新たな出合い
孤児院での花火大会から数日間、雫たちは第8のフィールドで特に雫、アンフェ、シロが取得した新しい魔法やスキルの使い方を練習して過ごしていた。
そうこうしているうちに夏休みももうすぐ終わりに近付いてきて、この夏ゲームに夢中となっていた学生たちは溜まりに溜まった宿題を片付けるのに必死になっているためゲームをプレイしている人はいつもよりも減っていた。
そんな中、宿題はコツコツやる派の雫は今日も普通にゲームにログインしていた。そんな雫の今日の予定は、珍しいことにNPCではなくプレイヤーと会う約束をしているのだった。
「へー。ここですか。話には聞いていたですけど実際に見ると大きいです。」
雫が会う約束をした相手とはハルというか生産職プレイヤーであり、生産系クランの中で最大の規模を誇るクランの盟主であった。そんなクランの本部に来てほしいと言われて来た雫なのであった。
「本当ですか。これも皆シズさんのお陰ですよ。これもシズさんたちが取ってくれたんですし。」
ハルは第1回目のイベントにて手に入れたセット装備「生産の極意(婦人用)」の1つである、エプロンのような装備を見せながらそう言う。
「まあその事なら正直私はほとんど何もしてないです。と言うかハルが私に頼んだからこそです。それよりも今日は何の用ですか?」
雫が話題を変えると、
「えーとですね。私としては何かお礼をしたいなって思っているんですけど…」
「だから必要ないです。」
「ですよね。でも…」
ハルは本当に雫に感謝をしておりお礼をしたくて堪らないのだった。
「うーん。そう言われてもです。今何か欲しいもの無いですし、まあ助けて欲しくなったら私から連絡するですからその時は頼むです。これでいいですか?」
と雫が妥協案を出す。ハルは渋々だがこれを承諾するのだった。
その後は雫とハルは仲良くお喋りをしていた。主にはこのゲームで起こった出来事などをハルから聞いていた。その中には第6の街に入れるようになったプレイヤーが増えてきたと言うことや、新しく発見された街やフィールドの情報などであった。
「今話題になってるのは森精の街と鍛冶の街の発見ですかね。森精の街は住民がエルフ何ですって。しかも街の中心に聖樹って呼ばれる大きな樹が生えているそうなんですよ。それと鍛冶の街は、ドワーフって言う種族がいっぱいいるそうなんです。第3の街よりも凄い技術とかが沢山あるみたいなんですよ。本当に行ってみたいって思います。」
ハルは生産職らしい願望を吐露していた。
そんな時1人の女の子プレイヤーがここに入ってきた。この場所はクランメンバーの溜まり場兼マーケットの役割を果たしておりよく色々なプレイヤーが訪れる所なのだ。
「綺麗な女の子ですね。お人形さんみたいです。」
雫がそう呟くと、
「あっリンさんですよ。今話題になっているんですよリンさん。突如として現れた美人剣士、しかもとんでもない実力の持ち主で、ゲームを始めたのは、つい最近らしいんですけどメキメキと頭角を現しているんですよ。あと私のお得意様です。」
ハルが自慢げに無い胸を張る。するとその話題のリンからお声が掛かる。
「…ごめん。」
「ああリンさん。また使い潰しちゃいましたか。定期的に武器の手入れはしないと駄目ですよ。」
「…善処する。」
「もお。」
話を聞くとリンは、基本単独でモンスターを狩っているため、剣が効きづらい相手にもその技量でなんとかしてしまえるのだが、残念なことに武器の方が持たないのだと言う。それを聞いた雫は、ちょうど使い道の無い刀があることを思い出す。
「ハル。その問題ってこの刀なら解決できるです?」
雫は「吸血刀」をハルに見せる。するとハルは興奮した様子で刀を凝視し、調べ出す。
「面白い効果が付加されています。これはユニーク武器でしょう。というかこれをリンさんに譲渡するんですか?」
リンもその刀の効果を見て首を傾げながら、
「…いいの?」
と尋ねる。
「ああいいです。気に入ってくれたならあげるです。私がそれを使う日は一生来ないと思うです。」
雫のステータスで刀を操るのはキツイ。さらに雫の新スキルの『血操作』の関係上血を吸われるのは困るのであった。
「…ありがとう。」
その後吸血刀は、ハルがリンに合うように調整する事となったためリンは、貸し出し用の武器を携えてフィールドに出ていったのだった。そのため雫はハルと別れてその日はそのままログアウトするのだった。
それから少し経ち、遂に長かった夏休みも終わり、新学期がスタートする。久しぶりの学校ということで皆そわそわしているのだが雫は相変わらずマイペースに本を読んでいる。すると担任の先生が教室に入ってくる。
「よーし席につけ。今日から新学期だ。夏休み気分を早めに切り替えていくように。それと皆にお知らせがある。今日からこのクラスに新しい友達が増えることになった。まあ転校生と言うことだ。皆仲良くするように。よしじゃあ入ってきてくれ。」
いきなりのことに教室中がざわつく。そのざわつきは、教室に転校生が入ってくるとさらに増す。その転校生の容姿が優れていたからであった。可愛い容姿の雫とは反対に大人っぽい綺麗な顔つきに男女共に見惚れるのであった。その時、雫もクラスメイトとは、別のことで驚いていた。
その転校生が先日会ったばかりのリンだったからであった。
「…北条鈴。宜しく。」




