結局は最後は爆発
砂猫が使用していた「砂魔法」を使うモンスターが増え始めていた。それだけならば特に驚くことでも無いのだが、傀儡族特製の自立型傀儡までもが、砂魔法を使用してきた時はさすがに雫も驚いてしまう。
「やべーです。人形が魔法を使ったです。まあ確かにゴーレムも魔法使ったですけど、魔法を使える人形なんてどうやったら作れるんです?」
雫は傀儡に興味津々であった。そんな雫は、しばしば戦闘中だということを忘れ、じっと傀儡を観察してしまう場面があった。そんなことはお構いなしに攻撃してくるモンスターたち。荊のオートガード、オートアタックの機能が搭載されていなかったら、今頃雫は、砂に埋もれてしまっていたかもしれない。
「~♪~♪♪」
アンフェが雫に気を付けるように注意を促すがその言葉を聞いても雫は、
「大丈夫です。任せとけですアンフェ。」
と自信満々なのだった。どこからその自信は湧いてくるのだろうか。
そんなこんなでさすがにアンフェ、一人ではフォローしきれなくなってくるのを感じ出したため、切実にわんこたちとの合流を願い始めたアンフェの希望が一部分だけ神に通じたのだろう。いきなり大きな部屋に辿り着く。雫とアンフェは、経験上すぐにここがどこかを悟った。ここはボス部屋、ないしはそれ相当の強さを持ったモンスターの部屋であると。
「よく考えてみるとです、わんこなしでのボスと戦うのは始めてです。燃えてきたーです。」
「~♪~♪」
雫とアンフェが、気合いを入れているとその部屋から今まで出てきた傀儡の、一回りも二回りも大きな傀儡であった。ただ大きいためか、動きはそこまで素早くない。
「先手必勝です。いくです。」
本当ならボムによる爆破で始めたいのだが石壁で作られているこの遺跡が、雫のボムに耐えられる保証はない。
そのためしょうがなく雫は、『血操作』による短剣術を先制攻撃に選択した。短剣は、雫の狙い通りに飛んでいき傀儡に直撃する。しかし全て弾かれる。中には刃先が欠けてしまったり、刀身にヒビが入ってしまう物まである。
「うわー。物凄く硬いっぽいです。まあこれは小手調べみたいなものです。それなら魔法銃ならどうですか?」
次は魔法銃を連射する。銃弾はしっかりと傀儡に命中するのだが全くダメージが入った様子が無く、銃弾の中には跳ね返ってきて雫に当たりそうになったものもあった。
「あ、危ないです。危うく自分の攻撃でやられるところだったです。短剣は、論外ですし魔法銃も下手したら自爆の可能性があるです。まったくもって面倒な敵です。」
「~♪…‼ ♪~♪」
攻撃に気をとられていた雫に傀儡は殴り掛かった。その攻撃は荊が防ぐがもう何度も荊がもつ保証もない。そのためアンフェは早々と切り札の1つを切る。「神聖魔法」の数少ない防御魔法の1つ、1日に1度しか使えない大技である「イージスの盾」これは自分を除くバーティーメンバーは、10秒間、あらゆる敵の攻撃を無効化すると言う魔法であった。残念ながら動作が緩やかな大型傀儡よりもゆったりな雫では、近づかれれば勝ち目はなくなってしまう。遠距離から攻撃を食らわせて距離を詰めさせない方法でなければ勝ち目は無いとアンフェは思ったのであった。
「攻撃方法が限定され過ぎてるです。魔法銃がダメってことは、もしかしたら魔法もダメかもです。泥沼を使っても、時間稼ぎにはなるですけどダメージが与えられないなら意味ないですし。私のボム以外の物理攻撃…あっ」
雫は、傀儡から距離をとりながら自分の手札を確認する。そして魔法ではない攻撃を見つけた。思い付いた雫が取り出したのは、赤い液体が入っている瓶であった。その瓶を雫は、即座に床に叩きつけて割る。
「これは私たちが倒してきた龍の血液に色々と錬成して作り出した物です。貴重ですから覚悟するです。」
そう言って雫の回りには赤い液体が漂っている。荊を地面から生やし、銃を構えて、血を纏う。雫の姿は普通の生物なら警戒して然るべきである。しかしそんなことお構いなしの傀は、さっきと同じように突っ込んでくる。
「芸がないです。形成、凝固、発射です。」
雫は、回りの血液の半分ほどを使って大剣を作り出し発射した。狙いは走ってくる傀儡の軸足である。軸足に命中した大剣は、ダメージこそ大して与えられていないが、傀儡のバランスを多少は崩す。
体勢を立て直して再度、こちらに向かってくる傀儡に向かって残りの半分の血液で相手の軸足を攻める。傀儡はギリギリの様子で雫のもとまでたどり着き雫に向かってパンチするが、体制が悪く全く体重が乗っていない。
「『結界』です。そして『錬成の極意』を使うです。てやっ」
傀儡の拳を結界で受け止め、雫はその隙に地面に手を置く。フィールドの石で作られている床を隆起させる。隆起させる場所は無理な体勢を強いられている傀儡の足下である。そのため傀儡はついに転倒してしまう。
すぐに起き上がろうとするがその前に雫は、赤いボム、ブラッドボムを取り出してアンフェに合図する。
「爆発が遺跡にいかなければボムを使うことに問題はないです。お前は硬いですから大丈夫です。」
アンフェは神聖魔法「聖壁」を使い転倒している傀儡を囲む。その中にはいくつものブラッドボムがある。
「これで終わりです。」
ブラッドボムの爆風だけで、聖壁は壊される寸前であった。そんな爆発を直撃した傀儡は、ボロボロになっていた。しかし爆発の衝撃は、傀儡が、爆風は聖壁が全て受けたため、部屋の内部に爆発の跡は残っていなかった。




