古代式錬金術
現在、雫たちは第4のフィールドに来ていた。少し前まで砂漠や遺跡などばかり見ていたため、雫が緑が生い茂ったフィールドに行きたいと提案したのであった。とわいえフィールドに来たといってもモンスターと戦闘を行ったり何処か探索に出掛けたりするのではなく雫は、シロとアンフェと一緒に読書をしていた。雫は古代の錬金術について記された本を、シロとアンフェは古代魔法についての本を熱心に読んでいるのだった。特にアンフェは前回の遺跡の探索で自身の攻撃手段の乏しさを痛感したため古代魔法を覚えて戦力を増強させようという思惑があるため真剣に本のページをめくっていたり。
しかし普通フィールドでそんな無防備を晒していれば出現してきたモンスターに襲われそうなものだが、雫たちの回りは不思議とモンスターが存在していない。というよりも雫たちの回り一面、第4のフィールドの特徴である樹すらも存在しておらずほとんど更地と化していた。その原因はというと、もちろん雫のパーティーメンバーである、わんこと鉄ちゃんなのであった。
「私たちは本を読むです。わんこと鉄ちゃんは、読みたくなさそうですしここら辺でモンスターでも狩っててくれです。」
と雫に言われたわんこと鉄ちゃんだが今更ここら辺のモンスターでは二人の相手は務まらないので早々に狩り尽くしてしまい、暇をもて余した二人は戦闘訓練と称して戦いだしたのだ。その余波で回りの樹は消滅し、地面は更地となってしまったのである。
わんこは闇夜魔法、夜に関連する魔法の中でも影以外を使いながら戦闘を行い、鉄ちゃんは『鉄の世界』でフィールドを鉄に変え、それを操りながら戦う。慣れていない戦法を用いたちゃんとした戦闘訓練だったのだが、最終的には両者とも熱くなってしまい全力で攻撃をしあい、わんこの「流星群」がフィールドの鉄を全て消失させたことを皮切りに肉弾戦にもつれ込んでしまったのだった。
こんな二人の壮絶な戦闘を恐れたモンスターたちは、雫たちというよりもわんこと鉄ちゃんの回りから逃げてしまったので結果的に雫たちはモンスターに襲われずに読書が出来たのであった。まあ普通ならそんな壮絶な戦闘が繰り広げられている場所で読書など出来ないのだが、やはり雫はマイペースなのであった。
「あっわんこ。ちょっとこっちに来てくれです。」
いまだにわんこと鉄ちゃんの泥試合は続いていたが、雫の一声で直ぐ様わんこは戦闘を止めて雫のもとに参上する。
「よしです。少しの間わんこはそのままじっとしてるです。動くなよです。」
「わんわん」
そう言って雫はわんこに手をかざして集中し出す。錬成や精製などをするときと同じような格好である。そして
「よしよしです。いくですよ『昇華』」
雫は古代の錬金術の本に記されていたスキルである『昇華』を使用した。このスキルは対象の装備品の性能を1段階上昇させる効果がある。かなり有用なスキルだが、使用には他の錬金術系統のスキルとは比較にならない集中力が要求されるようでそれは雫の消耗具合からも確認できた。
「はぁはぁです。ど、どうですわんこ。火龍の騎士全体に、このスキル、をかけてみたです。」
その言葉を聞いたわんこは実際に動いてみて装備品の性能を確認する。いつもよりも断然動きやすく感じた。
「そうですか。それはいいです。けど今日は疲れたですからまた今度他の装備にもこれを使ってみるです。それじゃあわんこもういいです。」
と言い雫はまた読書に戻るのであった。
結局、わんこと鉄ちゃんの戦闘は突然性能が上昇したわんこの勝利で幕を閉じたが、最後の抵抗で鉄ちゃんが『鋼龍砲』を乱射したため、更地と化した面積はさらに広がり、そこらはモンスターたちも怖がって近寄らないことからフィールドが元に戻るまでプレイヤーの間で安全地帯として活用されるのだった。




