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戦う錬金術師です(涙目)  作者: 和ふー
第1章 王国編
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太陽の抱擁

鉄ちゃんVS八咫烏、流れは完全に鉄ちゃんに傾いていた。しかしそれでも八咫烏の優位性を崩すほどではない。毒による継続的なダメージは八咫烏が経験したことの無い攻撃であるためか、戸惑いが感じられる。しかしダメージを与えても、与えた傍から回復しているようで全く手応えがない。一方の鉄ちゃんはダメージもさることながら、体の溶け具合が徐々に看過できないくらいになってきていた。まだ大丈夫ではあるが体の一部がどんどん気化している現状では、すぐに鉄ちゃんを構成する部位に限界がきて召喚が解除される事態に陥りかねないだろう。


「…………」

「ピィエェーーー」


しかし鉄ちゃんを倒せると言ってもすぐにとはいかない。このままいけば最終的に倒せるだろうという話である。それはわんこの奥の手待ちの雫からすれば好都合であり、八咫烏としては避けたい事態である。八咫烏が一番に警戒しているのは先程、自身を凍らせた攻撃を放った主、雫である。しかも八咫烏からは雫が認識できていないためその警戒はより一層深いものになっている。本来ならば鉄ちゃんを放っておいて、雫に攻撃を仕掛けたいがそうもいかない。

時間を掛ければ雫たちが何を仕掛けてくるのか想像もつかない。鉄ちゃんの奮闘と、雫の奇想天外なアイテム類による攻撃が、長期戦では圧倒的有利な筈の八咫烏が、短期決戦を仕掛けざるを得ない状況に追い込んだのである。八咫烏の周囲の熱が上昇し出す。


「ゆがむ」

「そうですね。空間が歪んでるです。日焼け止めと日傘してるのに溶けそうなくらい暑いです」

「ぉ~ぁ?」

「今まではあわよくば私たちも巻き添えにできる範囲攻撃だったですけど、あれは鉄ちゃんへの単体攻撃だと思うです」


雫の想像通り、八咫烏は魔法による範囲攻撃から物理による単体への攻撃に切り替えた。一人一人確実に減らすことにしたらしい。


「……!」


鉄ちゃんもそれを察知して、牽制として鉄龍砲を放つが、更に上昇した熱の壁で殆ど無効化されてしまう。この攻防一体の攻撃こそ八咫烏の切り札の1つ『太陽の抱擁』。自身の纏う熱量を最大にした後、接近し抱き付くという単純な攻撃であるが、だからこそ対策しにくい厄介な代物である。避けるという選択肢も慣れない空中では取りにくいし、仮に上手く避けれたとしても攻撃対象が鉄ちゃんから後ろのアンフェたちに代わるだけであるためそもそも選べないのだ。


「……」

「ピィィーー」


鉄ちゃんは迎え撃つ構えを見せ、それに感化されたのか更に熱量を増していきすぐに最大まで上昇した。準備が整った八咫烏は鉄ちゃんの元に飛来する。迫ってくる死の気配を受けた鉄ちゃんが珍しく表情を崩した。それは絶望ではなく高揚。鉄ちゃんは笑っていた。しかしいくら気持ちで負けずとも状況は絶望的であり、鉄ちゃんに為す術はない。と誰もが思った。


「……!」


そんな鉄ちゃんが選んだ選択は、自身の『人化』を解き元の姿に戻ることであった。

それは悪手である。人化を解いても防御力が極端に上昇するわけでもなく、一方で龍の姿の方が動きが遅い。八咫烏は鉄ちゃんが人化を解くメリットが思い当たらずその選択を笑う。


「ピィエェー!」


しかしすぐに自分の過ちに気づく。人型だったときと、龍のときで明らかな違いが見られたからだ。先程まで圧倒的熱量の前で起こっていた鉄ちゃんの体の溶けが、龍になった途端に止まっているのだ。

ヒーとクーのスキル『放熱』と『求熱』は自身の表面積が大きいほど効果を発揮する。そのため表面積が圧倒的に上昇した龍の姿の鉄ちゃんを倒すには、それだけ多くの熱量が必要である。とはいえ『太陽の抱擁』を耐えられる程では無いため悪あがきとも言える。鉄ちゃんだけならば。


「ピィエェー!」


このまま鉄ちゃんを倒すには『太陽の抱擁』のために蓄えた熱量の大部分を消費する必要がある。攻撃中も『求熱』でどんどん吸われることを考えれば、鉄ちゃんを倒したときには出し尽くしている可能性もある。まるで『永久凍土』で凍らされる前の状況と同様に。

それは避けなくてはいけなかった。しかしもう遅い。鉄ちゃんを自身の懐に入らせてしまっているため、ここで攻撃を止めると反撃を食らった上で、『太陽の抱擁』用のエネルギーが全て無駄になる。そうなれば長期戦有利という前提が崩されかねない。八咫烏は覚悟を決めるしかない。


「……!」

「ピィアァーーー!」


八咫烏に抱きつかれ、どろどろと溶けだし、蒸発していく鉄ちゃん。こうなると鉄ちゃんにはどうすることもできない。薄れ行く意識の中、雫たちの方を振り替える。しかしそこに雫の姿は確認できなかった。鉄ちゃんの意識は覚醒する。最後の力を振り絞り『流体制御』と『鉄の世界』で自身の溶けだした体を素材に1つの鉄板を造り出す。それを八咫烏から見えないように、自身の体で隠すように設置する。それが鉄ちゃんの限界であった。

鉄ちゃんが最後に見た光景は八咫烏という太陽によって生み出された、鉄板に映る鉄ちゃんの影から現れたわんこであった。







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