VS蟲将ベルゼ Ⅰ
外骨格を思わせる軽鎧に身を包み頭に角のようなものを生やした女性魔族が雫たちの前に君臨していた。
「私の名はベルゼ。魔国の王が1人ディアボロス様に仕えし将軍『蟲将』。貴方たちが魔国に入国するに相応しい存在か見極めさせてもらう」
「別にどうでもいいんですけど、何で国に入るのに強さが必要なんです?入国くらい好きにさせれば良いのにです」
「…私の主人ディアボロス様も同じ考えではある。しかし魔族全体の考えは違う。強き者ほど偉いのだ。だから奴らは弱い者が自国にいることが我慢できん。貴方たちも嫌だろう? 街中で次々に魔族たちが襲い掛かってきたら?」
「…めんどうです」
「だからこそ他族の者の入国を私たちが戦い審査することで街中の他族の者の強さの証明としているのだ。この者たちはこの国に入れるほど強いのだと。それではそろそろ始めようか」
ベルゼの回りに蟲が集まりだす。先ほどの言動と併せて考えるとおそらく彼女は使役もしくは召喚した蟲と視覚を同調させることが出来ると言うことだろう。つまりここまでのフィールドは彼女の配下の極小サイズの蟲たちによって監視されていたということだろう。それこそが『蟲の目』の正体だとわんこたちは気づく。
案の定というかそもそも敵の能力に興味は無い雫は気づくことはないが、それでも1つ気づくことがあった。
「虫ばっかで敵が多いってことは私の出番です?」
「…わん!」
「ならさっさとやるです」
この戦闘が終われば取り敢えず補給もできる。またベルゼ相手に一番相性が良いのは間違いなく雫であるためわんこの許可が下りる。その瞬間爆弾投下が開始された。しかし
「それがクライを一撃で屠ったアイテムか。だが何度も通用すると思われては困る!波吸虫、防風虫」
召喚された無数の蟲たちが雫が投擲したボムそれぞれを囲む。雫はそんな蟲たちの行動に疑問を抱きつつもいつも通り躊躇無く起爆させる。しかし起爆した筈のボムからは爆発の衝撃や爆風、爆発音すらも聞こえてこなかった。
「ふはつ?」
「いや起爆した手応えはあったです」
「ぃ~ぇ~?」
「湿気てたならそもそも爆発も、というかこのゲームのボムって湿気で起爆しないなんてあるです?」
「わんわん!」
「そうですね。多分さっきの虫たちが爆発を吸収したです。その証拠にです」
爆発を吸収した蟲の大半が地面に落下していく。おそらく無尽蔵に衝撃を吸収したり防いだりできる訳ではないため数で対抗しているのだろう。それならばもっと威力の高いボムを使えば良いのだが、相手の底が見えない状況で闇雲に使うのは躊躇われる。
「うーん。あんまりゴリ押しは好きじゃないですし、もっと手っ取り早いほうほうを考えるから少し頼むです」
「わふっ!…わん」
基本戦術がボムでのゴリ押しな雫の台詞に驚くわんこであったがすぐに立ち直りベルゼと向かい合うのだった。




