鉄ちゃんたちの探索
鉄ちゃんが見知らぬ洞窟に足を踏み入れている頃、わんことウロフの戦いも一段落ついていた。「くそが。なんでこんな犬っころに勝てねぇーんだよ。てか一撃もあたらねぇーよ。」
戦いというかわんこの一方的な虐殺に近いかもしれないが、ウロフもよく懲りずに勝負を挑むものである。
「わんわんわん」
ウロフは一応、獣人のため雫ほど明確にではないがわんこの言わんとしていることが理解できた。わんこは前よりも動きが良くなったとウロフを褒めているようであった。
「ちっ、犬っころに褒められてもなぁー。」
生意気な口を利くウロフを見て微笑ましくなるわんこはご機嫌であった。
そんな時わんことウロフは声をかけられた。
「ふふ、ウロフ今日も今日とてよく飽きずに勝てない勝負を続けられるものだよ。相変わらずこてんぱんじゃないか。」
「ちっ、なんのようだよリューノ。てかその人を馬鹿にしたような笑いかたを止めろ、テメーこそ相変わらず性根が腐ってやがる。というか何のようだ。」
リューノと呼ばれた青年はこの前ハルと会ったときに鈴やウロフと一緒にいたプレイヤーの一人であるはずなのだがウロフとは仲が良くなさそうであった。リューノの格好は後衛職の魔法使いを連想させるローブを着用しており賢そうな見た目であった。完全に前衛職で脳筋なウロフとは対極そうな人物であった。
「ふふ、まあまあそう怒らないでください。今日はウロフ、君じゃなくてそこにいるわんこ殿に用があってきたのだから。という訳で少しお話ししてもよろしいですか?」
リューノはそう言ってわんこに近づいていく。
「うーわんわん」
わんこはそんなリューノを警戒し、鳴き声をあげる。
「まあまあそんなに警戒しないでください。あなたに損はさせませんよ。話と言うのもあなたの主人であるシズさんに関することなのですから。」
そう言うリューノの顔は作ったように人の良さそうな笑顔を浮かべていた。いくら胡散臭そうな相手でも雫に関することとなるとわんことしては聞かないわけにはいかず、しかたなしに話をすることにするのだった。
そんな頭を使いそうなわんこたちとはうってかわって洞窟に入っていった鉄ちゃんは小鉄たちを総動員させて戦闘を行っていた。
フィールドに出現するモンスターには傾向が存在しており、この洞窟に出現するモンスターの傾向は耐久力に優れているがスピードに乏しいであった。例えば、金属で出来た甲羅を背負った亀や体が鉄鉱石な蜥蜴など様々なモンスターが出現してくるのだ。
それらのモンスターは、スピードがないため攻撃を当てるのは容易だが、その耐久力は驚異的であり鉄ちゃんの爆拳を食らっても倒れないようなモンスターも存在した。そのため鉄ちゃんは小鉄たちにも協力してもらいながら洞窟の探索を進めていった。
最初の頃は小鉄たち皆で協力して戦闘を行っていたが、鉄ちゃんの進化とともに強化されていき、今では初期の鉄ちゃんを凌ぐほど強くなっており個人で戦闘をこなせるように成長していたのだった。
そして、この洞窟も特徴が顕著に存在していた。ここに出現するモンスターの傾向と類似してこのフィールドにも金属鉱石が多数見ることができ、その貴重さと珍しさは加治屋や宝石商からすれば宝の山と言っても過言では無い程であった。
とはいえ鉄ちゃんたちからすれば、どれが貴重なのかなどわからないし興味もなく、それを見分けられる知識もないため関係ないのであるが。
「………………」
とわいえ金属の価値は興味がないが、鉄ちゃんはこのフィールドにある金属類を見て戦闘に活かせないかを考える。鉄ちゃんの持つスキル『鉄の世界』の効果であるフィールドの鉄化とそれらの操作を応用して他の金属を生み出せたり、操れたり出来ないかを思案していた。しかし鉄の世界と名前がある通りさすがに鉄以外の創造や操作は無理なようで、鉄ちゃんは肩を落とす。そう簡単にスキルを応用することは出来ないようだ。しかし、
「キュウ、キュウ」
「ガブガブ」
「キャッキャッ」
そんな鉄ちゃんを見た小鉄たちが鉄ちゃんを慰めるのだった。小さくて愛らしい小鉄たちに慰められた鉄ちゃんは、少し休憩して、気持ちを切り替えて洞窟の先に進むことにした。




