新フィールドの先
「…凄い」
鈴は、十数本の短剣の飛来を生み出した雫に対して賛辞を浴びせる。まだこのゲームをプレイし始めて日が浅い鈴であったが今の投擲が魔法によっての攻撃でないことがわかった。それならば何らかのスキルによって短剣を飛ばしたことになる。そうならば全弾が命中したという所に雫の凄さを感じたのであった。
「私が知ってるモンスターじゃないモンスターもいるですね。もしかしてここって噂の新しく発見されたフィールドです?」
どんどんと進んで行く雫たちと鈴であったが、見慣れないモンスターの群れに雫の足が止まる。するとその問いかけに鈴は、
「…そう。」
と一言だけ答える。このフィールドを進んで行くと噂のエルフたちが住んでいるという街である「森精の街」が広がっている。その周辺のフィールドは、第4のフィールドよりも強いモンスターが出現するため鈴の目的のレベル上げにもってこいなのであった。
そうこうしているうちに、樹の影から二匹のモンスターが飛び出してきた。兜蟲と鍬形。カブトムシとクワガタのシルエットだが、大きさがまるで違い雫たちの二回りも大きい。両者とも強靭な外骨格で身を守り、自信が持つ自慢の角と大顎によってこの森のフィールドでの生存競争に勝利してきた強者であった。その二匹を見た雫は鈴に、
「兜と鍬どっちがいいです?」
と聞く。すると
「…兜」
とだけ答え、そのまま兜蟲に突進していく。
「それじゃあ鉄ちゃん。鍬の方を頼むです。」
その指示に従い、鉄ちゃんは鍬形の方へ向かっていく。
カブトムシは、自身の体重の20倍程度の重量を引くことが出来るとされている。その理論で言えばこの兜蟲は、どれ程のパワーを持っているのだろうか。鈴の接近に気づいた兜蟲は、全身の力を角先に集中させ、渾身の一撃で鈴を一突きしようと試みる。
「…甘い。」
それを食らうほど弱くない鈴は、それを回避しながら突きによって隙が生じているのを見計らって「吸血刀」ではない方の刀で攻撃する。しかし兜蟲の驚くべき堅牢さによってその攻撃は弾かれてしまう。
「…固い。」
体勢を立て直した兜蟲の連撃を回避しながら鈴は、次のてを考える。
鍬形を相手取る鉄ちゃんは、空中からの遠距離攻撃によって大分敵の体力を削ることに成功していた。相手も飛ぶことは可能なのだが、飛び立つ瞬間の隙だらけの所を狙われたら堪らないので、飛行戦に踏み出すことができないのだ。戦況は鉄ちゃん有利てあったのだが鍬形が不利だと感じ鈴の方に行こうとしてしまう。
「………………!」
鍬形の相手を任された鉄ちゃんとしては困った行動であったので、慌てて鍬形の前に立ちはだかる。するとそれを狙ったかのように素早く持ち前の大顎で鉄ちゃんを挟み込んでしまう。
「キュッキュッ。」
鍬形は、自分の勝ちパターンに持ち込めて嬉しそうであったがしかし異変に気づく。挟み込んだはいいがそれより先に進まないのだ。通常なら真っ二つに切断しても何ら不自然でない自分の大顎が挟むのでやっとなのであった。否それも語弊がある。挟むのでやっとなのでなく挟むことも儘ならないが正しい。鉄ちゃんは自身の両腕で拘束を突破する。そして鉄腕を2発、止めに「鉄龍砲」を1発放つことで、鍬形は絶命するのだった。
鍬形が倒された頃には、鈴と兜蟲の対決も終わりを迎えようとしていた。先の攻防で自分の攻撃力では兜蟲の外骨格を破れないと悟った鈴は、攻撃を兜蟲の間接部に集中させる。完全に切断できずとも機動力を奪われた兜蟲は、最早どうすることも出来ないまでになっていたのだった。
「…これで終わり。」
最後は晒された防御が薄い箇所に攻撃を食らい兜蟲も地に伏すのだった。
それからも続々と現れるモンスターとの戦闘を越えていく雫たち。アンフェの『人気者』は進化したことによって強まっているかもしれない。
「そう言えば、リンの妖精ってどんなのですか?姿が見えないですけど。」
「…人見知り。」
妖精の中にもアンフェのように人懐っこい者と契約者以外には姿を見せない者なと色々と存在し、鈴の妖精は、後者なのであった。
「この先に4人いるです。人みたいですからもうエルフとやらかもです。」
とわいえエルフを大して知らない雫なので断言はできない。しかし新たな出会いにわくわくしている雫なのである。
仲良くしたいと思っている雫の思いとは裏腹にその4人から攻撃が仕掛けられる。小手調べの弓矢である。ただその程度の攻撃は雫たちには通用しない。飛来してきた矢は人数分の4本。半分は雫が打ち落とし、もう半分は鈴が切り落とすのであった。
「これはなかなか。さすがはここまでこれる輩ということだろう。さすがにこの程度では傷1つ負わんか。」
奥からは、耳に特徴があるエルフが現れてくるのであった。




