獣人の君
第1の街には後発組と思われるまだ不揃いの装備品を身に付けたプレイヤーたちが闊歩していた。生産職のプレイヤーはともかく、戦闘職の人たちはお金が貯まり次第良い武器や防具を順に買っていき、稀にレアな装備品がドロップすることもあるためどうしても統一感の無い格好になる初心者が多いのだった。
ここ第1の街や第2の街には新米とはいえ生産者が多く、まだパーティーを組んでもいないような戦闘職のプレイヤーの殆どがここ第1の街を拠点としているのだった。
そのため初心者を脅したりする輩も現れたりするのだ。
「いいじゃねぇーか。そんな小さなホワイトラビットじゃ一撃熊どころかその前のモンスターにすら敵わないぜ。その点俺らはもう第3の街まで行けてる、優秀なプレイヤーって訳だから。一緒に遊ぼうよ。」
「そうそう。なんなら俺らが入ってるクランにも入れてあげるし。聞いたことあるでしょ『傍若の武人』って。」
「いいですから。私はラヴィちゃんとで大丈夫ですから。」
道の真ん中で女の子と兎を相手に強引にパーティーに誘おうとしてる二人組である。見た目ただの荒くれ者だが、それなりの装備を揃えてるところを見ると言ってることは嘘ではないようであった。そのため遠目から見てるものはいても誰も助けようとはしていなかった。
「おいおい、そんなら俺らとPvPで勝負しようぜ。ゲームらしくていいだろ。」
「そんな。私はまだ初心者だし。」
「なら先輩の俺らの言うことを聞くべ、あ、いた」
そんな時二人が喋ってる最中一人の男の子が片割れにぶつかった。その男の子は一言、
「邪魔。」
とだけ言い立ち去ろうとしたがぶつかった方が待ったをかける。
「おいおい、お兄さんよ。ちょっと待てよ。俺に邪魔とは何だ。俺を誰だと思ってやがる。」
「知らない。」
男の子は見るからに億劫そうに振り返り一言。にべもない返事をする。それに我を忘れて怒りそうになったがもう片方に止められる。冷静に見ればその男の子の装備は真紅のセット装備であり、かなりのモノだと判別がつく。
「落ち着けよ。アイツの装備は業物だ。しかも相手は魔法が不得手な獣人族だ。アレをやればあの装備をまるごといただけるぞ。」
「そうか。そうだな。」
邪魔な二人組が内緒話を始めたのでもう立ち去ろうかと考えていたその時、男の片割れが話を切り出す。
「ここでどうこう言っても仕方ねぇし、ここはゲームらしくPvPで決めようぜ。」
「そうだそうだ。」
「…わかった。」
男たちには勝算があった。PvPには色々とルールを設定できる機能がある。その中には装備品やアイテムを賭けることも可能であった。熟練のプレイヤーならいざ知らず第1の街にいるプレイヤーは大抵はルールを見ないで承認のボタンを押してしまうのだ。
その例に漏れず男たちが設定したルールを確認せずに男の子は承認してしまった。そしてPvPが始まった。
「ふはは、おいガキ。今度からはしっかりとルールを見るんだな。このPvPはお前対俺た、へ?」
「ちょっまっ、」
男たちが言い終わらないうちに黒い塊が男たちを串刺しにしてしまった。残ったのは彼らの纏っていた装備だけであった。
男の子はそれに目もくれず歩き出してしまう。すると男たちに絡まれていた女の子が緊張した様子で話し掛けてきた。
「あ、あのその装備はあなたのモノですよ。」
「いらない。あげる。」
「え、は、ありがとうございます?」
状況を理解できない女の子は首を傾げながらお礼を言った。それを聞き終えた男の子はまた歩き出してしまう。
「あ、あのあなたのお名前は?」
「…わんこ。」
振り向かずに獣人の男の子は行ってしまうのだった。
「わ、わんこ。かわいい。それにカッコいい。」
後には男たちの装備と目を輝かせた女の子と彼女に抱かれた兎だけが取り残されるのだった。




