喰らい尽くすのは
雫たちが敵の雑魚を幾分か減らせたが数体の生き残りが雫たちに特攻を仕掛けてくる。先程の攻撃で大分シロが疲弊してしまったが、神の僕クラスの相手ではほとんど脅威を感じない雫は、鉄ちゃんに敵の相手を頼み聖神ラフィエルを睨み付ける。
「貴様の連れている者どもはそれなりにやるようだが、見たところ貴様がいるせいで他の者が自由に戦えんでいる。無能な主人を持つとはこ奴等もあわれじゃの。」
「御託はいいですからさっさとこいです。」
「ならば以前そこの龍人に膝をつかせた技で貴様を葬ってやろう。主人が死ねばこ奴等も消え失せるじゃろうからの『貫ノ神槍』」
鉄ちゃんを貫いた槍を出現させ、雫に向かって投擲してくる。聖神ラフィエルも内心これで雫を殺れるとは思っていない。しかし雫を守るために鉄ちゃんなどが庇い、負傷することを狙っているのだ。しかしラフィエルの狙いとは裏腹に鉄ちゃんはおろか近くにいるアンフェやシロすら雫を守ろうとしない。
それを見たラフィエルはニヤリと笑みを浮かべる。予定とは違うが雫に直接攻撃が通るならばこれほど良いことはない。しかし雫に槍が当たると思われた瞬間雫がスキルを発動させる。
「行くです。『荊森』」
雫が発動したのは荊森。その瞬間、雫の回りに荊が出現する。それを見ていたラフィエルの笑いは最高潮に達する。
「我が槍はそんな小細工でどうにかなるものではないわ。その傲慢な幻想とともに貫かれて死ぬがよい。」
そして荊と槍が激突する。数本の神槍は雫に迫ろうとするが結局荊に阻まれて槍は消え失せてしまった。
「なぜだ。なぜだ。我が槍は全ての物を貫く絶対の槍だ。そんな陳腐な荊になど阻まれるはずがないわ。」
「別に阻んだわけじゃねぇですけどね。っと聖神さん隙だらけです。」
「ぐふぅ。この獣ごときが。」
「まず1発です。傷はつけたですよ。」
驚愕の表情のラフィエルの隙をついてフィールドに隠れているわんこが攻撃する。ちょっとしたかすり傷だが相手の防御力を見ることができた。
「先程からいっておるじゃろうが。我は聖神。このような傷は『癒しの息吹』我に触れたのと何ら変わりないと知れ。」
攻撃を防がれ、ダメージを負わされ内心激怒しているのだが、それを外には欠片も出さず穏やかに雫たちを見下すラフィエル。
「わんわん」
「よくやったですわんこ。あれで少しでもダメージを負わせられるなら勝機が見えてくるです。それにしてもあの攻撃が予想通りで助かったです。でなきゃ今頃串刺しです。」
とニコニコとしている雫にわんこたちは呆れ顔だ。この作戦を雫が提案したときは全員却下したのだが、雫が譲らず賛成一人で可決された作戦なのだった。
あの槍は鉄ちゃんの皮膚を貫く程の威力があったくせに鉄ちゃんが負ったダメージは雫の全HP程度の脆弱なものであった。
そこからあの槍は、防御力を無視して物理的障害を貫くことに特化しているため、敵に与えるダメージはそれほどないのではとの推論が立てられたのだ。そのため防御力とかそういうの関係なく一定ダメージを与えられるまで、守り続ける荊森が活躍したのだった。
とはいえこれは全て推論に過ぎない。それを思い付いても普通は実行に移せないもんだが、それを笑顔で行える雫はやはり可笑しいのだろう。
「さて、相手は予想通り回復魔法を持ってたです。ならアレを遠慮せず使わせてもらうです。」
「わんわん」
わんこが再び影の中に入っていく。それと同時にラフィエルも攻撃を開始する。
「不意打ちなどもう二度とさせんよ。『神眼』そして『裂ノ神斬』」
神眼からは何事も隠し通せない。影の中に隠れたわんこの位置すら把握できてしまう。と言っても影の中のわんこに攻撃を与える手段を持っていない。なのでラフィエルからの斬撃は、再度雫に向かって放たれる。
「鉄ちゃん頼むです。」
「........」
その斬撃の前にとっくに神の僕を叩きのめしていた鉄ちゃんが立ちはだかる。そして鉄竜砲で迎撃、撃ち落とした。
「我の攻撃を、一度ならず二度までも。っと同じ手が二度も通じると思うてるならば我を舐めすぎじゃ獣風情が。『轟ノ神鳴』」
攻撃の隙に乗じた背後から奇襲を仕掛けたわんこだがそれを『神眼』により視えていたラフィエルが即座に振り向き迎え撃った。雷速の攻撃がわんこを襲う。
「きゃうん」
極大の雷が直撃したわんこは倒れ込む。それを視ていたラフィエルは気分よさげに、
「ふふふ、ははは。獣風情が考えれる脳ではこんな攻撃が精々だろうな。今までの雑魚どもなら通用したじゃろうが我には、」
「てい」
「通用しないのだよ残念だったな。」
勝ち誇り無様に倒れ伏すわんこを見ながら話していると、背中の方に何かが当たった感触がした。攻撃にしてはあまりにも弱々しい感触であった。滑稽に思ったラフィエルが振り返る。
「なんじゃ今のは。まさかとは思うが攻撃のつもりか。もし我の隙をついての攻撃なら情けなくて貴様に同情すらしてしまう。」
「まさかも何も攻撃です。しかもお前を倒すためのです。」
「何を馬鹿なことを。貴様の自慢の配下は一人が疲弊し、一人が倒れた。この状況でま、だ。なん、だこれは。我に何を、」
「聖神さんの立派な翼を見てみろです。答えがわかるです。」
「な、なんだこれは。キノコだと。」
ラフィエルが自身の翼を見るとそこにはさっきまで無かった、ある筈の無かったモノ、キノコが生えていたのだ。
「貴様、我に何をした。」
「さっきお前にぶつけたのは寄生茸っていうキノコを独自に成長させた奴の菌の塊です。それの能力は増殖と寄生。まあそれに寄生されたらどんな効果があるかは自分で確かめろです。」
それを聞いたラフィエルは憤怒の表情を浮かべながら雫を睨み殺さんばかりに見ていたが、少ししてニヤリと笑みを浮かべた。
「キノコを我に生やした罪は大きいがまあよい。下等な生物のささやかな反抗だ。超位な存在として貴様を許そうではないか。これは一種の状態異常。ならば聖神たる我に掛かれば『聖癒』ぬ、なに『聖癒』なぜだなぜ回復せんのだ。」
ラフィエルが使える最上級の状態異常を無効化する筈の魔法を使用したがキノコは消えるどころか、益々元気になってすらいた。
するといつの間にかわんこの近くまで移動していた雫が語る。
「そいつはとある聖樹と化身のせいで造られた聖なる茸シリーズの1つなんです。そいつらは聖属性を喰らって成長するめんど、画期的な茸なんです。いい攻撃ですよね聖神さん。」
ラフィエルは雫の言葉を聞いて気がついた。もう殆ど自身の魔力が残っていないことに。というよりも聖神たる自分は聖属性の塊と言ってもいい。それを自覚したとき恐怖が襲い掛かってきた。自分が消滅する恐怖が。
「まだまだ手札は残ってるです。やる気が有るなら相手になるです。」
「やめ、ろ。助けて。」
ラフィエルが最期に視たのは見下していた筈の下等生物の笑みであった。




