忘れられていた宗教
何とか大天狗の撃破に成功した雫たちは復活した大天狗から最後の札を受け取っていた。
「ほほ、流石というか、まさかあんな切り札があったとは驚きじゃ。」
「どうもです。」
「それにあれを使わずとも何やら他にも策があった様子じゃしの。完敗じゃな。」
「貴方もまだまだ力を隠してたですからおあいこです。」
「それはお前さんたちが出させてくれなかっただけじゃがの。」
基本的にボス級のモンスターは、HPが減っていくと徐々に攻撃パターンが変化していく。しかし雫のボム攻撃は一撃で致命傷なダメージを与えるため、敵が強化される前に倒すことが可能なのだ。ただ、そういった仕様を雫がちゃんと理解して、意識的に作戦に組み込んでいる訳ではなく、雫がボム攻撃で倒そうとするかといえば、作戦を立てる上で楽だからに他ならない。
「ボムが当たれば倒せる相手なら楽でいいんです。今回は『フラスコの中の自由』があったですから貴方にも当てれたですけど、本来遠距離主軸の相手にボムは当てにくいんです。」
「そこは鍛練じゃの。お前さんのアイテムはこの身で体験したからその凄さは分かるが、お前さん自身が脆すぎじゃしの。まあお前さんの配下は粒揃いじゃしお前さんの不足を補ってくれるじゃろ。それにしても九尾に天使、龍人に…」
わんこを見て口ごもる大天狗。その反応に雫が不審に思う。
「どうかしましたか?」
「いやなに、戦闘中は気付かなかったがこの狗っころ、陰神の使いであったか。」
「陰神?何ですそれ?」
「なに?こやつを配下にしておいて陰神も知らぬとは驚きじゃ。」
「そう言われてもです。ねぇわんこ?」
「…くぅん。わんわん!」
陰神というワードに聞き覚えすら無い雫とは対照的に一応、それについての記憶があるわんこ。雫にとってどうでも良い話だったこともあり、そこらの話は忘却されていた。
「ん?第2の街、中級ポーション? ああ、あったですねそんなのも。確かあれは陽神の神父さんだった気がするですけど…それでその陰神がどうしたですか?」
「いや、大した話じゃないわい。この街、『妖魔街』でも陰神は信仰されておる。まあ儂らには長がおるからそこまで大きな組織にはなりえんがの。」
「そうですか。でも別に街中で信者に会ったりはなかったです。気がつかれもしなかったです。」
雫としても忘れたのには理由がある。思い返して見れば最初の頃はそれでも、わんこが陰神の使い設定で信者が近づいてくるイベントは偶にあった。しかしそれも少しずつ無くなってしまっていたのだ。しかしそれにも理由があるようであった。
「基本的に陰神の使いである、ワーウルフの特異種がこの狗っころほど進化することの方が稀じゃからの。儂は『仙術』でわかったが信仰しておらぬ者ではこやつが使いじゃと気づかない。逆に信者ともなればその狗っころほどの力を有しておると、無闇には近づけんじゃろう。影で号泣してるかもしれん。」
「狂信者ですね。」
狂信者に苦い思い出がある雫の表情は優れない。それを見た大天狗は雫が何を考えているのかを察したのか大天狗は笑みを浮かべる。
「狂信者といえば第9の街じゃの。二大宗教の陽神、陰神とは別の聖神を奉っておる。」
「面倒だったです。」
「そうか。じゃが確かその先の第10の街には陽神の教会本部があるはずじゃよ。お前さんの嫌いな狂信者がうじゃうじゃいるかもの。そこに陰神の使いを連れていくとなると覚悟する必要があるかもしれんの。」
大天狗から悲しい情報を授かった雫は折角、札集めが完了したのに何だがテンションがだだ下がりな状態となってしまうのであった。
死に設定になりかけてた宗教関係。




