イベント報酬はギルドカード
時間が流れ遂に様々なプレイヤーの思惑が入り交じる、第二回クラン対抗戦当日を迎えた。各クランとも入念に準備を重ねて来ているようであった。
イベント開始まで30分を切っており各プレイヤーたちは、開会式が行われる特設フィールドに続々と訪れていた。そんなイベントを目の前にして興奮気味のプレイヤーたちの間ではある話題で持ちきりであった。
「おいおい、遂に最強決定戦の一位二位の狼とドラゴンを従えたあの頭おかしい女がこのイベントに参加するらしいぞ。」
「はぁ? マジかよ。前回のクラン対抗戦には出場してなかったじゃねぇーかよ。まさかどっかのクランに?」
「やベーな。」
そんなプレイヤーたちの話し声を遠くから聞いている者がいた。
「ふふふ。やはりあの人の影響力は凄まじいですね。予想以上に効果がありますよ。」
その者、リューノは自分の作戦が思い通りに進んでいるためか、顔には悪い笑みが浮かんでいた。今回のイベントは陣地取り。陣地を取るのにも守るのにも人手が欲しく零細クランでは上位入賞が難しくなってしまう。そのため雫たちパーティーを使って混戦に持ち込むことに勝機を見出だしたリューノなのであった。今の彼は完全に黒幕気分であった。
そんなのと同類と思われたくないのかウロフとゆり、そして鈴の3名はリューノを含むクランメンバーとは離れた場所に陣取っていた。
「やっぱりよ。気にくわねぇーよ。何であんなやつが俺らを仕切ってんだよ。」
「ウロフ、しょうがないですよ。リーダーが忙しくてゲームに入れないからって指名したのがリューノなのですから。現に作戦は成功しているでしょう。我慢してください。今日のイベントにはリーダーも参加するらしいですし。」
「チッ。あんなチンチクリンどもが掻き回さなくても勝てるんだよ。」
ウロフとゆりがそんな会話をしていると鈴も珍しく話に参加してくる。
「…思わない。」
「あ?何がだよリン。もう少し長めに話せよ」
「……作戦が成功、…思わない。」
鈴はそれだけを言うとまた黙ってしまうのだった。
そして第二回クラン対抗戦が始まる時間となりモニターに司会が映り、挨拶を始める。今回のイベントにはプレイヤーの大半が参加しており、一つのフィールドでは混雑するため開会式用のフィールドを複数用意してあるのだ。
「さて本日は第二回クラン対抗戦。陣地取り合戦に参加してくださいましてありがとうございます。」
司会はそのまま今回のルールを説明しだすがプレイヤーたちはそんなもの聞いておらず、皆イベントのことで頭がいっぱいなのであった。
そんなプレイヤーたちの中には、狼と龍と白狐と妖精を従えた話題の少女の姿はどこを見渡しても見当たらないのであった。
そんなイベントを楽しみにしているプレイヤーたちを余所に見て、通常のフィールドを進むプレイヤーの姿があった。
「やっぱりこの第8のフィールドは薄気味悪いです。いるだけで気が滅入るです。」
そのプレイヤーはやはり雫なのであった。そんな雫に対して心配そうにわんこが、
「くぅーん」
イベントに参加しなくて良いのかと尋ねると、意外そうな顔をして雫が聞き返す。
「あれ?もしかしてわんこたちはクラン対抗戦に出たかったです?」
それは雫なのではないかと雫の態度からそう判断していたわんこたちは、わんこが代表して疑問を返す。すると、
「もしかして私がギルドに入れなくて拗ねてたからそう思ったんですか。私はギルドに登録してないだけでイベントに参加できないのが悔しかっただけです。まあ抜け道も考えてたみてたですけど…」
そんな雫はギルドに自分の意思ではないが登録できたことによりイベントへ参加資格を得たのだ。しかしその代わりに参加意欲を失ったのであった。
「ハルにアイテムをあげるくらいの参加も考えたですけど、まあ色々面倒ですし。」
それをやるくらいならば参加すると続ける雫。そんな説明を受けてわんこたちも納得したようで頷く。そういえばこんな感じの人だったのだ。
「結局、このカードが何で手に入ったかはわかんねぇーですけど、ラッキーだったです。」
今回、雫はギルドに入れないため縁の無い物だと思っていた、ギルドカードを自分名義で手に入れた。ただギルドに入れないのは変わっていないため使い道は今のところ無いのだが。
「まあそれじゃあそろそろ先に進むです。今日で第8のフィールドをクリアしてやるです。」
今回のイベントは様々な思惑が入り交じっていた。しかしやっぱりどこかずれてる雫はそれに巻き込まれながらも、その事にすら気がつかなかったのであった。




