森精の街の聖樹
勿体ぶって登場したのに残念ながらわんこによって瞬殺されてしまったエルフたちを放っておいて雫たちは先に進んでいく。するとすぐに森精の街と思われる場所に到着した。
「おおここですか。意外に簡単に到着したです。もう少し迷ったり、苦戦したりすると思ったですけど、まあリンもいたですしこんなもんかです。」
雫は、こう言っているが実際はこの場所に辿り着くには雫たちの前に現れたモンスター以外にも障害は存在する。まず森のフィールドということで同じ様な場所がフィールド内にいくつも存在し、プレイヤーたちを惑わしてくる。しかもそれに拍車をかけるように魔法が得意な種族であるエルフ特有の守衛方法である、認識阻害や五感を阻害する魔法や結界を至る所に設置してありさらにプレイヤーを混乱に陥れるのだ。
しかし雫たちのパーティーは、植物と仲が良いお陰で森の中で迷うことのない雫を筆頭にそういった状態異常に耐性を有する鉄ちゃんやそれらの魔法を駆使するアンフェなど、相手が悪かったと言えるだろう。
街に到着したため皆で街の探索だ、と意気込んでいた雫の思惑に反して鈴は、
「…それじゃあ。」
と来た道を戻っていってしまった。メインの街のようにこういった街も簡単に行き来出来るようになっているため鈴は、本来の目的であるレベル上げに戻って行ったのであった。
「うう残念です。でもしょうがないです。それじゃあ私たちはこの街の探索に乗り出すです。」
と言うことで鈴との協同探索はこれにて終了ということとなった。
耳が特徴的なエルフたちが住民のほとんどを占めている森精の街には、まだプレイヤーの数も少なく見渡す限りエルフという状況の中街を闊歩している様子はまるで異国の地を歩いている感覚に似ていて少し楽しくなってきていた。とはいえ目的もなくふらふらするのもなんなので雫は、
「そう言えばこの街の目玉スポットに聖樹っていうでっかい樹があるらしいです。というかここからでもチラッて見えるですけど。折角ですから近くで見てみたいです。」
とわんこたちに同意を求めると全員が了承したため雫たちは聖樹を目指すことに決めた。
森精の街の聖樹の葉や枝などを使って作り出されたアイテムの内ほとんどの物が何かしらの恩恵を得るのだと言う。また聖樹のそばにいるだけで傷の治りが早くなるといったことが実際に起こっているのだった。そのためこの聖樹の素材や恩恵はこの街の住民であるエルフが独り占めしているのだ。しかしそれを好ましく思っていない種族も多くそれらの襲撃に備えて警備隊が聖樹の回りに常駐しているのであった。 そのため誰かが聖樹に触れようとしようものならすぐさまエルフたちに取り囲まれてしまうのであった。
「うーん。話を聞く限りですけどなんか面倒なことになってるですね。まあでも私には関係ないです。私はでっかい樹を一目見たいだけですし。まあ折角ですしそんな凄い聖樹とも仲良くなりたいもんです。うーん難しいですかね?」
植物と仲良くなれる加護を持つ雫ならではの考え方であった。
街の中心に向かって歩いていくとどんどん聖樹が大きくなっていく。結局樹の根本付近に着くと雫が想像していたよりもはるかに大きな樹が目の前に存在していた。さすがにこれ以上大きな樹を雫は見たことがなかったため雫はとても興奮した。
「凄いです。凄いです。こんな大きな樹は初めて見たです。いやー感動したです。」
雫は感動のあまり聖樹に近づきすぎてしまう。すると警備員が駆けつけてくる。
「おいそこのお前、何をしているそれより前に進むことは禁じられている。さっさと戻れ。」
それを聞いた雫は、
「ああ、ごめんです。すぐに……なんです?」
引き返そうとした雫だったが動きが止まる。
「おい、何をしているんだ。」
警備員の怒気が強まる。今にも飛び掛かりそうになったくらいで雫が動き出す。そして警備員を見つめながら
「私は貴方たちの物ではない。私はただここに存在しているの。だそうです。」
「何を訳のわからないことを言っているか。」
「別に大したことじゃないです。」
その後雫は、聖樹より離れていくのだった。




