捻くれ者
高威力の爆撃を受けてもまるでダメージを負った様子もなく、得意気な表情で雫を見つめる天邪鬼。そんな天邪鬼にイラついた雫は残りの『爆炎槍』を全弾投擲する。天邪鬼は成す術なく受けていく。
「ちょっ、待って。ふざ、けんな。」
さっきまで自信満々に自身の弱さを見せびらかしていた妖怪とは、思えないやられっぷりである。しかし爆撃が止むと先ほどと同様に天邪鬼は無傷の姿で爆煙から出てくる。
「だから、最弱な俺にそんな攻撃は効かないんだよ。」
自身の攻撃を何度も防がれたため、天邪鬼の発言を聞き流していた雫は、『最弱』という意味を考えることにした。
「最弱。弱い。でも無傷です。と言うことはステータスを反転してるです?いや違うですね。それなら攻撃を避けれるです。ならダメージを反転してるです?」
結論が出た雫だったが、それの詳細がわからないので対処法も手探りで検証することにした。
しかし天邪鬼もやられっぱなしではいてくれない。
「そろそろ俺も攻めさせてもらうぜ。『火の玉』」
攻めに転じた天邪鬼。しかし最弱の名に恥じぬ程度に彼の扱う妖術は弱い。しかしそんな攻撃を自信満々な表情で放ってくる天邪鬼。その何の変哲もない火の玉に違和感を感じた雫。まあ違和感を感じたとかは、ここのレベル帯のモンスターの攻撃はどんなに低威力な攻撃でも受ければ致命傷な雫には関係ないのだが。
今回の戦闘では極力わんこたちの助けを借りないことを決めている雫は、この攻撃を自力で防がなくてはいけない。
「これを使うのも久しぶりです。『荊森』」
『荊森』は鉄ちゃんが『霊亀の首飾り』を手に入れ壁役としての性能が上がり、また雫が『フラスコの中の自由』で瞬間的な防御力が上昇し始めたため、この頃使う機会に恵まれなかったスキルであった。攻防一体の優れた良スキルなのだが、遠距離攻撃くらいしか戦闘に参加しない雫には使い道が限られるスキルなのである。それでも能力は強力な筈であった。
「おお、道場に植物生やすたー面白いじゃねーか。だがな、それじゃ俺の攻撃は防げねーぞ。」
しかし火の玉が直撃した瞬間、荊のほとんどが燃え尽きてしまう。いくら雫のスキルでも妖術としてもランクの低い『火の玉』で半壊するほど脆い筈がない。そこら辺にからくりがあるのだろう。
「どんどんいくぞ。『かまいたち』」
「ダメージ反転、うーんです。まあなんとなく掴めてきたです。『解除』です。」
風の刃『かまいたち』が飛んでくる中、雫はほとんど残っていない『荊森』を解除する。雫は残り僅かであるが自身を守る盾を自ら消す。雫に攻撃が直撃する。
「あ?なに?」
「なるほどです。こういうからくりですか。まあ残念ですけど、お前より私の方が最弱です。」
しかし雫はまったくの無傷であった。
「おいおい。まじかよ。俺の妖術の性質を見破れる奴はいるがな。俺の低威力の妖術を食らって無傷かよ。この街に来れる奴がここまで弱いとは思わなかったぜ。」
「そうですか。お前に私は倒せないですけど、私なら出来るです。ていっです!」
雫が投擲したのは雫が初期に錬成していた『爆発石』であった。初期のモンスターには有効であったが、今雫が使っているアイテムとは比べ物にならないほど弱い代物である。しかし、
「がはっ。くそが、こんな弱い物、隠し持ってやがったか。」
『爆炎槍』よりも圧倒的に低威力な『爆発石』でボロボロになる天邪鬼。それも天邪鬼の固有の妖術『捻くれ者』の性質にある。一つの設定を反転するというモノで今回は受けるダメージの反転を行っていた。
弱い攻撃は強く、強い攻撃は弱く。即死は無傷に無傷は即死級のダメージに反転されるのだ。妖魔街にいる者たちで最弱で名高い天邪鬼はそこら辺のモンスターの低攻撃すら即死級のダメージを負う。そのためこの妖術を身につけた天邪鬼は弱さを活かせるようになったのだ。
「でも欠点も多いです。私が言えることじゃないですけど。」
「俺の方が弱い。弱いんだよ。『ステータス反転』」
『爆発石』により追い詰められた天邪鬼は、ダメージ反転からステータス反転に切り替える。しかしそれこそ天邪鬼に勝ち目はない。
「その妖術が自分にだけの効果なら強いですけど、ねっです!」
「くそ、クソガーー」
ステータス反転によって命中力以外、化け物になった雫の相手は天邪鬼には出来なかった。命中力が関与しないような、近接攻撃を中心に天邪鬼はボコボコにされるのだった。




