屋敷の隠し部屋
気力を失って呆然と立ち尽くしていた吸血鬼を倒した雫は結局残ってしまった鍵を見つめていた。
「折角見つけたですけど、本当にどこに使うです?まさかこの屋敷の鍵じゃないですか?」
とそんな心配をしていたが、雫にとっては嬉しいことに杞憂に終わることとなる。
「わんわん」
わんこが吸血鬼と戦った部屋の奥に何かあるのを見つけたようで駆け出していく。それを見た雫は、そういえば吸血鬼は、自分の食用である者たちは他にいるという言葉を思い出した。この屋敷にそんな人物たちの部屋は存在していなかった。とするとそいつらがいるのはこの部屋よりも奥ということになる。
「そういうことですか。というか少し待つですわんこ。」
雫は駆け出していったわんこを追いかけていき。それを鉄ちゃんとアンフェが続くのだった。
わんこが行った方向にも先程の部屋と同じくらい大きな部屋があった。雫が扉を開けると子どもの悲鳴が部屋中から聞こえてきた。雫は、子どもたちが何故自分を見て怯えているのかわからなかったため、子どもたちは放置し、部屋の中の物色を始める。雫が部屋の中に入ってから少したつといつもの人物と違うことに疑問を持った子どもたちの内一番大きな子が雫に問い掛けてくる。
「お、お前たちは誰だ。いつものやつとは違う。あ、あいつはどうしたんだ。」
雫は多分自分が吸血鬼の仲間だと思われていることに気がつき、それを訂正する。
「そういうことだったですか。なら安心するです。お前らを捕まえてた吸血鬼なら倒されたです。一応お前らは自由です。」
突然のことに驚きながらも子どもたちは、喜びの表情を浮かべる。中には疑いの目を向けてくる者もいたので、
「嘘だと思うなら外に出てみればいいです。」
と言うと、何人かの子どもたちが部屋から出ていく。
「あっ不味いです。わんこ。あの子たちが屋敷のモンスターに襲われないために守ってやるです。」
と指示を出す。その姿を見た子どもたちが1人、また1人と部屋から出ていくのだった。
「あったです鍵穴。」
そんな一騒動あったが、雫はしっかりと目的を果たしていた。わんこが見つけた鍵は子どもたちがいた部屋の奥に存在した隠し部屋の鍵であった。
その隠し部屋には、多少の財宝や雫が喜びそうな分厚い本の他に2点。1つは1本の刀であった。名前は「吸血刀」。効果は単純で相手を切れば切るほど相手の血を吸い切れ味が増すという物であった。とわいえこれを装備できるのはわんこか鉄ちゃんであるが、わんこは火龍の騎士を装備してるし、鉄ちゃんの人型での戦闘スタイルは徒手空拳のためこれが活躍するかはわからないが。そしてもう1つは『血操作』というスキルが手に入った。これは屋敷の吸血鬼たちが使っていた『血武器創造』よりも使い勝手が良さそうなため雫が気に入ったのだった。
「今まで採取してきた中で錬成の材料として使い勝手が悪かった血液にやっと使い道ができたです。」
薬師などが重宝するモンスターの血も雫にとってはそこまで価値があるものでもなかった。血液を売る気にも慣れず残っていたいくつかの血液を使えることに雫は喜んでいた。
そういうことで少し嬉しそうに隠し部屋を出るとそこにはまだ部屋に残っている子どもが10人近くいた。
「お前たちは出ていかないですか?」
と雫が尋ねると、子供たちは口々に帰る場所がないと言う。聞いてみるとこの子たちは親が吸血鬼の犠牲になったようであった。そのため帰るに帰られないのだそうだ。
「そうですか。それなら少し遠くですけどいい場所があるです。楽しい場所です。来たいやつは付いてくるです。」
と雫は提案するのだった。
選択肢の無かった子どもたちは、結局雫に付いていくことにした。雫が提案したいい場所とは、第4の街にある孤児院であった。事情をマリアに説明すると、
「そうですか。それなら大丈夫ですよ。困っている子たちを見逃すことはできませんからね。はい、皆。今日からお友達が増えますよ。皆仲良くできますね。」
孤児院の子どもたちは、元気よく返事をするのだった。
「というかシズさん。本当に何を撒いたんですか。」
「?だからキノコです。」
「私の知っているキノコは走ったりしませんよ。まあ別に子どもたちに危害を加えたりしませんからいいですけど。」
喋っている雫とマリアは、足が生えたキノコが横切るというシュールな光景を見ていた。




