第9の街の狂信者
終わってみれば呆気なかったボス戦であったが、元々早めにこのフィールドを抜けて次の街に行くことが目的であったし久しぶりに全員でフィールド攻略が出来たため、まあ満足げな雫であった。
しかしボスフィールドに転々としているアンデットたちのドロップアイテムだけは例のごとく生理的に受け付けないため、放置というかたちとなった。いくらこれらがゲームのアイテムだといってもやはりそれらに対する抵抗感は無くならないようであった。
「あれを使って何か作る気がしないですし、無駄な物が増えるだけだから要らんです。それじゃ気持ちを切り替えて次の街に行くです。さぁ行くですわんこ。」
「わんわん」
ようやく苦手なフィールドを見なくても良くなった安心感を全開にし、駆け出していく雫たちであった。
そして翌日。雫たちが通う学校では机に突っ伏している二人の姿があった。雫と小枝である。
「…どうした。…ふたりとも。」
そんな級友を見た鈴が珍しく自分から話しかけてきた。そんな鈴は二人とは対照的にいつもより若干、親しい友人が見たら分かるか分からないかぐらいの感じで顔をほころばせていた。
「鈴のところはいいよね。撃破数ランキングにも名前載ってたし所属クランも上位入賞でしょ。羨ましいな。私も陣地防衛の方にまわらなければ良かったなー。」
「…でも貴方のクラン。…上位だった。」
「まあそうだけど、所属人数が違うから私たちは報酬をどうやって分配するかでちょっとゴタゴタしてるんだ。それに個人賞の方が報酬良さそうだしな。」
「…そう。」
合点がいった鈴は、一度話を切り聞く対象を小枝から雫に変えて再度同じように質問をする。すると、雫は顔を上げて
「説明しずらいですけど簡単に言うと、昨日は面倒な人に捕まったんです。」
そう言うとまた机に頭を戻してしまうのであった。それだけを聞いた鈴は、頭に疑問符を浮かべるが結局雫からのそれ以上の応答はなく謎のままなのであった。
「はぁー。本当に昨日は散々な目に遭ったです。やっとあんなフィールドから抜け出せたと思ったらあんな人に目をつけられるですし。わんこ。もしあんな感じの雰囲気の人が近づいてきたら知らせるです。すぐに逃げるですから。」
「わんわんわん」
雫は周りを伺いながら昨日の出来事を思い出していた。昨日は雫もストレスから漸く解放され、いつもよりもテンション高めであったことも災いして住民の一人に話しかけてしまったことが原因であった。
その雫が話しかけた女性は信者であった。何の信者かと言われればこの街の先のフィールドのボスである、神を名乗るモンスターの信者であった。こういうことは第5の街にもあったが、どうやら今回の街はほとんどの住民が差こそあれどこのモンスターの信者であるのだという。
そして雫は不運なことにその信者の中でも狂信者と呼ばれるモノを引いてしまい、そこから逃げても逃げてもその神について話を続けられると言う拷問のような目にあわされてしまったのであった。
「言ってる内容はほとんど意味不明だったですけど、あいつらは怖いです。出来るだけ遭遇しないようにするです。」
雫はフィールドにいるときよりも慎重に進んでいくのであった。




