紅蓮の炎
時は少し遡る。雫たちが、というと周囲を警戒してるシロ、わんこ、鉄ちゃんに失礼なので、アンフェと雫だけが呑気に雪原を歩いているとき、前方より巨大な鳥が現れたのだ。
雫はこの鳥に何となく見覚えがあった。
「多分、見たことある気がするようなです。しないかもです。えーとです。」
興味の無いことは本当にガバガバな記憶力を発揮する雫であるが雫は一応これと同系統のモンスターを見たことがあった。。このエリアボスは不死鳥である。しかしこれは雫が以前見た『火龍の巣穴』にいた不死鳥とは強さも能力も属性も何もかもが異なっていた。同じであるのは面倒な相手であることだけであった。
「まあ良いです。適当に相手しといてくれです。それにしても確か一つのエリアにモンスターは一体ずつの筈ですから今日は運が良いです。」
雫からしたらそんな程度の相手であるが、というか雫は直接、戦闘を行わないので気楽なものだが普通のプレイヤーならば自身の不幸を呪うこと必至である。
そんな感じで以前、雫が不死鳥を倒すのに用いた『封印』現在は『封印術』だが、それを覚えておらず、そもそも雫にボスに接近する能力は皆無のため、わんこたちもそれを進言せず不死鳥と交戦を始めるのだった。
雫が、不死鳥が虐められてるかのような光景を少し眺めていると、雪の中から攻撃していたシロが戻ってきて一鳴きする。
「コン」
「は?この雪を無くせですか。何でです。まあやれって言うならやるですよ。見てるだけじゃ私も暇です。えーとそれなら放火魔が一番手っ取り早いんですけど、もう無いですし、あれで良いです。わんこ、鉄ちゃん。しっかり避けろです。『紅蓮の炎』」
雫は深紅のボムを放った。それは雫が『マグマボム』を使用する時に酷似していた。しかし次に生み出された光景はまるで異なっていた。それはまるで火山の噴火のようであった。火柱が上がり、フィールド全体をマグマが包み込む光景は、遠くでこれを見ている者を震え上がらせる程であった。そんな自然災害に巻き込まれる自分の身体を他人事のように呆然と不死鳥は感じているのだった。
雪原エリアのエリアボス、その名は『スノーフェニックス』。いくら攻撃を受けようとも周りの雪を使い蘇るモンスターであった。これを攻略するにはエリアに降り積もる雪をどうにかするか、雪が無くなるまで倒し続けるしか無い。ただし、シロは雪をどうにかしようとしたのであって、決して自然災害を起こしてくれと頼んだわけではないのであった。
「初めて使ったですけど凄い効果です。危うく巻き込まれてゲームオーバーになるところです。」
先ほどまでスノーフェニックスと交戦していた場所は人が居られる環境ではなくなってしまったので、雫たちは『影移動』で少し離れた場所に移動していた。
雫は全員から非難するような視線に知らんぷりしながら遠い目をしていた。ただそんなほんわかムードは長くは続かない。移動した場所が悪かったのだろう。ゆっくりする間もなく、不意に声が聞こえた。
「『トリプルマジック』『マジックジャベリン』」
半透明な槍が3本、雫が反応できない速さで飛んで来る。しかし魔法を行使した者も、その程度の攻撃が当たるとは考えていなかった。彼女の攻撃は囮、本命は別にいた。しかし彼女たちの思惑とは裏腹に3本の槍は雫に直撃するのだった。
「えっ何で。でもこれで。」
奇襲を仕掛けた方が驚く事態だが、事前情報によれば彼女にこれを耐えるだけの防御力はない。なんとも呆気ない幕引きに思われたが、
「いった。わんこ、てか全員ともわざとですね。しょうがないじゃないですか、私も『紅蓮の炎』があんなに凄いとは思わなかったんですから。」
なんと雫は本職ではないにしても、無属性中級魔法『マジックジャベリン』を3本受けてぴんぴんしているのだ。予定なら3方向からの範囲攻撃が開始される筈なのに未だ何も起こらないことが襲撃者たちの動揺を表していた。
そして最初の火蓋を切った『少女の楽園』所属の魔法剣士の少女は、未だ呆然としていたが放置されていた。
「さっきも矢が当たったですし、しっかりしろです。」
「わん」
「…………」
「てか私に指示したのシロです。シロが悪いです。ねぇアンフェ。」
「~ぁ~ぅ~ぉ~」
「コンコーン」
遂にクラン連合との戦闘が開始されたのだが、そんなことは雫たちには関係ないのであった。




