VS蟲将ベルゼ Ⅲ
永久凍土はアイスボム系統の爆弾の威力や効果を強化した物であった。しかし『錬魔導師』となり素材の更なる効果の探求が可能になった雫によって凍結という状態の新たな可能性が開かれたのだった。
『時空凍結』はダメージを与えない。効果は爆発の範囲内の時間空間を止める、ただそれだけであった。しかし効果は絶大で前に雫が暴発させたときはパーティー全員がその被害にあったのだ。そのとき雫は思い切り怒られたのだがそのお陰で知ることができたこともある。このボムはその名の通り空間、動きを止めるだけでなく時間、スキルの再使用時間なども止まっていたのだ。
「とはいえです。私のレベルでも全然安定して造れないですし、そもそも材料が希少だから数が無いことが欠点です。それにわんこ!」
「わんわん」
「おお、やっぱり影の中は凍結されないですか。それとも『フラスコの中の自由』の効果範囲が私の影まであったか。まあそれは要検証ですけど、これで決着です」
凍結の解除条件は2つ。1つは単純に凍結が溶けるのを待つこと。しかしこの溶ける時間も個人差がありシロやラスのように氷と相性が良い者や、わんこや鉄ちゃんのように強者であるとその分早いことがわかっている。おそらくだがフィールドでも凍結時間は変わるだろう。そして2つ目は外部からの衝撃である。これはダメージなどは関係無いようで凍った雫をラスが嘴でつついた途端、凍結が解除されたらしいのだった。
「わん!」
「まあ上手くいったからいいです。『フラスコの中の自由』はダメージを負わないって効果だったですから『時空凍結』を防げるか不安だったですけど攻撃の追加効果なら大抵無効化できるみたいですね?」
「むぼう」
「………」
「いいんです。ほら早く倒してくるです」
行き当たりばったりすぎる作戦であったが何とか上手くいったのだ。雫は誤魔化すようにわんこたちへ、ベルゼを倒すように指示を出す。
「くぅん?」
そしてベルゼに止めを刺したわんこは妙な手応えを感じた。何というかボスモンスターとしては脆すぎるのだ。しかし戦闘は終了したようなのでおそらく気のせいだろうとわんこが警戒を解こうとしたそのとき物陰から倒した筈のベルゼが現れた。わんこが飛びかかろうとする。
「わんこ止めろです。もう戦闘は終了したです」
「わんわん!」
「そうだな。私としても止めて欲しい。私は入国審査の任を承っているが別に入国者と命を懸けて争うつもりはない。貴方たちは合格だ。先に進むといい」
ベルゼは本当にもう戦う気はないようであった。もう寝る時間であり早くログアウトしたい雫としても渡りに船なのでその提案を受ける。
「それじゃあそうするです」
「くぅん。わんわん?」
「…えと、彼は私に何を尋ねてるんだい?」
「…ああ、わんこですか。いつ分身と入れ替わったのか聞いてるです」
「『影武蟲』とか。それは『陰影蟲』を影中に入れたときだ。あれはただの『影魔法』対策じゃないのでな」
「わん!」
「ありがとう、参考になったと言ってるです。じゃあなです」
そういって雫たちは先に進むのだった。フィールドに残されたベルゼは
「…面白い方々だった。まさか時空を止めるとは。これは私もうかうかしてられない」
雫たちから刺激をもらうのだった。




