亜人との邂逅
アップデートが済んだ次の日、ちらほらとプレイヤー達が第2の街に入っていった。
装備の関係で停滞していたゲームの進行がアップデートによりほぼ解消されたのだ。これから戦闘職のプレイヤー達の主な活動場所は徐々に第2の街の周辺へと変化していくことだろう。
そんな中雫達はというと、初期のプレイヤーを状態異常により苦しめた、静かな森その奥地へと進んでいた。
「前に探索してたときはこんなとこなかったと思うです。ゲームってやっぱり不思議です。」
森の奥には、今までのモンスター達よりもサイズが大きいモンスターが出てきていた。
しかしポーションを作れるようになった雫達は状態異常をあまり心配しなくてもよく、また鉄ちゃんが増え装備も充実しているため、それほど苦戦せずに進むことができていた。
「確か毒消しの作り方じゃなくて、毒自体を作るための方法も書いてあったような気がするです。」
雫の攻撃手段増強の予感をひしひしと感じながら一行は進んでいく。
雫達の目の前に立ちはだかるモンスターの群れ。
女王バチとそれを取り囲む無数の兵隊達であった。
「すごい数です。わんこ、鉄ちゃん少し時間を稼ぐです。広範囲に攻撃できる爆弾をつくってみるです。」
「わんわん」
「……」
わんこと鉄ちゃんが時間を稼いでいる間に雫は準備を始める。
今まで雫は小さい爆撃虫と石を素材にし爆発石を作っていた。しかしこの森にはもっと大きいサイズの爆撃虫が手に入るし、石も純度を上げグレードアップをはたしたものが何個か残っていた。
「いくです。錬成」
爆撃虫+硬石→爆弾
初めてのアイテム。効果はわからないが、爆発石よりも威力が高いのであろう。
「わんこ、鉄ちゃんもういいです。下がるです。」
わんこと鉄ちゃんが下がったのを確認すると、ハチ達はこっちの方に向かって飛んでくる。
雫はその中心に狙いを定めて爆弾を投げつける。すると
「ドッカーン」
ハチの大半が無惨にも焼け焦げてしまっていた。残ったのは女王バチとそれを守っていた、兵隊ハチのみとなった。
それらにわんこと鉄ちゃんの猛攻を止める術はなかった。ハチ達は理不尽な兵器により倒されたのだった。
ハチ達を倒した雫はさらに奥へと進んでいく。
ハチ討伐以降たいした敵は出現してこない。
快調に進んでいく。
「いいです。いい調子です。このままログアウト時間までに亜人の街とやらにつきたいです。」
雫のそんな思いが通じたのかそれを言った数分後亜人の街と思わしき建造物が見えてきた。
「おーついてるです。何事もなく亜人の街に着きそうです。」
大量に出現してきたハチ達のことを何事もなくといえるのは雫ぐらいだろうが、ここまでは雫にとって難なく来ることができている。それもこれもわんこと鉄ちゃんそして雫の錬成したアイテムのお陰だろう。しかしそんなに簡単に新しい街にはつくことはできない。
「貴様ら何者だ、ここは人族なんぞの弱者が来ていいところではない。」
強者の風格、そして鍛え上げられた肉体を持った武人のような男がそこに立っていた。
そしてその傍らには美しく凛とした女性が佇んでいる。
「立ち去りなさい人族よ。」
雫は動こうとはしない。すると
「そうか。それならば力を示せ。この街に入りたいのならば我らを倒してみよ。」
圧倒的な迫力、それに負けて雫は立ちすくんでいる。雫が怖じけずいたように彼らからは見えたのだろう。
「どうした、言い返すこともできんか、それならば逃げてもいいぞ。」
雫はやっとの思いで声を発する。
「そっその」
「なんだ、はっきりと言え。戦うのか逃げるのか。どっちなんだ。」
「その耳可愛いです。もふもふです。」
「えっ?」
「やっぱり亜人の街とか言うからそうじゃねーかとおもってたです。もしかしたら尻尾とかもあるです?」
「何をいっているんだ。状況をわかっているのか。」
「戦うんですよね。でもそれと可愛いいのは別です。」
亜人の街と聞いたときから雫はもふもふを想像していた。それが想像以上に可愛かったので、言葉を発せられなかったのだ。
せっかくのかっこいい登場を台無しにされた二人。その二人が気を取り直す間もなくいきなり
「じゃあやるです。わんこ、鉄ちゃん」
「わんわん」
「……」
戦闘開始、ペースを奪われたまま戦いが始まる。
どこまでいっても雫はマイペースなのだった。




