研究者会談
第2チェックポイントに住む研究者たちは雫たちに興味津々であった。ある生物学者はわんこや鉄ちゃんなどに、ある魔道具技師は雫たちが身に付けている装備や雫印のアイテムに。そして何よりここにいる多くの研究者の興味を惹いたのは雫自身と彼女の錬金術師としての能力であった。
「私ら魔族は魔術には自信があるが錬金術はちょっとな。『錬成』とかなら兎も角、複合スキルのそれも極意を持ってる奴なんて少なくとも私は知らないな。だから必然的にホムンクルスを造れる魔族もいないんじゃないか?」
「そうです?」
「しかし錬金術は魔国じゃあまり進んでないが一人でこれ程の逸品を造るってなると、研究した方がいいんじゃないか?」
「いや、それは嬢ちゃんの技量もあるだろ。儂らじゃここまでのは造れんのじゃないか?」
「確かに。しかしこのボムは我らの『魔縮弾』に似てる。魔術師や魔道具技師と錬金術師の資質は類似してるのでは?」
「『魔縮弾』ってなんです?」
「ああ、これは儂らが開発した魔力を圧縮した弾でこれを開放することで小規模の魔力災害を…」
研究者の輪に雫も入っていってしまう。そのため唯一この施設のテンションに付いていけていた者の離脱によりわんこたちは取り残されてしまう。
「この装備。将軍様方が使っている物よりも数段上じゃないか?」
「製作者の腕も卓越してるがそれと同様に素材が良い。これなど人族の陽教秘蔵の聖剣『陽光刀剣』と聖鎧『天道要塞』を素材にしてる!」
「なに?あれほどの業物を?流石これ程の物を造り出す御方だ。我々はまだ甘いということか」
「くぅん」
「しかもこれはなんだ?盾が意思を持っているかのようだ」
「『念動』による浮遊だろう。…いやこれは盾自らスキルを?いやそれは…」
「……………」
この2ヶ月で多少の装備の更新はあったが装備自体を変更したのはわんこと鉄ちゃんだけである。しかも鉄ちゃんの装備変更は『意思ある防具』である浮かぶ盾を『守護ノ聖盾』と『無貫ノ魔盾』に変えたことくらいだ。勿論この2盾も『意思ある防具』である。
そして最も大きな変更をしたわんこ。その装備は今まで長い間使っていた『焔龍の闇騎士改』を素材にした物であった。雫としてもこの装備は思い入れが強かったため腕によりをかけて製作した。『焔光刀剣』と『漆黒要塞』。この2つを慎重に組み合わせた結果『聖光ノ黒騎士』というセット装備となった。『焔龍の闇騎士改』をベースとしたお陰か名称がかなり似通ったが性能面は全くの別物に変化したのだった。特にセット装備であるが単体でも機能するという特徴はしっかりと組み込まれている。
「確かに装備もアイテムも凄いが、それよりも彼女らの種族そのものが凄い。稀少種、特異種のオンパレード。しかも王種や帝種までのう」
「ならこの茸も凄い。独自の進化を遂げている」
そして勿論わんこたち本人についても興味津々な研究者たち。わさわさと触ったりじーと観察したり、わんこたちはかなり居心地悪そうである。アンフェなどは空中へ逃げてしまう。それを怨めしそうに見つつも雫から目を放すのも憚られるわんこと鉄ちゃんはなされるがままであった。すると生物学者の中でも進化系統に詳しい者が、熱心に会話している雫たちの輪に無理やり入っていく。
「のう嬢ちゃん」
「…え、あ?なんです?」
「これをあの龍人に喰わせてみぬか?」
「食わせるです?その鉄の塊みたいなのをです?」
「そうじゃ。儂の予想では良い結果になると思うのじゃが?」
「うーんです。鉄ちゃん?」
「…………」
鉄ちゃんの意見は食っても不利益が無いならば是非もないだった。ならば食べさせようという話になるが、雫には少し気になる点があった
「ちょっと貸してくれです。これ何か汚いですしちょっと『精製』するです」
「あ、ちょっと」
雫は『錬金術の極意』を使い『鉄塊』を精製する。
「『鉄塊』が『鐵塊』に」
「?よくわからんですけど、はいです」
「……。……!」
鉄ちゃんは『鐵塊』をガリゴリと食べ出す。するとすぐに変化が現れる。雫には見慣れた進化による発光であった。ただ経験上、進化は長くなることを知っている雫は光る鉄ちゃんを放っておいて研究者たちとの会話を続けるのだった。




