包囲網と雫の罠
エリアボスを倒し、中堅パーティーたち相手に大暴れした小鉄たちも他のエリアに移動し始めている頃、まだ雫は森エリアに留まっていた。何をしているかといえば雫は、プレイヤーに向けて罠を仕掛けていた。その罠とは雫特性寄生茸。今回のモノは聖神ラフィエルを喰らった茸とは少し違いHPで成長、増殖するタイプの茸であった。
「ん、どうしたですわんこ。」
「くぅーん」
雫の計画ではこの茸を森に設置し終えたら別のエリアに向かうつもりである。しかし折角罠を仕掛けるのであればこのエリアに留まっていた方がいいのではないかとわんこは考えていた。
「別にこの茸は、そんなに強力なものじゃねぇーですからこれを使って相手を一網打尽とかにはできんです。だからここに設置するです。」
「くぅん?」
この寄生茸は、宿主から栄養を奪って成長する。そして成長を終えた茸は胞子を飛ばして増殖する。それを利用して茸が寄生したプレイヤーに別のプレイヤーのところまで運んでもらい、どんどん広めていくのが狙いなのだ。
先ほどエリアボスの討伐がアナウンスされたことで上位狙いというよりも、生き残り目的のプレイヤーたちがここに来るのではという予想をたてたのであった。それにそういったプレイヤーならば茸の効果もあるだろうという思惑があった。
しかし雫にとっては茸は身近な存在であるし、自身が作ったポーションやアンフェの魔法により解除できるため気付いていないが、寄生茸による寄生は『毒』『麻痺』 などの状態異常の上位に位置する『感染』と並ぶモノで、これを回復させるには回復支援ジョブの上位ジョブの魔法か、それに特化したポーションを使わなければならず、このイベントで茸を警戒しているプレイヤーは皆無のため、ほとんどのプレイヤーが解除出来ず苦しむことになるのだ。
「よし、ある程度埋め終えたですし、私たちもそろそろ移動するです。」
「わんわん」
雫たちは、恐怖の置き土産を残して隣接エリアの雪原に歩を進めるのであった。
そんなこんなで雫が行動している頃、トップランクのクランの盟主であるアックスとベルが率いるチームが沼地エリアにて合流を果たしていた。どちらのチームも自身のクランより選りすぐりのメンバーを選出しており、万全の体制であった。
「おい、さっきのアナウンス聞いたか。あれは多分だがあの娘の仕業だろう。ということは彼女は今森エリアかその周辺にいるということだろう。」
「だろう。それならまずは森エリアに向かうか。途中で会えればそれでいい。」
「それはやめた方がいいと思います。シズちゃんが森エリアでボスを倒したらもう森エリアにはいないと思うし」
そんな盟主同士の会話に少女の声が割り込んだ。
「誰だ! って君はこえだ君か。それにレディ。どうしたんだいこんな所で。もしかして俺たちを倒しに来たのかい?」
「そんなんじゃ無いわよ。さすがに貴方たち2チーム相手にするほど自惚れてないわ。たださえが森エリアに行くのは危ないって言うし、正直私たちだけじゃシズちゃんを倒すのは難しいから、折角なら私たちも同盟に混ぜて貰おうと思って。」
「森エリアが危険だと。おいどういうことだ。」
「シズちゃんなら理由とか戦況とか気にせず理解できない行動をとります。だからシズちゃんの居た森エリアに迂闊に行くと危ないと思っただけです。」
「ふむ、それだけだと納得出来ないが、そう言うことなら、君を加えて作戦を立て直そう。」
「おいおい、コイツらも加えんのかよ。まあいい。でも龍の相手は俺がやる。」
ここに3つのクランの盟主チームが同盟を結んだのだった。




