猫又との邂逅
第8の街は人通りの多い所などはまだしも、奥まった路地なんかは薄気味悪く、誰も近づこうとしておらず人のいる場所といない場所がはっきりと別れていた。ただ雫はそういった人通りの少ない路地なんかに面白そうな物や新しい発見がありそうだと考えているので自分からそういった場所に行くことが多い。
今回もそうやって人がいない方にいない方に歩いていくと、案の定というのか狙い通り面白そうな気配をわんこが感じた。
「わんわん」
「どうしたですわんこ。…そうですか。感じるですか。まあそれなら出てくるです。」
雫は嬉しそうな表情を浮かべながらわんこが発見した気配のする方向に向かって呼び掛ける。すると気配のする方から一匹の黒猫が現れた。しかし雫はその黒猫からそういった面白そうな気配を感じることは出来なかった。しかし
「わんわんわん」
わんこはこの猫は普通と違うのだと主張する。そしてそれを証明するかのようにその猫に向かって影を飛ばす。街中ではダメージを与えることは出来ないが相手を拘束することなどは出来るのだ。そしてその影が黒猫を捉える瞬間、黒猫が本来の姿を現す。黒猫は突然、人の姿に変わる。
「にゃははは。どうしてわかったにゃ?私の気配はちゃんと仙術で消してたはずにゃん。」
黒猫を拘束しようとしていた影は黒猫を捉える前に勢いを失い止まってしまった。
「わんわん」
「にゃは。匂いにゃか。さすが犬にゃん。匂いには敏感なのかにゃ?」
黒猫は愉しそうに笑っていた。それを見ていた雫は、
「結局お前の目的はなんです?」
そう聞くと黒猫は丁寧に自己紹介をしてきた。
「お前じゃないにゃ、私は猫の妖怪、猫又のヤミにゃ。よろしくにゃん。それで目的って言われても、珍しく同族を連れた人族がいたからあとに付いていっただけにゃん。」
と言い、シロを見ている。
「普通の妖怪は使えないけど、私みたいに才能溢れる猫ちゃんだったり、そこの白狐の九尾ちゃんみたいな上位種族の妖怪なら、妖術とか仙術とかを使えるにゃけど、その子は使えないみたいだから気になったにゃん。」
雫の目には少なくとも嘘をついているようには見えなかった。
「それが本音だとしてもだからどうしたです?」
さらに雫が聞くと。
「仙術には見ただけで相手の大体の強さがわかるにゃ。そうしてみると君たちは化け物みたいにゃ。でもその中にだと九尾ちゃんは見劣りするにゃ。しかも能力をちゃんと発揮できてないにゃ。そんな調子で九尾ちゃんが君たちに付いていったら、これから先危険なんじゃないかと思ったにゃん。久し振りに会えた理性を保った同族にゃん。心配して当然にゃ。」
それを聞いていたシロは図星を突かれたように狼狽する。
「にゃから私が妖術とか仙術を教えてあげようかと思ったんだにゃ。多分その子は才能があるにゃ。強くなるにゃ。」
ヤミの話は一応の筋は通っていた。と言っても、今日会ったばかりの妖怪にハイそうですかとシロを預けるわけにもいかない雫は、断ろうとするが
「コーンコーン」
その前にシロが了承の返事をする。それを聞いた雫は
「いやでもです。もしかしたら…そうですか、わかったです。好きにするです」
渋々だがシロの決意を尊重することにしたのだった。
「そうだにゃー。一通りの基礎を叩き込むのに最低3日は掛かるにゃ。だから3日後にまたここに来てくれにゃ。」
「わかったです。シロをよろしく頼むです。シロも無理せずに頑張るです。」
「コーンコーン」
「にゃはは。任せるにゃん。」
そういってシロは自身を強化するという決意を胸にヤミに付いていくのだった。




