砂漠の王の話
突然の返答に雫たちは身構え声のする方向を見る。するとそこには一人の青年が立っていた。
「はは、そんなに警戒しなくてもいいよ。私は君たちに対して全く敵意を持っていない。と言うか敵意を持っていても、君たちに危害を加えることは今の私には到底叶わないからね。」
砂漠の王を名乗る青年が、意味深にそう呟くと雫が反応して聞き返す。
「それはどういう意味です。」
「そのままの意味だよ。私はもう存在していない。君たちが見ているこの体は、かつて私に仕えてくれていた、ドワーフ族と傀儡族の技術の結晶なのだ。何と言ったかな、確かホログラムとか何とか、私には理解できなかったがね。まあとにかく今の私は意思だけの存在で体は存在していないから君たちを害することはできないという訳だよ。 」
確かに目を凝らしてみると青年の体は若干透けていることがわかる。しかし雫は、聞いたは良いが結局は全く理解できなかったので、
「そうですか。」
とだけ呟きこの話題を終わらせる。本題はここからである。王の部屋にたどり着いた雫たちは、どういう扱いなのかという点である。
「私にはもう体が無い。だからここを繁栄させることは叶わない。しかし、だからこそ私の願いは私に仕えてくれていた種族の繁栄なのだ。」
砂漠の王は独り言のようにそう呟くとその姿は消えるのだった。そして砂漠の王が消えた瞬間雫の前に「古代遺跡Ⅰの攻略を達成しました。」という文字が浮かぶ。いつも通り名前は公表しないようにして雫は先に進んでいくのだった。
「古代遺跡Ⅰが攻略されました。条件が達成されたため種族に傀儡族が解放されました。条件が達成されたため職業に傀儡使い、傀儡技師が解放されました。」
これがアナウンスされた後ゲーム中が騒がしくなる。新たに追加されたこれらを確認しようとプレイヤーは奔走することになる。
そんな中、雫は王の部屋で本を読んでいた。図書館などで色々と知識を蓄えている雫であるが、ここにある本は雫が聞いたことのないような物が多かった。
いつもなら攻略の報酬を見ている頃なのだが、今回の報酬は雫たちにとってそこまで欲しいものではなかったので放置することにしたのだった。
「まあ別にいいですけど武器とか防具とか貰ってもです。砂漠の騎士ですか。」
砂漠の騎士という名前のセット装備。わんこの装備している火龍の騎士と同系列の装備のようであった。
「わんこのやつと錬成して、いややっぱりやめた方がいいです。失敗しそうです。」
その後色々と考えた結果、結局報酬は放置することに決まったのだった。
「わんわんわん」
王の部屋で読書をし始めてから少し時間がたった頃、わんこが帰還する方法を見つけたと報告に来た。
「ちょうどいいです。じゃあ帰ろうかです。」
雫は本を閉じ、見繕っていた興味のある本を数冊しまって王の部屋をあとにしてわんこについていくのだった。これにて古代遺跡の探索が終了したのだった。
砂漠から帰還した雫たちは孤児院で聖樹の様子を見に来ていたのだが
「ねえねえ、シズ姉ちゃん。さばくって本当に砂ばっかりなの?」
「あのね。彼処で皆と遊んでるキノコたちがね、えーとね。何だっけ?」
「遊ぼ遊ぼ。シズねぇー」
「いっぺんに喋るなです。まあいいです、遊んでやるです。」
子どもたちの圧に負けて聖樹の様子を見る前に子どもたちと遊ぶことにするのだった。
「お疲れ様です。子どもたちも久し振りにシズさんが来てくださって嬉しいんです。」
「まあそれは良いです。すげー勢いでしたけど…
それよりも聖樹はどうです。迷惑かけてないです?なんか見る限り凄い成長してるようですけど。」
「えーとですね。迷惑は掛けられていませんよ。あの聖樹があるお陰で子どもたちが傷を負っても治りが早くなってますし。と言うか迷惑という点ではどっちかというとキノコの方が…」
「?と言うか何です?」
「いえ、何でもないですよ。シズさんにはいつもお世話になっていますから。はは。」
マリアは困ったような顔をして雫を見ているのだった。




