新なる鉄ちゃん
少し待って進化が長いことがわかったので一度ログアウトしようかと考えた。1日経てば進化も終了しているだろうとの判断である。しかし鉄ちゃんの進化の経過に多大な興味を抱く奴らが駄々をこねる。結局雫は他の研究者と会話して暇潰しすることになった。ただ鉄ちゃんの進化の様子は生物学者以外にも興味深いようで雫と会話してくれるのは魔道具技師の数人だけであった。
話題は雫の装備についてである。
「お前さんの装備は基本、一級品だがその銃だけ違和感があるの。これ程の者が配下にいて、これ程のアイテムを持っていてはその銃の出番がなかろう」
「ああです。これはこの頃使ってないですね。昔は短剣とかと一緒に使ってたですけど」
「短剣?お前さん錬金術師じゃろ?短剣なんかつかってたんか?」
「…まあいいかです」
雫は自身のスキルについて説明した。その後『魂への干渉』についても。雫が短剣操作に使っていた『血操作』はもう別のスキルになっているのだ。
「それじゃあその『魂への干渉』ってスキルがあると『錬金術の極意』に依存してスキルを好きにできるのか?」
「まあそうです。昔はもっとスキルを持ってたですけどもうほとんど合成するか、失敗して無くなったです」
雫が『魂への干渉』でスキル合成に成功したのは『血操作』と『荊森』を組み合わせた『紅ノ薔薇』と『泥沼』などと『形成』という錬金術師時代に覚えたスキルなどを組み合わせた『泥兵召喚』くらいで、あとはいらないスキルで他のスキルを強化したり、類似スキルを統合したりするくらいである。まだ『錬金術の極意』の熟練度に不安があるため重要なスキルには試せていないのが現状であった。しかしこの話に研究者たちは興奮を押さえられぬ様子だ。
「それを儂らに、というか魔道具に掛けることは可能か?」
「…できるですね。リスクは有るですけど」
「なら、礼なら…そうじゃ儂らで開発した銃『魔砲』をやる。それと他にも儂らの開発した秘蔵っ子も。じゃから」
「いいです。私もスキル合成の練習はしたいと思ってたです」
そういうことで雫は魔道具の研究の手伝いをすることになった。そのように各自時間を潰しているとようやく鉄ちゃんの進化が終わる。
「やっとです」
「わん!」
「ぉ~」
「ふぁー、てつにー」
「ピェー、zzz」
待たされ疲れたのかシロは目が閉じかけており、ラスに至っては寝てる。そんな中鉄ちゃんの進化が終わる。光が収まり現れた鉄ちゃんは身長が少し伸び、体つきもがっしりした。しかし外見的な変化はそれほど感じない。というかそれが気にならないほど纏っているオーラというのか存在感が増したのだ。
研究者たちは新鉄ちゃんを凝視し、恐る恐る触り驚く。
「外見はあまり変わらないかと思ったが鱗の密度や硬度がまるで別物だ。恐らく重量は倍近くなってるのでは?」
「王種のときも凄まじかったのに」
「種族は?どんな種族になったんじゃ?」
今度は雫を凝視してくる。何でも鉄ちゃんの種族に心当たりがないらしく雫に確認するよう催促したのだ。
「まったく子どもみたいな爺さんたちです。えーと鉄ちゃんの種族はです。…?」
「くぅん?」
「ん、ああです。ちょっと混乱してただけです。鉄ちゃんの種族は『龍神 鉄』だそうです」
『龍神』という言葉を聞いた研究者たちは息を呑む。しかし
「変な名前です」
「…………!」
「わんわん」
「ぁぁ~ぁ!」
「てつにーzz」
「…そうかです。シロが鉄ちゃんのこと鉄兄とかいうから鉄なんて変なのになったです」
「……」
雫たちはその後の鉄の方が気になるようだった。
鉄ちゃんのネーミングセンスの奴に言われたくは無いだろうに。




