浜辺に亀
利発そうな男の子が第1の街のゲーム開始時に最初に通る門の前に立っていた。その正体は人化したわんこなのだが。わんこは最初、門の周りを見渡したり触ってみたりしていたが諦めたのか人化を解除する。するとわんこの影の中から雫たちが姿を現した。
「やっぱりダメっぽいですね。仕方がないです。進めないなら戻れないかなて思ったんですけど残念です。」
「くぅん。」
「別にわんこが悪い訳じゃ無いですし気にすんなです。さてどうしようかなです。まだ行ったことの少ないところ、なら彼処にするです。」
「わん?」
雫は何かを思い付いたようでわんこに行き先を告げ影の中に戻っていくのだった。
第5の街。雫がここに来たときはモンスターの氾濫が原因で海辺に人気はいなかったが、今はプレイヤーやNPCも南国のような雰囲気のこの街で楽しそうに過ごしていた。特にプレイヤーの中には浜辺で海水浴を楽しんでいる者もいた。
そんな浜辺の一画でNPCと思われる子どもたちが何かを取り囲んでいた。
「やーいやーい。」
「このこの。」
良く見てみると子どもたちは捕まえた亀を虐めているのだった。そこに一人のプレイヤーが通りかかる。
「ん、これは何かのイベントかな。おい坊主たちその亀を虐めるのはよせ。」
その後そのプレイヤーは海の中に入っていくという、既視感を覚えるような光景が繰り広げられるのだった。
雫は第1の街から、第5の街に来ていた。他の街は亜人や荊、砂漠や森など様々な場所を訪れてきた雫であったがそういえば、この第5の街ではそういった場所に言った記憶はなかったことを思い出したのだった。
そして孤児院のマリアからの情報でここに『腐海』というフィールドがあることを知っていた雫はわんこに海周辺まで連れてきてもらうったのだ。
「もうすぐ12月ですし、普通ならこんな場所いても寒いだけですけど流石ゲームです。折角ですし海水浴でもって、あれなんですか?」
雫は子どもたちが何かを取り囲んでる光景を目にした。近付いてみると亀が虐められているのだ。雫は眉をひそめた。
「おいおい餓鬼ども。そんなことしてないで早く家に帰れです。」
「ふん、やだよ。ってか餓鬼ってお前も十分餓鬼だろ。俺らと大して身長変わらねぇーじゃん。」
「そうだそうだ。お前こそ早く家に帰れよ。」
「亀なんて虐めても何も得なんでないです。面倒ですし吹き飛ばしてやろうかです。」
「ふん俺たちは楽しいからやってんだ。もし止めさせたいなら何か食べ物とか金とか寄越せよ。」
「いやお前らには私の最高傑作をお見舞いしてやるです。」
「くぅん。」
「わんこ。わかってるです。」
雫が自信の最高火力を誇る爆弾を取り出そうとした時、わんこから止められ渋々断念した。そして代わりに1つの茸を取り出す。
「ほら。これやるから早くどっか行けです。」
「えー。ただの茸かよ。もっと他に無いのかよケチだな。」
「なに。これは私が造った『神茸』で。食べればどんな傷でも直ぐに治る優れもの、」
「わんわん」
「わかったです。果物とモンスターの肉。あとお金です。これでいいですか?」
「最初からそっち寄越せよ。じゃあね。」
雫は茸ではなく、其処らで取れる素材を子どもたちに渡し亀を助けるのだった。どっちが高価な物かは言わずもがなであるが。
そして子どもたちが立ち去るのを確認した雫も立ち去ろうとすると、助けた亀は突然喋り出す。
「助けて頂きありがとうございます。どうか御礼がしたいので付いてきてはもらえませんか?」
「ほへ?お前喋れたんですか?
それなら最初っからあいつらに止めろと言えば良かったんです。」
「す、すいません。それで付いてきてもらえませんか?」
「別に構わないです。どうせ暇ですし。」
「本当ですか。ありがとうございます。」
その返答に亀は嬉しそうにパタパタと体を地面に叩きつけるのだった。
そしてその様子を遠くの方で見ているものがいた。先ほど立ち去った筈の子どもたちである。その子どもたちは、子どもらしくない厭らしい笑みを浮かべているのだった。




