門番の豹変
「まだ名前を名乗ってなかったな。私はランという。貴様達のような脆弱な存在にも礼は尽くすのが嗜みというものだ。」
「私はセンと申します。」
「あっ私はしずく、違ったです。シズです。こっちがわんこ。鉄ちゃんです。」
「貴様らの名など覚える気もないが、まあいい。」
一時的に止まった戦闘が再び再開される。
相手の亜人は狼や犬のようなタイプなのだろう。
男性のほうは近接戦闘を得意としているようで
わんこと互角以上に戦っている。
もう一人の女性のほうはどこからか杖を取り出して男性をサポートしていた。
ただこちらには攻撃を特に仕掛けてこない様子だ。
これらは鉄ちゃんにより雫が守られている。
そのため基本的にはわんことランの一騎討ちとなっている。
戦況はわんこが押されぎみであった。
スピードはわんこが、パワーはランが上であり。防御力は『金剛の小太刀』のおかげでわんこが上であるし回復石での回復もある。
それでも圧倒的な差が両者にはあった。
戦闘の技量の差である。
ランは四足歩行のわんこに攻撃を当てにくい様子だったが。それも技量によりカバーしている。
そして基本的には一騎討ちであるこの戦闘は、たびたび使用されるセンの補助魔法これがランの有利を決定付けていた。
雫の援護を障壁を張りランに当たらないようにして。その一方、ランの邪魔にならない程度にわんこの妨害もする。
どのような妨害が来るかわかっているかのようにランは攻撃してくる。
凄まじいコンビネーションである。雫達もたびたびコンビプレイをしようとするが、向こうに比べてどうにもぎこちない。
ステータスでは、こちらが優勢なのだが、技量の差であちらが一歩リードしてる状況であった。
「無理です。諦めるです。」
戦闘が始まり数刻、雫は呟く。そしてさっき作っておいた新兵器、爆弾を取り出す。
「わんこいくです。」
「わんわん」
そして二人めがけて爆弾を投下した。
「ドッカーン」
爆発音とともに凄まじい煙が立ち上る。
「馬鹿ね。させるわけないでしょ。闇雲に考えなしに戦って勝てるものはないのよ。」
数少ない爆弾はセンの障壁にまたしても防がれる。それをわかっていたランは動揺することなくわんこを見据えている。
煙がすごいが障壁によってわんことランの視界は阻まれていない。
「煙幕にもならないな。」
ランが独り言をいう。が、雫はそれにこたえる。
「問題ないです。そっちじゃないです。」
煙によってランとわんこの視界は阻まれていない。だが雫の目的はランではない。
煙のなかから鉄ちゃんが表れセンを襲う。
「そっちみたく上手く援護してやりたかったです。」
雫は諦めたのだ、わんこの邪魔をせずに援護することを。確かに雫達はコンビネーションで二人に負けているかもしれない。
しかし信頼関係はこちらも負けてはいない。
センはとっさに障壁を張るが間に合わず鉄ちゃんの攻撃をもろに食らう。
後衛の者が鉄ちゃんの攻撃を食らい無事な訳がない。センは虫の息であった。
鉄ちゃんがさらに追撃を試みる。しかし
「させるものか。」
ランの蹴りが鉄ちゃんを吹き飛ばす。すごい攻撃である。しかしランの相手は鉄ちゃんではない。ランの一瞬の隙をつきわんこの攻撃が決まる。そして止めとばかりに、雫が爆弾と爆発石を投げつける。
「ドッカーン」
「やったです。倒したです。」
雫がたてる。フラグを、
爆発による煙が立ち込めるなか、静かに、しかし濃密な怒気を含んだ声が響く。
「よくもよくも、俺のセンを。後衛職から狙うとは誇りも失った脆弱な下等な存在が。もう許さん、もう許さないぞ、貴様らだけは絶対に生かして帰さん。」
さっきまでとは違うランの様子に雫が若干震えた声でいう。
「しっしらんです。勝負してるです。卑怯も何もないです。」
相手のコンビプレイをなくすことには一応成功した。しかし戦況は、より困難な方向にすすんでいく。
ボスの行動パターンがダメージによって変化することはままある。
しかし今回ランは行動パターンはそう変わってない。鋭い格闘技がわんこを襲っている。
しかしステータスが明らかに変わっていた。
同じ一撃でもダメージのしかたが違った。
一撃、二撃食らうと雫が回復させないといけないほどのダメージ量となっていた。
「ヤバイです。怒らせたです。そんなに彼女さん倒したのが悪かったですか。」
雫が首をかしげながら、唸る。
「黙れ、貴様らもう口を開くな。」
凄まじく怒っているのだが冷静さは失っていないところはさすがでむやみやたらに攻撃してはいない。的確にダメージを与えていく。
相手がどんなに強くても雫には爆弾があるのだがさっき残りの爆弾、爆発石をほとんど使ってしまい。雫には攻撃手段はない。
鉄ちゃんもランの蹴りでもう雫の前にいるだけでもつらそうだ。
「でも相手も結構ぼろぼろです。なんとか隙を作れれば倒せるです。」
センを倒したため、ランはダメージを回復できない。そのためランもかなりギリギリなのだ。
「もう寝る時間です。どうしたもんかです。」
戦いに夢中になっていたらもう日をまたぐ、いつもの雫ならもう夢の中であろう。
「もう明日になっちゃうです。明日?」
雫は閃く。これならもしかして相手に決定的な隙を作れるかもと。
「わんこ、もう少し耐えるです。」
残りの数秒で今日も終わる。そう1日がたつのだ。
雫は鉄ちゃんを戻す。そしてわんこのもとに駆け出す。
「いくですよ、鉄竜召喚」
時刻は深夜0時1日1回の制限が終わる。
魔方陣は二人の真下、鉄ちゃんがそこから表れる。いきなり足下に鉄ちゃんが表れ体制を崩すラン。
「いけです。わんこ」
「わんわん」
わんこの渾身の一撃がランに当たり幕引きとなった。
戦闘が終了した直後、目の前に倒したはずのセンとランがいた。
「見事だ、侮っていた。力は示した。亜人の街にようこそ。」
「いきなりどうしたです。」
さっきまでとは違い。友好的な態度に驚く雫。
ランとセンは物語の設定上門番なので、戦いの結果以外の戦闘の記憶は残らないようになっていた。
「まっいいです。入れるならでも、街の探検は明日です。じゃあまたです。
わんこ、鉄ちゃん」
雫はログアウトした。
センのことをランは片想いしてるという設定です。
カップルではありません。




