血の気の無い都市
わんこから四天王の1人が治める都市に到着したとの報告を受けた雫。クランの面々が順調に魔都周辺の国別クエストを消化している現状などもあってか、制作を一時中断し同行することに決めた。とは言えわんこたちと別行動をしていた期間は1週間ほどであるしゲーム開始時に必ず会っていたため久し振り感は無いはずなのだがどうも様子がおかしい。
「よくやったです」
「くぅん」
雫としてはいつも通りわんこたちを労う。しかし
「ねこかぶりだ」
「うけ る♪」
「…………」
「なんです? 何か変な感じです。特にアンフェとシロがニヤニヤです」
原因がわからない雫は混乱する。結局アンフェたちの気が済むまでの数分間、雫は首を傾げ続けることになった。
なんだか無駄に時間を消費してしまった雫たちだが気を取り直して四天王の1人が治める都市『ニルヘイム』に足を踏み込んだ。
雫は最初の街と魔都くらいしか経験が無いがこの都市は魔族特有の活気と言うか血の気のような者が欠如してると直感する。そもそも人気が少なすぎるのだ。
「なんか寂しい街です。ここに本当に四天王とやらがいるです?」
「わんわん!」
「…確かに魔王がいた城に似たのが見えるです。てことは彼処に四天王がいるです?」
「そう だよ♪」
「なら取り敢えず街を見た後で城に行くで、」
「わ、悪いことは言わねぇ、止めとけよ~」
ここに来た目的がそれなので善は急げと四天王の住居に行こうとすると、それを遮るようにか細い声が聞こえてくる。
「誰です?」
「俺のことなんかどうでもいい。お前、かの『死術王』ナルタル様に挑もうって気だろう。止めておけ。と言うか止めてくれ。あの方がお怒りになれば俺達までただじゃすまない」
「『死術王』です?」
話の流れ的にそれがここを治める四天王のことを指しているのだろう。不吉な通称である。雫はそれを聞いて第8のフィールドの光景を思い出す。
「そのナルタルってのは骨だけだったり体が腐ってたりするです?」
「ば、無礼なことを言うな! あの方は由緒ある魔人族の血筋。それをアンデッドと一緒にするなど」
よくわからないがアンデッドでは無いらしい。とすればますますこの魔族がナルタルを恐れるのはなぜなのだろう。ナルタルが恐ろしく強いと言うのならば魔族の性格上、燃えるところであろう。だが雫がそれを尋ねても魔族は返答してくれない。
「あの方に逆らうなど死よりも恐ろしいのだ。だからお前たちも逆らわないでくれ。あの方は死者を操る輩とは違い『生者を不死にできる』のだ」
「生者を不死です?」
「こ、これ以上は言えないぞ。反逆者だと疑われては敵わない。あの方が『十二守護魔』に守られているなど…」
「『十二守護魔』です?」
「や、やめてくれ…」
なんだか聞けば聞くほど教えてくれる優しい魔族さんからたっぷり情報を引き出せた雫は、ナルタルに興味が湧いたので街の散策は後回しにして、すぐ城に向かうことにした。




