スキルの新たなる可能性
聖樹を見終わった雫は、人通りの少ない場所まで足を運んでから、誰もいないはずの場所を見ながら、
「ここなら安心です。そろそろ姿を現しても大丈夫です。」
と呟いた。突然の言動にわんこと鉄ちゃんは不思議そうにしていたが、その誰もいないはずの場所から、
「いやーそうかい。まあ別に僕としては実体が有ろうが無かろうがあんまり関係ないから別にどちらでもかまわないけど、まあ君たちと一緒にいるなら実体が有ったほうが楽かな。」
と声がする。そして次の瞬間、突然男の子のような何かが姿を現す。いきなりのことにわんこと鉄ちゃんも警戒するが雫は何の動揺もしていないため警戒を解く。しかしそれでも得体の知れない存在が気になっている様子であった。
「まあそんなに固くならないでくれよ。と言ってもそこの妖精と妖狐は僕のことを認識できてたみたいだけどね。僕は聖樹の分体。まあ聖樹の意志を体現している存在だね。性別は中性。いや無性かな。僕って精霊みたいなものだからね。僕の声が聞こえてるみたいだったそこの女の子に興味を引かれてね。あと君から樹妖精の匂いがしたからね。付いてきちゃったよ。」
明るい声で聖樹の分体は、そう語った。アンフェは同じような存在のため、シロは仙術を身につけたためか、存在を微かに感じることが出来ていたのだった。
「まあ誰でもいいですけど、折角ですし付いてくるなら好きにするです。」
そう言って雫は分体の同行を許可するのだった。
「いやー。本当にエルフ君たちには困らされてるよ。他種族と抗争が起こったら僕のせいみたいだしね。」
語る相手がいることが嬉しいのか現状の不満を語る分体であった。そんな話を聞きながら街を見て回っていると子どもが大人に縋り付いている場面に遭遇する。
「お願いします。早く母を治してください。もうお金も払ったじゃないですか。」
「離せ離せ。こんなはした金で治して貰おうなんて勝手だと思わぬか。この汚らわしいハーフエルフが。」
「治せないなら払ったお金を返してください。」
「ええいうるさい黙れ。こんな場所に来てやったんだその分として貰ってやる。それじゃあな。」
「そ、そんな。」
子どもは呆然とその場に取り残されていた。
それを見ていた雫は分体に、
「ハーフエルフって何です?国際的なエルフですか?」
自分が持つハーフのイメージで分体に尋ねると、
「国際的ってのは知らないけど、ハーフエルフってのは他種族とエルフの間の子のことだよ。エルフはそういった子を下に見る習性があるんだ……僕としてはあの子の話を聞いてあげて欲しいな。」
説明を聞いて納得して立ち去ろうとした雫を分体が止める。面倒そうな顔をしたがしぶしぶその子どもに話し掛ける。
「大丈夫かです?」
話し掛けられた子どもは、最初はビクビクしていたが事情を話す。
「母が病気なんです。お願いします助けてください。」
その母親の容態を見ないことにはどうとも言えないため雫はその子の家に行くことになった。
その母親は見た限り雫にはただ眠っているようにしか見えなかった。しかし分体は、
「樹木病か。厄介だね。これならさっきのやつが逃げたのもわかるよ。」
分体が言うにはエルフには人族にはないある因子を持っておりそれが妊娠の時に入ってしまったのだ。これはエルフにとっては生命維持に必要なものだがそれ以外の種には害なのだと言う。
「まだ進行してないけどこれからどんどん症状が体に現れるはずだね。どんどん皮膚が硬くなっていった最後には樹のように硬くなって呼吸ができなくなって…。一番厄介なのはこの病の原因がエルフにとっては大切ってことかな。だから治療法も確立されてない。聖の化身たる僕も助力したいけど難しいな。」
回復魔法等では効果が無く、毒でもないため解毒等の方法もダメだと言う。そんな中、雫は、
「うーん。わかんないですけどこれなら治せるかもです。」
と言い出す。一同が驚くなか雫は続ける。
「ようするにこの女の人の中には不純物があるってことです。だから『精製術』を使うです。」
雫にとっても初の試みだがやってみることにした。
「じゃあサッとやるです。『精製術』」
雫にとってはただの思い付き。ダメ元だった。スキルの発動は困難であった。『精製術』の発動にこれほど時間を掛けたことはない。雫はかなりの精神力を持ってかれた気がした。しかしスキルの発動に成功した。対象物がスキル対象外ならば発動しないはずのスキルが発動したのだ。
「はぁはぁスキルが発動したですけどこの人に変化はあるです?」
分体に尋ねると、
「もっと、最低あと数度の使用は可能かな?」
と、聞き返される。
「任せろです。」
運営すら思い付きもしなかった『精製術』の使用方法に雫は多大な疲労感に襲われながらスキルを行使した。何度かの発動に成功した時。
「後は任せて。これなら僕でも治せるくらい因子の濃度が下がったよ。」
分体は雫たちが知らない術を発動。聖樹と名が付けられる程度には凄まじい効果であった。そのお陰もあり女は完治に向かうこととなる。
「本当にありがとうございました。お礼も出来ないけど…」
「礼なんていらんです。」
「そうそう。まあ後、ちゃんと毎日僕特製ポーションを飲ませてね。じゃないと再発するから。」
「は、はい。」
そう言って雫たちは去っていくのであった。
「それじゃあ私たちはそろそろこの街を出てくです。さよならです。」
精製術の新たな運用方法から別のスキルも試したくなった雫はこの街から去ることを決めた。すると、
「いやー君はさっきお礼は不要って言ってたけど聖樹たる僕が代わりにお礼をしよう。」
「いやいらんです。」
雫がもう一度言うが、
「これはお礼と同時に僕のためにもなる一石二鳥の行為さ。さあ受け取ってくれ。」
やっぱり裏があった分体のお礼。それは「聖樹の苗」であった。
「それから採取する素材は君のものだ。それが君へのお礼。そしてそれを植えてくれれば僕はそこにも顕現出来るからね。出来るだけ早めに植えてくれよ。」
雫の心境は微妙なのであった。




