後の祭り
煙が晴れたと思ったらそこにいたのはヨボヨボの老婆になってしまった乙姫であった。
「えーと、あんた誰ですか?」
「誰って乙姫よ、乙姫。お前のせいでこんな姿に変えられたのに詫びの1つも無いのかよ。」
「あー、乙姫ですか。まるで別人みたいです。何かあったんですか?」
「はぁ?ふざけてんのか、煽ってんのかどっちだよ。お前にあげた玉手箱には開けたら『呪煙』が吹き上がってくるようになってたんだよ。そのせいでこの様だ。」
乙姫は怒りに身を震わせながらこういう事に疎い雫にも分かりやすく丁寧に事態の説明をしてくれた。元々この呪煙に触れたプレイヤーは、1日の間ステータスの大幅な弱体化と外見が老化するという効果が存在していた。しかしそれはプレイヤーへの効果でありNPCへの効果はわからないのであった。
「あと少しで計画を完遂できていたのに。海王様に仇なす愚かな陸上生物に鉄槌を下せたというのに。」
「かいおう、海王、…ああ、あのシャチですか。確かここら辺のボスでしたね。」
「シャチ、シャチですって。本当に愚かな生物よ。もうよい。本来ならこんな野蛮な手段は使いたくは無かった。玉手箱で陸の者たちを弱体化させていく計画であったが貴様は例外としてやろう。皆の者かかれ。」
乙姫が命令すると、魚たちに混ざっていたモンスターたちが一斉に飛びかかってきた。そして部屋の外からもモンスターが現れる。その中には水竜や海竜の姿もあった。竜宮城を守護する者たちの登場に場の雰囲気が高揚する。しかしこの場で最もテンションを上げたのは雫であった。
「やっと出てきたですね龍。やっぱり龍宮ってくらいですから龍くらい最初っから出してもらわないとです。」
現在出てきているのは龍ではなくそれより位が下の竜であるが雫は当然のように知らない。またそんな余裕そうな雫のようすを見て乙姫は気を悪くしたようだ。
「竜宮城の守護者たちを前にしてなぜそのように余裕を持っていられるのよ。」
「なぜって見ればわかるです。ね、わんこ?」
「わんわん」
乙姫が辺りを見回してみると先ほどカッコ良く登場した竜宮城の自慢の守護者たちの姿が見当たらなかった。
「な、なにが」
「乙姫様。あやつらが、彼処にいる獣どもが我らの守護者たちを。」
「馬鹿なことを申すな。守護者の中には竜種もおったのだぞ、それをこんな短時間で。」
「そういえばさっき計画がどうとか言ってたですけど、ってことはさっきの箱みたいに面白い物がまだまだあるってことですか?」
「な、何を?」
雫と守護者を瞬殺したわんこたちは嬉しそうな笑みを浮かべながら乙姫に近づいていく。その笑みに本能的な恐怖を感じた乙姫は後退りするがもう手遅れであった。雫を竜宮城に入れてしまったあたりから。
「まあお土産も落として台無しになっちゃったですから、新たに貰うです。」
雫の言葉に異を唱えることはもう乙姫にはできないのであった。
雫は竜宮城の宝物庫で面白そうなアイテムを片っ端から収納していく。玉手箱などは普通のプレイヤーには単なる弱体化アイテムであるが雫にとっては別の意味を持つからである。
「こんな面白いアイテムを使って錬成して作り出した物はとんでもないモノになる予感がするです。あの箱以外にも面白そうなものがあるですし。」
最も持たせてはならない人物が危険なアイテムの数々を入手してしまった瞬間であった。




