聖神ラフィエル
中ボスを退けた雫たちは、そこまでたいしたダメージを負うことがなかったためフィールドの奥へと歩を進めていく。
ただ第9のフィールドの最奥付近になってくると出現が確認されるモンスターのレベルもワンランク上昇してくる。このパーティーには最優先で守護しなければならない雫という存在がおり、進化して強くなったといえどもここら辺のレベルのモンスターと同格程度の小鉄たちでは、雫の護衛は力不足であると鉄ちゃんが判断を下した。
またそうでなくともここまで戦闘続きで『眷属召喚』の上限にそろそろ達しそうだったので調度よかったとも言える。
「そろそろです。わんこたち、やっとここの終点に着いたみたいです。戦闘準備を整えておけです。」
「わんわん」
雫の言葉通り雫たちは急に開けたフィールドに到着した。そしてそこには先程倒した神の使徒を名乗っていた奴等の同型とそれらを率いているであろう神であった。雫が想像していた神様は髭を生やした仙人のような姿だったのだが目の前の神は、若々しく生命力に溢れた感じであり期待はずれであった。
「ふはは。ここまでよくぞたどり着いたと誉めてやろう。我が名は聖神ラフィエル。我の僕を倒してここまできたことに敬意を称して、」
「あ、その説明長くなりそうですからもういいです。さっさと始めてくれです。」
「ん、なに?貴様、少々図に乗りすぎではないか。まあよい人族などの矮小な存在の言動に腹を立てていては我の品格を疑われるのでな。」
聖神ラフィエルの使徒たちは自分たちの信仰する神に、無礼な言動をした雫を今にも睨み殺さんばかりにガンを飛ばしてくるが、それを収めるようにラフィエルは回りに言う。一見すると心が広いようであるが内心は穏やかではなく、雫の言葉に一番心を乱されているのはラフィエルなのだ。
「しかし人族などの下等な生命体に愚弄されたままでは我の気もすまん。自分の愚かさを反省せよ、『神撃』」
雫たちは危険を察知し回避行動に移そうとしたが時既に遅く、雷にも似た極太の光線が雫に目掛けて降り注がれた。これはさすがのわんこたちも反応できないようであった。
聖神ラフィエルの先制攻撃『神撃』は、回避不能の単体攻撃でありこの攻撃はそのパーティーの中で一番HPが低い者を対象とするため、迷う余地無く雫に向かって光線が飛来してくる。並みの後衛職ならば致命傷級のダメージを負うところ。
しかし雫は直撃を受けたが無傷であった。その代わりそのダメージは鉄ちゃんにいっているのだが。
それを見たラフィエルは、興味深そうに呟く。
「なかなか面妖なアイテムを持っておるな。そっちの龍人も驚くほど耐久性に優れておる。それならばこれじゃの。『貫ノ神槍』」
ラフィエルが手を掲げた途端に虚空から豪華な装飾を施されている槍が数本出現する。ラフィエルが手を振り下ろすとその槍は一斉に雫たちに向かって投擲された。しかしこの槍はそれほど早さが無かったため今度は鉄ちゃんが雫の前に立つ。自慢の防御力で防ぐつもりである。
「わんわんわん」
しかしもうすぐ鉄ちゃんに着弾するというところでわんこが警告を発する。わんこはその槍が危険だと判断したのだ。それを聞いた鉄ちゃんが『鉄龍砲』にて槍を弾き返そうと試みるが間に合わず鉄ちゃんに突き刺さる。
「鉄ちゃん。大丈夫ですか。」
鉄ちゃんの硬い鱗を貫ぬくほどの槍を受け、膝を地面につける鉄ちゃん。それを見て心配で駆け寄ろうとする雫に向かってラフィエルは追撃する。
「今度はその龍人の盾は無いぞ人族。覚悟せよ。『裂ノ神斬』」
今度はラフィエルから斬撃が飛んでくる。ラフィエルの攻撃が鉄ちゃんの防御力でも防げないとなると雫にはどうすることもできない。呆然と攻撃が当たるのを待つしかない。そして雫の目の前は真っ暗になった。
「むむ倒し、てはいないな。逃がしたか。」
いつの間にか雫やわんこたちが消えていた。
聖神ラフィエルは自身のスキル『神眼』によりフィールド内を見渡すが自分と使徒たち以外に誰もいないことを確認する。
この神眼は視た者のステータスなどを看破する効果を有しており即座に自身の攻撃力では鉄ちゃんを崩せないことを悟り、防御力無視の貫通攻撃である『貫ノ神槍』を用いたのだった。
「なかなかの強者であったな。まあ我には遠く及ばないがな。ふはは。」
聖神ラフィエルと雫たちの最初の対決はわんこの即時撤退で幕を閉じたのだった。




