大天狗への自爆特攻
玉藻の言っていた通り大天狗は老獪な爺さんであった。今まで戦ってきた七人衆である、玉藻や酒天童子、ヤミなどが取らなかった戦法で戦ってきたのだ。
「ほほ、儂以外全員を倒してきた割にはまだまだ甘いの。玉藻前や酒天童子もこれ程はっきりとした弱点を突かなかったのか。」
雫たちのパーティーで一番の弱点、雫を集中的に狙ってきたのだ。基本的にモンスターが雫のみを狙うことは無い。知性のあるボス級のモンスターならば、一見テイマーに見える雫を狙っきたこともあったが、鉄ちゃんが『人化』を覚えて、常時人型モードで過ごすようになってからはそれも減った。
しかし『仙術』を極めている大天狗には雫とわんこたちの繋がり、関係性が手に取るように分かる。そのため雫たちを倒すための最善手である雫狙いを行ってきたのだ。
「しかもちゃっかり『妖術』だか『仙術』だか知らんですけど、鉄ちゃんの防御を貫通してくるのが面倒です。アンフェ、鉄ちゃんの回復に徹してくれです。わんことシロは攻撃してろです。」
「ぉ~」
「わんわん!」
「わかった。」
「………………」
「鉄ちゃんは守りに集中。鉄ちゃんが突破されたら終わりです。」
「…!」
鉄ちゃんの防御力や『霊亀の首飾り』のことも把握しているのか、大天狗はしっかりとそれを対策して攻撃を繰り出してくる。現在は数的有利により何とかなっているが、このままでは鉄ちゃんが突破されかねない。そうなれば厳しい状況に追い込まれるだろう。そのためそうなる前に何らかの手を打たなければならない。
「儂の『妖術』や『仙術』は玉藻前よりも出力の面で劣るがの、お前さんたちをあしらうことくらいなら造作もないわい。」
「わんわん!」
「むかー。」
成長したとはいえ、まだまだシロの『妖術』『仙術』は大天狗たちクラスには劣る。加えてわんこの影を利用した奇襲も『仙術』によって先読みされており効果が薄い。そのためどうしても長期戦となりじわじわと削られていく。
「ほほ、ステータス頼みの単純な戦法ならばお前さんたちに勝ち目は無いの。出直してきなさいな。」
安い挑発に乗る雫ではないが、打つ手が乏しいのも事実である。今雫が思い付くのは2つしかなかった。
「どっちがいいと思うですわんこ?」
「わんわん!」
「まあそう言っても駄目だったらどっちもやるですけど、まあわんこに免じて自爆特攻で行くです。」
作戦は決まったので、全員に伝達し作業に掛かる。
「わんこは私と、シロは攻撃強めて、鉄ちゃんとアンフェは頑張って耐えろです。」
「わかった。」
「…!」
「ぅ~ぃ~」
「…わかったです。鉄ちゃんに『豊沃の茸』生やしとくですからこれで短期なら耐えれるです!」
「……」
「ぉ~。ぁ~!」
『豊沃の茸』は5分の間、宿主のHPの回復を助ける効果を有している。その代わり5分が経過すると徐々にHPを吸い出す害ある茸に変わるので、普段はと言うか殆ど使用しないアイテムのひとつである。そんな茸を何個も生やされた鉄ちゃんの心中は複雑である。しかし作戦なのでしょうがない。
「ほほ、茸を生やして面妖な。しかも攻撃の枚数を減らして、中々面白そうじゃの。じゃが浅いの。」
わんこからの攻撃が無くなったお陰で大天狗がより攻撃に集中できるようになり、アイテムを駆使した鉄ちゃんでもかなりダメージが蓄積し出す。このままでは押し切られるであろうその時、
「ほほ、やはりの。じゃが、儂に奇襲は通用せんよ。せめて狗っころじゃなく、そこの妖狐を使うべきじゃったな。『天狗風』」
大天狗は『仙術』により雫たちが現れる位置を察知し、そこに持っていた羽団扇で旋風を巻き起こす。しかし、
「ほほ…?なんじゃと。」
「甘いです。そんな単純な作戦で来るわけないです。わんこやれです!」
「わんわん」
雫は難なく大天狗の『天狗風』を避け追撃の1手を打つ。
「これは『影縫い』。まさか狗っころじゃなくてお嬢さんが儂に攻撃を?舐められたもんじゃな。こんな術もって数秒。そんな時間でお嬢さんに何ができる?」
「それはどうですかね?」
そんな挑発に雫はボムを複数取り出して答える。しかし大天狗の余裕の笑みは崩れない。
「この距離でそんなモノを使えばどのみちお嬢さんも倒れるじゃろ。HP的に先に倒れるのは、」
「お前ですよ。このフラスコ内ではね。」
「なん、じゃと?」
雫は大天狗の『天狗風』が繰り出されるタイミングで既に『フラスコの中の自由』を発動していた。この中にいれば雫がダメージを負うことは無い。そして大天狗もフラスコ内にいる。さすれば雫の攻撃を食らわすことが可能なのだ。
「力押しの自爆特攻です。覚悟しろです。」
「まず、逃げられぬようにするための『影縫い』か!」
今さら気がついた大天狗だがもう遅い。ステータス的にはそこまで圧倒的強さを持たない大天狗。無数の爆破に晒された彼は、儚く散るのであった。




