃を躊躇したのか一瞬の硬直状態が発生した。それを逃さないナルタルは魔法を繰り出す。
「『輪廻の門』『霊魂束縛』!」
立て続けに2つ発動する。するとおどろおどろしい見た目の門が現れ、そこから11もの人が出てくる。よく見るとその中には先ほど屠った筈の『十二守護魔』の人もいるため死者を召喚してると推測する。
「わんわん!」
「…なんです? ああ、死人を召喚したですか」
しかしその結論にナルタルは反論する。
「俺様のコレがただのアンデッドと同列にされるのは我慢ならねーな。そもそも俺様に言わせればアンデッドを召喚する『死霊術師』なんてのは二流もいいとこだぜ」
ナルタル曰く、アンデッドとは死者、つまり肉体も魂もボロボロの者を召喚するため生前の力を発揮できない。確かに思考が単純化されるため使い所が無いわけではないがデメリットが多いと感じるのだ。
「コイツらは死者を召喚してるんじゃねーぜ。死者を転生させてるんだよ。まあ俺様の能力上、肉体はそこまで高レベルのは造り出せねーが問題無いんだよ!」
つまり能力などはそのままだが、ステータスが肉体に応じて減少してるのだろう。であるならばわんこの敵では無い筈だ。そう判断したわんこは守護魔の1人の首を飛ばした。しかし
「うわっです。首なしで生きてるです」
「確かに普通よりも弱くなるのは『輪廻の門』も変わらねー。だが『霊魂束縛』があれば違う!」
『霊魂束縛』とは肉体を破損すれば死んで成仏する魂を現世に縛り続ける魔法である。つまり擬似的な不死にできる能力である。
「形成逆転だぜ。と言っても俺様は最初から不死だったからな。俺様の優位性は結局揺らがないんだがな」
「そうですね」
一見、ピンチに追い込まれた雫だが焦りは無い。ナルタルは先ほどまでボコボコされており、何とか逆転したばかりなため、分かっていないが『輪廻の門』により11人も出てきたということは、そう言うことである。
雫がニコリと笑顔を浮かべる。その瞬間、部屋の壁がぶち壊れる。
「な、な!」
「やっと来たです」
久しぶりの龍姿で壁をぶち壊してきた鉄ちゃん。そしてそれに乗って楽してたアンフェたち。役者は揃った。特にこの状況を打破出来そうなのが登場した。
「アンフェ、何かアイツら魂を現世に縛り付けられてるらしいです」
「うけ る♪ てん ごく いき だな♪」
天使長のご帰還である
『輪廻の門』
『冥府の門』との違いは死んだ当時のまま召喚するか魂を回復させ肉体を別の物にして召喚する点。プレーヤーやNPCが死んだ場合に起こる蘇生と異なるのは肉体を術者が用意する点。そのため術者の能力によって肉体の性能が変化する。
『霊魂束縛』
魂を現世に縛り付けておく。ただ魔法使いなどは別としても、物理攻撃主体の者が魂のみになれば戦闘出来ないため対処としては肉体を粉々にすれば概ね問題ない。
また束縛するにはそれなりの実力差が必要のため『霊魂貸与』と『霊魂束縛』によりどちらも不死化は現実的では無い。




