毒龍と対面
指令が出たとき一番近かったどっくんとはくたくは、集合場所に到着した。そこには少し焦げた草むらに溶けかけの氷の破片がチラホラ点在していた。鉄ちゃんからの指令は集合せよだけであったので具体的に何が起きているのか知らされていなかったが、この光景を見てだいたい察することが出来た。
「きゅきゅ?」
「ぐっがぐがー!」
自分たちと同格の二人がやられたと言うことは、雫たちよりも早く到着してしまった自分たちはかなり不味い状態であることが予想される。そのため今、取るべき行動はこの場を離れることである。そのように判断したどっくんとはくたくは、移動を開始しようとした。
「や、やっぱりここで待ってて良かった。
フフ、のこのこと我が領域に迷い込むとは運がない。」
しかし不運にもヒーとクーを倒した『邪悪な瞳』が待ち伏せていたのだ。格上相手に奇襲も出来ないのでは勝負にならない。そのためはくたくは逃げる一択の構えでいつでも背面ダッシュ可能なように体制を整えている。
しかしどっくんは違った。自身の体から涌き出る毒を一気に吸い込んだ。するとどっくんの体に禍々しい模様が現れだし、紫色のオーラのようなモノを纏いだした。これはどっくんの今のところ最終形態である『毒龍』であった。その変貌はまさに厨二心を掴んでしまう。
「こ、この禍々しいオーラ。此奴もしかしてファフニール、いやヒュドラか。まってもう少しカッコいいのが出そう。」
「ぐっぐがー!」
一方どっくんは毒を一気に吸い込んだことで噎せてしまい少し時間が欲しそうであった。
どっくんと『邪悪な瞳』の戦闘開始はもう少し先になりそうだ。
どっくん、はくたく組の次に集合場所に訪れたのは雫たちとまぐたんであった。草原エリアに入るタイミングで合流してそのまま一緒に来たのだ。今は早めに移動したいため、全員わんこの影の中に入っている。
「そう言えばまぐたんのペアは確か金剛のはずで
すけどどうしたですか?
ヤられちゃったです?」
「ギャァギァ」
「ああ、置いてきぼりですか。まあ金剛ですしね。やり過ぎないくらいならしょうがないです。」
そんな感じで近況報告をしているとわんこから合図がある。
「わんわん」
「ん? 何ですかわんこ。ってどっくんですね。完全にどっくんが毒をばら撒いてるです。全く回りの被害を考えて行動して欲しいです。」
「…くぅ~ん」
毒々しい草原を目の前に雫がそう呟くが、わんこはそんな雫を何か言いたそうな目で見る。そんなわんこの眼差しに気づかず、雫は続ける。
「はくたくがいればいいんですけど、どうせこの中ですからね。アンフェ、浄化を頼むです。」
聖神ラファエルの力を吸い取って進化したアンフェはどっくんの毒の浄化など楽チンなのだ。
「ぅ~ぇ~」
「まあどっくん、というか小鉄たちの影響に対しては、はくたくが一番なんですけど、とにかくありがとです。」
「ぃ~ぃ~ぉ」
ひと悶着あったが毒の拓けた先に進むと案の定、どっくんがいた。しかしどっくんは地に伏しており、ピクリとも動いていなかった。
「どっくん!どっ、いやこれは違うですね。」
一瞬、どっくんも倒されてしまったのだと思い焦った雫であったが、辺りを見渡すと近くに毒の塊のような物体、近くに倒れているはくたく、倒れているが、死んではいないどっくん。これらを元に雫には大体の流れが理解できた。
「またどっくんは、『毒龍』を使ったですね。あれ使うといつも数分で体調不良で気絶するのになんでピンチになると使うんですか。あれを使うことが一番ピンチを招いてるんです。」
通常の呼吸で吸い込む毒で体調不良に陥るどっくんが意図的に大量の毒を吸い込むとどうなるかは自明の理である。そのために一応、はくたくがいるのだが、『毒龍』の状態を維持するにははくたくがくっついていないといけない。しかしはくたくは戦闘が出来るほど強くない。戦闘中にどっくんから剥がれる。体調不良で気絶の流れである。
雫が呆れてため息を吐いていると、毒の塊から一人の女の子が出てくる。
「フフフ、私は『混血吸血鬼』ハーフヴァンパイアだそ。貴様ごときの毒など…はぅなんか人いるんだけど。」
厨二である前にボッチな彼女は人見知りを発動させた。雫はなんか面倒なのがいるなと心の中で思ったのだった。




