イベント準備中
イベント開催が伝えられてから数日後、運営から1つのアイテム『マジックポーチ(イベント限定)』が届けられた。
このゲームのプレイヤーは誰でも、限りはあるが大量のアイテムを収納できるアイテムボックスを使うことが出来る。しかし今回のイベント中ではアイテムボックスが使用不可となり、使用できるアイテムが制限されることとなった。このマジックポーチに入るアイテム数はたったの百。攻撃手段の多くをアイテムに頼っている雫にとっては厳しいルールであった。
というのもこのマジックポーチは各プレイヤーに1つずつ配られたため、イベントに一人で参加するつもりの雫はきっちり百個のアイテムしか使えないのであった。しかし雫は、このルールを聞いて心配そうにするわんこに向かって笑顔でこう返した。
「私は錬金術師です。アイテムが無くなったら作ればいいです。前のイベントのフィールドにも素材はあったですからね。」
雫は自身の強みであるアイテム錬成を全面に押し出す作戦で挑むつもりであった。またアイテムポーチの収納数に装備品はカウントされないため、それらも踏まえて持っていくアイテムを選ぶのだった。
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今回のイベントのルールでは雫のようなパーティー構成のプレイヤー6人での参加も可能である。そのためルール上は、ティマーなどのプレイヤー以外のモンスターなどを連れているプレイヤーが有利と言われている。
しかしそのようなプレイヤーはこのようなイベントには不利だとも言われている。そういったプレイヤーは経験値を従魔に分け与えている。もっと言うとテイマーは戦闘に参加しないことが多くプレイヤーのレベルが低い傾向にあり、プレイヤーを狙い撃ちされたらひとたまりもないからである。
これはトッププレイヤーたちが妖精を連れていない者が多いことにも繋がる。妖精は初期は弱く、特にサポート系の妖精はレベルの上がりが悪い。それで無理に戦闘に参加させると信頼度が下がり、頑張って育てても自身のレベルが上がりづらい。二段階も進化したアンフェのような存在は稀なのだった。
そういった環境の中、トッププレイヤーたちは最適なチーム作りに励むのだが、プレイヤーの間で、前回のバトルロイヤルでは上位を取り、そして個人戦では優勝、準優勝をかっさらっていった雫たちのことが話題に挙がっていた。
「クラン対抗戦には出てこないが今回は個人でも参加できる。また暴れられるぞ」
「いやいや彼女はテイマーだろ、彼女さえ倒せば終わりだよ。恐れることはないよ。」
「しかしその従魔は個人戦の優勝、準優勝だぞ。やべーだろ。」
そんな中、互いにクランの盟主であり、クラン対抗戦でも優勝争いをしている仲の、アックスとベルも雫を話題に挙げていた。
「彼女はともかく狼と龍は厄介だぞ。」
「龍か、あいつには借りがあるからな、今度こそ必ず倒してやるさ。」
「まあもし倒せないようであれば彼女を倒せばいいか。それじゃあ彼女を倒すまでは手を組むということでいいか?」
「龍との戦いを邪魔しないのであればな。」
どうやら雫はかなり注目されているようであった。
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バトルロイヤルという戦いは雫の守護が第一のわんこたちにとってはかなり難しい戦闘である。そのためわんこは不安そうな顔をしていた。
「わんこ。大丈夫ですから心配するなです。」
「くぅん。」
「そんなに心配なら、もし私が危なくなったらアレをやってもいいです。だからそんな鳴き声を出すなです。」
「わん…わんわん」
雫の言葉にわんこは嬉しそうに反応するのだった。そんなわんこを見ながら雫は小さな声で呟くのだった。
「わんこが良いなら良いですけど。アレ、私たちの戦闘力が大幅に落ちるから私はあんまり好きじゃねぇーです。」




