えっ本当
ゲーム内の設定を決めなくては先に進まないので、雫は悩みつつも進めていく。
「まずは名前からかです。たしかメモには『本名は駄目』ってあったです。」
そういえば、メモにはゲーム開始時の注意事項も何点か記載されていたなと思い出す雫。
「よし。シズでいいです。」
名前の欄にシズと入力して確定ボタンを押す。プレーヤーネームはシズでいくようだ。
次の項目は職業選択とある。
「職業ですか。たしかメモには生産職がいいとあったなです。」
雫の父親は娘が体を動かすのが得意ではないことを承知していたので、目立つようにメモに書いてはいたが……
「生産職ってことは薬とか武器とか作るんです。」
雫はとりあえず職業欄を下にスクロールしていく。しかし、
「あれーなんか作りそうなやつがないですよ。」
雫が見ていたのは戦闘職欄。生産職欄は別にあったのだが気付かない。
「おっこれは何かいろいろと作りそうなやつです。」
そうこうしている内に、『錬金術師』の文字が雫の目に入る。
「他にいいのもないしこれにするです。」
雫は『錬金術師』を選択して次の設定項目に進んだ。ちなみに、『錬金術師』はシステム的にも生産職とあまり代わり映えしないのに、戦闘職にカテゴリーされている。また、生産に関しても通常ある程度高レベルにならないとままならない程癖がある、ゲーム随一の不遇職であることを彼女は知る由も無かった。『variety virtual online』のことを調べればすぐにわかることなのだが雫はその考えすら浮かばない機械音痴なのである。
職業を選び終えた雫は、職業選択の下にあった初期ステータスの設定を操作する。
「たしか生産職はDEXてのに多くふればいいとメモにあったです。なら思いきって全部それにするです。」
もう一度言おう。『錬金術師』はれっきとした戦闘職なのだ。雫はその事実に気付かないまま初期設定を続けていってしまう。
種族を決めたら、初期設定は完了となる。雫が上手くやっていけるかどうかは、神のみぞ知る。
「まあ人族ってのでいいです。他はなんだかよくわかんないです。これでやること全部終了です。」
しばらく待つと、いきなり門が雫の目の前に現れる。その門を潜っていくと、騒がしい街が広がっていた。さすがにサービス開始からあまり日がたってないだけあって、見渡す限り初期装備と思われる格好の人がぞろぞろと移動している。雫はいつの間にか錬金術師らしいローブを羽織っていた。
門の近くにある冒険ギルドは人で溢れていて、身動きが取れなさそうだ。
「たしか戦闘職と生産職でギルドとかいう場所が違うですよね。」
このゲームの特徴のひとつに、ギルドが職業によって2つに分かれているということがある。戦闘職は冒険ギルドで、生産職は商業ギルドでギルドに登録するようになっている。
「さて生産職用のはどこです? 確か、地図を見れるはずです。」
機械音痴のシズはマップ機能を活用し、やっとの思いで商業ギルドにたどり着いた。商業ギルドは、冒険ギルドに比べて混んでいなかったのでほっとし、すたすたとギルド入っていく。
「ギルド登録ってのをしたいです。できますか?」
「大変申し訳ありませんが、ここは生産職限定のギルドとなっていますので。」
「わかってるです。」
「あなた様は『錬金術師』となっていらっしゃるので本ギルドに登録できません。」
「何で錬金術師だとダメなんです?」
「なぜと申されましても、『錬金術師』は戦闘職なのでとしか。」
「えっ、本当?」