VS雫パーティー2
雫の特異なスキルは厄介なものであった。荊は武器としても盾としても使用してきており、死角からの攻撃をも防いでいた。短剣のスキルはこえだにはスキルなのかそういう効果の固有の武器なのかは判断がつかないが、そういった武器は威力がSTRに依存してることが多いので、スキルによる攻撃だと考えた。
他にも魔法銃であったり、予想よりも威力の高かった爆弾であったりと小枝たちは驚かされたが、それでも小枝のスキル『カスタム』によって高められた防御力で何とか防ぎきれるため、そこまででは無かった。事前の作戦会議では雫はそこまで脅威とならないと考えていたが、色々と手札が多かった。
しかしそれよりも彼女たちを驚かせたのはアンフェであった。広範囲に絶え間無く行使される治癒、範囲魔法を絶妙に防ぐ結界など細々とした戦闘の補助を随時行っている。事前の作戦会議では話題にすら上がらなかった存在が、計画を狂わせていた。
「当初の予定だと3分でわんこと鉄ちゃんをシズちゃんから分断して、私が注意を引き付けつつ、広範囲魔法で素早く倒す作戦だったのに。」
「予定外ですね。でもそのお陰で他2組がかなりのダメージを負ってるのは嬉しい誤算ですけど。まあ私の可愛い人形も何体か壊されてますけど。」
「こえだもテリメアも話は後にしなさい。見る限り、徐々に彼女を守る荊も減ってるもの。もう少しの筈よ。気を引き締め直しなさい。」
「そうですね。でもやはりこの天候が無ければもっと早く倒せたと思いますよ。」
レディと一緒に遠距離で魔法を行使しているシュヴァルは、眼前に広がる積雪と冷たい降雪を見ながら呟く。ここに来てからいきなり積雪による『移動阻害』と降雪による状態異常『冷症』が発生したのだ。
移動阻害も冷症もそれ単体では大した効果はない。移動阻害は対象の速度の数値に応じて下げ、冷症はスキル、魔法の発動遅延と威力の少低下、HPの微減などである。
大勢に影響はないが戦闘時間の拡大には影響していた。しかも、こちらから見ると殆ど動いていないシズやアンフェならともかく、わんこと鉄ちゃんも移動阻害を受けていないかのようにスムーズに動いており、アックスやベルたちが手こずる要因となっていた。
「もしかしたら天候の阻害効果に耐性を持っているのかもしれないわね。それじゃあそろそろ仕上げと行くわよ。」
少女の楽園のメンバーは会話を終え戦闘を継続するのだった。
人形数体に囲まれている雫は、魔法銃を使い撃退していく。それを見ながら小枝は喋りだす。
「得意の爆弾は使わないのシズちゃん?
それとももう品切かな。」
「別に無い訳じゃないです。でもこっちにも色々と事情があるんです。ほっとけです。さー、こえだ。」
「後のことでも考えてるの。そんな余裕があるといいね。」
小枝は未だにプレイヤーネームで言うのに慣れていない友人に呆れながらも、ステータスを攻撃よりに変更して突撃する。正直、雫を守る荊はもう殆ど残っておらず、傍らにいる妖精も疲労が溜まっている様子で、もう少しで倒せるだろう。
そしてその事は雫もわかっているのだろう。かなり苦々しい表情を浮かべている。しかしその表情を見ながら小枝は不吉な雰囲気を感じていた。その表情は、出来る限りはやりたくないけど問題を解決できる方法を持っていて、使うのを躊躇っている時の表情であるからであった。小枝はすぐにレディに報告を入れる。
「レディさん。少し嫌な予感がします。すぐに総攻撃を…」
小枝の言葉がレディに完全に伝わる前に雫の台詞が小枝の耳に届くのだった。
「しょうがないです。出来ればやりたくねぇですけどそんなことを言ってらんないです。わんこ、アレやるです。」
「ま、ずい。シズちゃん。それはさせな、」
後手に回った小枝は何故か足元が凍り付いたように動かず、それを止めることが出来なかった。わんこは喜びに満ち満ちているという様子で雫の元に駆け寄り…
黒い何かに変わって飛びついた。
その瞬間、どう表現したらよいか小枝には解らなかったが、小枝が見たのはわんこが自身を影に変化させ雫を覆い、雫は影と融合でもしているかのようであった。
小枝の足が動くようになる頃には、雫の影との融合は終わっており、雫は影からの出てくる。すると先ほどまで着ていた頭の良さそうな格好とは全く違う、漆黒のドレスを身に纏った雫の登場である。
「こえだ。覚悟するですよ。気は乗らんですが反撃するです。」
雫に似合わず強者の雰囲気を漂わせて。




