永久凍土
鉄ちゃんが纏っている鱗は、『鉄竜召喚』で喚び出されていた頃の鉄竜時代のときの鱗とは同じ鉄という名前であっても、密度や硬度、耐性などどれをとっても全くの別物となっていた。おそらくここからは魔力がどうとか魔素がなどのファンタジー要素が絡んで来るのだろう。
残念ながらそれらは雫にとっては畑違いであるためよくわからないが、鉄ちゃんの鱗はそこら辺の高レベルモンスターの火炎放射ではびくともしないほどの強さを誇っていることはわかる。そんな鉄ちゃんがどろどろに融解されてしまったのは雫にとって衝撃であった。しかしそれ以上に衝撃であったのは、
「やっぱり不思議な世界です。まあ、すいみたいなのがいるくらいですからあり得なくはないですけど…」
確かに全員が受けた熱量が鉄ちゃんのガードを突破して溶かされた。しかしそれは耐性を上回っただけであり、熱によるダメージが鉄ちゃんの防御力を上回った訳ではなかった。そのため鉄ちゃんはどろどろになってしまったのにHP満タンという不思議な状態になってしまったのであった。
「よくわからんですけどこれ使えです。多分大丈夫だと思うです」
雫が吹っ掛けたのは『エリクサー』。全ての病を治し、部位欠損などを再生するポーションであった。それをどろどろ鉄ちゃんにかけるとみるみるうちにもとの姿に戻るのだった。先ほどの鉄ちゃんは、スライムなどの限られた種族しかなれない状態異常の1つである『液状化』になっていた。なぜ固有種族のみの状態異常かと言えば、鉄ちゃんのように体の殆どの組成が同一の物であれば『液状化』となっても生存出来るが、そうでない場合液状化した段階で死ぬからであった。
「まあでも鉄ちゃんが死ななかったのは良かったです。流石にあんなの相手に鉄ちゃん無しじゃキツいです、しっ!」
「ピァーー」
鉄ちゃんを回復している間も八咫烏は攻撃してくる。それを回避しつつ雫たちも攻撃を開始する。しかしそれらの攻撃は殆ど熱の壁に防がれて届かない。しかし相手は範囲攻撃を好き勝手放ってくる。はっきり言ってこのままでは、じり貧であった。
「唯一、熱ガードに防がれないわんこの影が当たっても効いてる気がしないです。けどまあそんな時は私の出番です」
そうやって笑顔をみせる雫。雫の作戦は単純であった。ボムの仕様として、着弾による起爆と任意での起爆の二種類が存在する。任意で起爆しようとしても何かにぶつかれば起爆するのだが、ある程度の狙いを定めることが可能である。そのため今回は熱の壁が展開されている外側での起爆を選んだ。
「いくです。『蒼海』です」
わんこたちに何も伝えず、しかもこのボムは実際には使われたことの無いアイテムである。わんこたちの予想通りであれば、この『蒼海』は『紅蓮の炎』と同様の壊れ性能のアイテムである。どんな二次被害を引き起こすか分からない代物を無断で使うのだった。
「わふっ!」
「待てですわんこ。まだ終わって無いです」
慌てた様子で雫を影中に逃がそうとするわんこを雫は止める。その手には見慣れないボムが握られていた。
ドガァァーーーン
『蒼海』の爆発と共に想像を絶する量の水が八咫烏に襲い掛かる。
「ピァァーーーー!」
しかしそこは太陽の化身。海の出現に反応し自身が纏う熱の温度を一気に上昇させ、瞬間、海に覆われたかに見えたが、すぐにそれらを蒸気に変え始める。残念ながら雫の『蒼海』でも八咫烏の本気の一端を引き出す程度でしかなかった。しかし
「いまです、ていっ!」
雫が第2投目を放つ。本来であればその攻撃は熱の壁に阻まれて当たらない筈である。しかし今は違う。八咫烏の周囲の灼熱は海を蒸発させる気化熱に奪われてしまっている。そのため雫の攻撃を妨げる障害は今現在、存在しないのである。しかも『日傘』によって存在が認知できない雫の攻撃で、『蒼海』の海により視界が悪いこの状態では避けることも叶わない。
「凍れです」
初めて着弾した雫のボムが起爆した瞬間、いつもなら聞こえる爆音も爆風もなく、ただただ、凍りついた八咫烏の氷像が現れただけであった。




