戦闘の片付けと各々の思考
雫は数名にまで減った敵を見ながらほっと息を漏らす。出来れば使いたくなかった奥の手を使ったので、これで負けたのでは立つ瀬がない。この状態、雫はわんこモードと呼んでいるがこれの利点はわんこが魔法の行使だけに集中できる点と、雫のステータスがある程度戦闘が行えるレベルまで引き上げられる点である。戦闘経験、技術などから雫がこのモードで戦闘を行うより、わんこが普通に戦う方が強いのだがわんことしてはこちらの方が雫を守りやすい等の理由からこれを好んでいる。ただし雫が嫌がるので殆ど使われないのだが。このモードでは、攻撃のスタイルが影移動と投擲槍のコンボが中心となり、その合間に爆弾などのアイテムを使う。そのため敵は今まで爆弾などだけを警戒すればよかったのに、他の攻撃も警戒しなければならず、さらには弱い攻撃を何発か当てても倒されないだけの耐久が追加されるため厄介度が跳ね上がる仕様である。
元々、これが使えるようになったのは前のイベントの優勝報酬において、密かにわんこが貰っておいたスキル、『同一化』が変異したものであった。その効果は騎獣した時のペナルティーである、速度の低下等を無効化し、逆に能力値を上げるというものであった。
それが『闇夜魔法』が使えるようになり、自身の体をある程度自在に操れるようになったことで、『同一化』が本当に雫と一体化してしまうように変わったのだった。
「わんこ、もういいです。あとは直接倒すです。」
人数が減ったので雫はわんこに『同一化』を解くように命令する。わんことしてはこのままの方が都合がいいのだが、雫が望まないことを出来る限りしたくないわんこはすぐにスキルを解除する。
「そろそろ決着をつけようです。鉄ちゃんの所と私たちの所三人ずつです。そろそろ出てきて大丈夫ですシロ。」
「コーン」
降り積もった雪の中からシロが姿を見せた。敵が奇襲してきた時に丁度、索敵のため姿を隠していたシロを雫はそのままにして、『雪魔法』での移動阻害や発動遅延等のサポートに徹してもらっていた。そのお陰もあり6対1の数的不利な状況下でも、拮抗した勝負ができたのであった。
「そいつがシロか。事前の情報には無かった。というか大型の狼に人化できる龍、進化済みの妖精だけでも十分な戦力なのにさらに雪狐か。参ったな。慢心があったようだ。」
「えーとアックアックさんでしたっけ。そうですね。確かにこの雪の場所で攻めてきてくれたのは助かったです。」
「アックスだが。しかしそうか。場所選びで既に失敗していたのか。でもまだ負けたわけではない。もうしばらく足掻かせてもらう。」
アックスは刀を構える。彼の持つスキル、『無力』はMPをゼロにすることで魔法攻撃を無効化する強力なスキルだ。そのため雫がわんこモードのままの方がアックス的には都合が良かったのだがそうは上手くいかなかった。
雫としてはあとは残っている名付きのボムで掃討しても構わないのだが、普通に戦っても十分勝てる戦いのため、ボムをしまう。
「わんこはそのままそこの三人を相手にしてくれです。アンフェはわんこと鉄ちゃんの回復をシロは私の守護を頼むです。それと鉄ちゃんも頑張れです。」
簡単に指示を出し、むふーと満足げに唸る雫であった。
アックスとベルのクランの盟主クラスのプレイヤーはこの状況でもまだ諦めずに立ち向かえるが残りの者たちの戦意は削がれていた。特に残りが1人になった『少女の楽園』の人形使いのテリメアは、どのようにここを離脱するかを考えていた。自分の死イコール、チームの死を意味するため、自身が倒されるのは最も避けなければならない。しかし今ここで逃げ出せば真っ先にわんこの標的となるため渋々戦闘を継続しているにすぎないのだ。
ベルの方は既に隠密に優れた匪賊のホークを逃がす算段をつけていた。元々、自分一人で鉄ちゃんと戦いたかったため、自身が囮となり、残り二人を逃がしもう1人もホークを逃がす囮となるよう行動する作戦であった。
大勢は決着し、あとは撤退戦へと移行するのであった。




