化身の再来と加護
ハルからの誘いを先延ばしにしている雫は、ここ数日間色々と探索していたのだが追い払ったはずのウロフが何処に行っても出没し、わんこに勝負を仕掛けてきておりそれに辟易した雫は、アンフェたちによって人払いがなされている孤児院に引きこもっていた。しかしウロフに目をつけられた当のわんこはというと、自分自身も亜人であるランに戦闘を教えてもらった経験があるからなのかウロフとの戦闘はそこまで苦ではないようであった。生意気な弟子でも持った気分のようで今日は雫とは別行動をとっているのだった。
また雫が今日はフィールドに出る予定が無いため鉄ちゃんも孤児院におらず、一人で修行をしに出掛けていった。そのため今日は雫の回りにはアンフェとシロしかいない。
いつもの孤児院なら三人だけだと子どもたちの遊び相手を勤めるにはとても手が足りないのだが、今日に限ってはわんこたちの別行動が許されるだけの特別なイベントがこの孤児院で起こっていた。
「ねぇねぇシズさん。なんであのせーじゅあんなに光ってるの?」
「そうだよ。そうだよ。いつもはもっと大人しいのにさ。今日はすげー光ってるんだぜ。しかもアンフェちゃんなんか聖樹の回りをぐるぐる飛んでるし。」
「そんなこと言ったら回りのキノコさんなんか一緒になって光ってるよ。へんなのー」
今日は雫がこの孤児院に聖樹を植えた目的の一つである、聖樹の素材が採取可能になる頃合いであった。従ってあの聖樹の化身も顕現できるようになるのだ。その為なのか聖樹が先程からずーと神々しく輝いており、その光に見とれてかいつもは雫に遊んでくれと迫ってくる子どもたちもじっと聖樹を見ていた。それに伴ってかいつもチョロチョロしてるキノコたちも大人しくしていた。そして輝妖精であるアンフェはその光につられて樹の回りを楽しそうに回っていた。
「もうすぐですから静かにしていろです。どうせすぐに喧しくなるです。」
雫の台詞はすぐに的中することとなる。聖樹の光は一層強さを増し、その状態が少し続くと徐々に収まっていった。そして最終的に完全に光が収まった瞬間、懐かしい者が顕現する。
「やあやあシズくん。ちゃんと約束を守ってくれたみたいだね。ありがとう。ってなんだいこの生命体は…き、キノコなのか?」
顕現した瞬間は聖樹の化身らしい威厳のようなものを感じたがそれは雫の作り出した、生命体キノコの軍団、孤児院最年少の少女、レアルが名付けた「のこちゃんず」によって脆くも崩れることになった。しかし仕方がないだろう。突如足元に若干人の形をしたキノコが生えていたら誰でも動揺するだろう。聖樹に生えていないだけ幸いであろう。
「こほん。少しイレギュラーはあったけどまあいいや。シズくん、君には「聖樹の加護」を与えよう。重宝してくれ。」
なんとか体勢を立て直した聖樹の化身は雫に加護を与える。それが終わると好奇心旺盛な子どもたちが化身の回りに集まる。
「ねえねえ。きみだれ?名前は?どこから来たの?」
「バカだな。いまこのせいじゅから出て来ての見ただろ。」
「えー。せいじゅに住んでるの。すごーい。」
「いやー。君たち、僕を見て興奮するのはわかるが少し落ち着いておくれよ。君たちが興奮するとこの謎の生命体も…ちょっとまっ」
聖樹の化身はもう揉みくちゃにされてしまうのだった。
「楽しそうで良かったです。」
「シズさん、あれは楽しそうなんでしょうか。聖樹の化身様もう涙目ですよ。」
孤児院に新しい仲間が加わるのだった。
そんな風には見えないが凄まじいことが孤児院で起こったいる頃、修行を行おうと雫たちとは別行動を取っていた鉄ちゃんは淡々と敵モンスターを葬っている最中であった。
「……………」
雫たちが回りにいないと本当に静かであった。しかし集中するには最適のためどんどんフィールドの奥に足を進めていく。
モンスターの殲滅に集中しすぎてかなり奥の方まで来たしまったことに気がついた鉄ちゃんはそろそろ雫の元に帰ろうとする。しかし鉄ちゃんは目の端で洞窟を発見してしまう。一瞬動きを止めた鉄ちゃんは無言のまま洞窟に入っていくのだった。




