クラン同盟
第二回クラン対抗戦が間近に迫ってきており、各クランともども、対抗戦に向けて準備に邁進している。そのため街中やフィールド内のいたるところでプレイヤーたちが活動しており、何時もは誰もいないような場所にまでプレイヤーが侵食してきているため、いつもと変わらずにマイペースにプレイしている者、雫たちは行き場を失ってしまっていた。
「なんで何時もは誰も居ないところまで人が来るですか。おかしいです。これじゃあゆっくりと読書もできないです。ねぇわんこ。」
「わんわん」
雫は、『昇華』を皮切りに色々な古代式錬金術関連のスキルを修得しており、シロとアンフェもそれに負けじと古代魔法の修得に力を入れていた。しかしそれらも対抗戦効果であまり出来ていない。その事もあってプレイヤーたちの不満を口にする雫なのであった。
孤児院に訪れてもいいのだがそこでも結局子どもたちと遊ぶことになり読書に集中は出来ないだろう。そのため何処に行こうか悩んでいると、フレンドからのコールがかかる。雫の少ないフレンドからの珍しい呼び掛け。お相手はハルであった。ハルからの用事はハルのクランのホームに来て欲しいと言うものであった。暇をもて余していた雫は二つ返事で了承するのだった。
「しっかしいつ見てもでっかい建物です。」
何度かここには訪れている雫なのだが、いつ見てもビックリさせられる圧倒的な大きさを前に立ち止まってしまうのだ。そして中に入るとすぐにハルが見つかった。
「やっす。ハル、来てやったです。それで私を呼ぶなんてどんな用事なんです?」
と尋ねる。ハルは複数人に囲まれていたが、雫の声を聞くとすぐに反応する。
「あっシズさん。お久しぶりです。今日は来てくれてありがとうございます。それにちょうどよかったです。今日の用事はこの人たちが関係あるんですよ。」
ハルはそう言って自身の回りのプレイヤーたちを指す。その中の一人は雫も知っているプレイヤーであった。リアルでの友達でもある鈴である。
「あれ?リンじゃねぇーですか。ゲームで会うのは久々です。」
「…久々。」
雫たちが再開の挨拶をしていると、その間を割って入ってくる乱暴そうな獣人のプレイヤーがいた。
「おいおいハルさん。本当にこんなちんちくりんがこのゲームのNo.1プレイヤーなのかよ。絶対嘘だろ。」
「そんなこと無いですよ。シズさんは本当に強いですから。」
とハルは否定するが、雫としては身に覚えの無い話のため、
「何の話か知らんですけど、結局ハルの用事ってなんです。何もないならここで読書してもいいです?」
スルーすることにした。獣人の青年は明らかに無視されて怒っているようだが、雫はそんなことお構いなしにハルに話をふる。
「えーとですね。もうすぐ第二回クラン対抗戦があることはご存知ですよね。それでですね。私たちのクランとリンさんたちが所属しているクランは、同盟を結ぼうと考えているんです。」
第二回クラン対抗戦は、簡単に言えば陣地取りのため複数のクランが協力しても有りといえばありなのだ。とわいえ結果的に取った陣地を折半しなければならないためデメリットもあるのだが。
「リンさんところのクランは、まだ小規模クランで武器などの装備に不安があるそうなのでそこを私たちが補おうと言うわけです。」
ハルはそうやって胸を張りながら雫に今回のイベントの戦略を説明していく。しかし雫は、難しい顔をして、
「それでハル。私はなんで呼び出されたんです?」
「わ、わかりました。それでですね、シズさんはクラン対抗戦には出場しないんですよね。それなら私たちの同盟に加入してくれないかなと考えまして。対抗戦に参加しなくてもいいですから、道具なんかの提供をお願いしたいんです。報酬は私たちのクランが獲得した報酬から出しますから。」
雫の厳しめな目にビックリして捲し立てるように用件を話すハル。するとまたもや獣人が話に入ってくる。
「だからよハルさん。あんなちんちくりんを入れる必要ねぇーよ。俺たちだけで大丈夫だぜ。」
「お、おいウロフ言い過ぎだぞ。」
回りの者が注意しようとしたとき。
「うるせーです。わんこ。」
「わんわん」
ついに我慢の限界に達した雫がわんこに指示を出す。すると次の瞬間、ウロフと呼ばれた獣人の回りを黒い影が包み込む。抵抗も虚しく影の箱に閉じ込められたウロフの声は聞こえなくなる。態度に問題があっても実力は認めていたウロフが簡単に行動不能にされて、静まり返る他の者たちをおいて雫は、
「ハル。少し考えさせて欲しいです。それじゃあまた今度です。」
静かに去っていくのだった。




