種族とは
イベントも半ばに差し掛かった頃、優勝候補筆頭であったトップクランの一角であった『正義の礫』『剣聖の集い』『少女の楽園』の盟主が率いたチームの脱落などの、波乱はあれどおおよそ運営側の予想通りに進んでいた。
エリアボスの配置や能力を考え、ある程度各エリアのチームのバランスが均等になるようにしたりと、そんな運営の努力はある程度上手く行っていた。懸念材料であった戦闘系のイベントではレベルの低いプレイヤーや戦闘能力が低いジョブのプレイヤーたちが勝ち残れず、不満が出る事だが弱いチーム同士は同盟を組むなどで対処しているようで、予想以上にそういったチームが残っていた。
「いやー、今回はなかなか順調だな。見せ場も多いし、イベント後にダイジェストを配信する予定だしこれは成功だね。」
「本当にそう思ってるなら、森エリアの画面から目を逸らさずに言ってくださいよ。最早森エリアじゃないですけど。」
「イヤでもあれらを除けば成功ですよね。」
運営側に誤算があったとすれば能力を均等に配置するときにプレイヤーのスキルやステータスを参考にある程度で配置したため、雫の存在を考えて無かった点であった。
「森エリアの3分の1に火が燃え移りました。このままでは森エリアが全焼します。手を加えますか?」
「現在、呪いが一定のプレイヤーに広まっていますが、イベントの規定ではアイテムでのプレイヤー撃破は使用したプレイヤーのポイントになりますが、この場合カウントはどうするんですか?」
「雪原エリアの噴火跡地はどうしますか?」
「そうだな。あれらを除けば上手くいっているな。あはは。」
イベントは一部の混乱を除けば順調に進んでいるのだった。
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その頃、雫たち一行はようやくすいとミリーのいる沼地エリアへと到達していた。草原エリアからは遠くに位置するここへ来るには時間がかかり、移動に飽きた雫はアイと話に花を咲かせていた。アイは最初、周囲警戒を続けていた。それはソロプレイヤーとして当然の行動であったが、ここではアイが敵を発見するのと同時かそれよりも早くわんこたちが敵を倒してしまうため、周囲警戒を止め雫の暇潰しに付き合うことにした。
話は最初は自分のスキルや能力に始まり、そこから発展してジョブの話になった。
「発売当初は種族が人族や獣人など少なかったんですけど、クエストでの種族解放とか、アップデートとかで今はかなりの種族がありますよ。森精族とか土精族とか」
「確か、友達が前そんな事言ってた気がするです。初期種族の進化とかもあるんですよね?」
「私も元の種族は人族で『吸血姫の抱擁』という転生クエストを受けて人族から混血吸血鬼になりましたし。他にも体を機械に変えるっていう設定のクエストとか、そういえば主は錬金術師ですから『錬金術師の狂気』っていうクエストを成功すると人造人族、ホムンクルスに転生出来ますよ。」
「ほへー。色々あるんですね。知らんかったです。」
雫がまた一つ賢くなった所で鉄ちゃんからの警告が伝わる。
「…………………」
「ん、わかったです鉄ちゃん。もうすぐすいたちの所なんですね。気を付けとくです。」
すいたちが移動出来ていないと言うことは高確率で何かアクシデントがあったのであろう。そこに近づくのだから多少は警戒しておかなくてはならないだろう。
そんな雫と鉄ちゃんのやり取りを見ていたアイは感心したように呟く。
「さっぱりわかりません。わんこ殿はわんとしか鳴かないし鉄ちゃん殿は無言。主はどうやって意志疎通を図っているのかなぁ?」
静かに首をかしげるアイであった。




