玉藻前
次の相手は玉藻と呼ばれる妖狐である。シロは会ったこと無いらしいが、ヤミから話を聞いた所によるとヤミやシロの上位互換のような存在らしい。『妖術』や『仙術』そして魔法等を用いて完全に自身の間合いから相手を狙い撃つ遠距離型のスタイルである。ただし、ヤミやシロはどちらかと言えばサポート型であり攻撃の術をあまり覚えてないのに対して、玉藻は1人で完結しており、他者の存在が無くとも1人で戦える性能を有しているという違いがある。
「あら、珍しいわね。九尾の妖狐なんて久し振りに見たわね。わたくし玉藻前と申します。玉藻と呼んでいただければ幸いでございます。」
「どうもです。それで早速なんですが、」
「札ですよね。わかっております。わたくしが『妖怪七人衆』としてこの街の守護の任に就いて以来、初めてのことでございますが、よもや酒天童子までもが敗北するとは。」
雫が用件を話す前に言い当てた玉藻。雫はいきなりの事で困惑の表情を浮かべる。
「何で知ってるです?」
「わたくしの『仙術』はこの妖魔街全域まで効果を広げられます。そのためこの街で起きた出来事はおおよそ把握しております。とは言え『仙術』も万能ではごさいませんので詳細まではわかりませんが、おそらく酒天童子は貴方様がたの力量を測り間違えたのでしょう。あの子は『妖術』も『仙術』も自身を強化するのみに特化させ過ぎていていけません。わたくしが言える立場でもありませんが。」
雫が出会った妖怪の中でも漸く強者の風格を纏った者が現れたと感じた。雫は油断なく玉藻を見つめる。
「そうですか。それではそろそろ始めましょうか。」
「そうですか。ていっ!」
開始の合図を玉藻が出す。それと同時に雫はいつものように先制ボム投擲を放つ。相手は遠距離攻撃型であることが分かっており、そういうタイプは、何をしてくるかわからない。得意の『妖術』、『仙術』、魔法によって取るべき対策も変わってくる。そんな相手には不用意に近づくべきではない。そのため先制爆破であった。
「やはりそうでしたか。『鬼封陣』『雷光』」
「初見のボムが見破られてたです?」
基本的に雫のボムの対処法は防ぐか撃ち落とす以外無い。残念ながら雫の命中性能を凌駕する回避力を持つ存在はほとんどいない。今回玉藻が行った『雷光』で撃ち落としながら、その余波の爆風を結界術『鬼封陣』で防ぐと言うやり方がベストと言える。
「酒天童子はその戦い方から残念ながらわたくしのような遠距離型に弱い傾向にありますの。と言うことは貴方様たちにも遠距離型が存在すると言うことでございましょう?」
「バレてるです。」
ボムは今の所通用しないだろう。そのためいつもの戦法で考えると鉄ちゃんが相手の攻撃を防ぎつつ、わんこで撹乱しボムを当てる隙を窺う所なのだが、折角なので雫は別の戦法を選択する。
「わんこ、鉄ちゃん、アンフェ。三人はシロのフォローを頼むです。こいつはシロに倒させるです。」
「こ、コン?」
「わんわん!」
「…………!」
「ぉ~!」
玉藻はシロが目指すべき存在とも言える。ならばこの機会に対峙させるべきだと、何となく雫は判断したのだった。
「あらあら、同じ九尾とは言え幼狐であるその者とわたくしが戦いになるとお考えですか?」
「別に思って無いです。だからこそ私たちがサポートするんです。いけるですねシロ?」
「こ、コーン!」
シロの戦いが今、始まった。




