類友
雫たちが『魔女の森』を抜けた先には一人の魔女が諦めの表情を浮かべながら待っていた。魔女は雫がギリギリ聞き取れるかどうかくらいのか細い声でぼそぼそと何か呟いている。
「そうじゃない。そうじゃないのよ。ここのコンセプトは難題を前に何が最善手かを導く思考力や不確かな道を恐れず進む精神力とか、そういうステータスに現れない強さを問うとこなのに。そういうのを全て物理的に突破されちゃここの意味がないし。というか…」
「あのーです」
「やっぱりここを作り替えた方が…」
「おーいです」
「もー。…ん、ああごめんなさい。少しぼーとしてたみたい」
樹海を抜けた先でぶつぶつ独り言を言う魔女に放置されて困惑してた雫。漸く気が付いて貰えたとほっとする。
「それでです」
「そうね。我が名はリンネ。魔国の王が1人ディアボロス様に仕えし将軍『魔将』リンネ。戦いたくない。戦いたくはないけど規則に従い貴方たちの審査を行う」
リンネは持っている杖を構えた。漂う強者の気配とは裏腹に戦意はほぼ感じられない。そもそもリンネは直接戦闘タイプでは無く搦め手を得意とする参謀タイプである。なので搦め手の余地があるようにフィールドを設定してるのだ。それを自力で突破してしまうようなのを相手にすることなど想定していないのだ。
リンネは頑張った。『魔将』の名に恥じぬ戦いをした。詳細は語らないが敢えて言うならば彼女はあの鉄ちゃんの防御を撃ち破った。ただアンフェの回復込みでの雫たちの防御は貫けなかったとだけ言っておこう。
第2のチェックポイントは村と言うよりも研究所などの施設が集合した拠点のような場所であった。住人がほとんど彷徨いておらず、たまに見掛ける魔族たちは魔法使いっぽい格好か、雫の格好にも似たいかにも研究者という格好かのどちらかであった。
「ここは魔国において魔術や魔道具、その他色々な技術の最新の研究が成されている場所です。確かに規模で言えばここよりも大きい施設の本部が魔国の中心地『魔都』にありますが彼処では危険を伴う研究は行い辛いですから。ここで研究された成果が彼方に送られて汎用性の高いように改良されていくんです」
「へーです。確かに既存の物を改良するのも大切です。けど新しいものを造るわくわくには堪らないものがあるです」
「そうなんです。ここの研究者たちは本部で優秀な成績を残した末に自分たちからここに赴く者がほとんどなんです。結果変わり者の巣窟と呼ばれるほど、魔族でも変人が集まってしまうのです。…あ、私は違いますよ」
「わかるです。新しい物を創造する人たちがみんな変人扱いされても困るです」
なんだかここの研究者たちと馬が合うのかいつになく楽しそうに喋る雫をわんこたちは遠い目で見ているのだった。
「どうる…」
「わん!」
「はーい」




