鬼と粘液の最後
第7のボス戦は鬼人が復活してからさらに激しさを増していった。鬼人は
「しかしなぁ。てめぇーにはほとんどダメージを与えられてる手応えがねぇーからな。」
と言いながら『闘気』というスキルによってさらにステータスを跳ね上げる。それによって徐々にだが鉄ちゃんにもダメージが蓄積されていくのだった。そのため雫が援護でボムを投擲するのだが全て金棒で弾かれてしまう。
しかも先ほど鬼人にボムを当てたやり方にも鬼人は即座に対応して、投擲されたボムを回避してまうのだった。この投擲方法の弱点は雫が影に向かって投げているため雫の脅威的な命中力が発揮できない点であった。
攻撃力も防御力も鉄ちゃんが上回っているのだがそれを俊敏な動きと豊富な戦闘経験を駆使して互角にまで持ってきている鬼人は嬉々とした表情を浮かべながら鉄ちゃんとの戦闘を続けるのだった。
そしてスライムの魔人であるライムの方も攻撃方法が変化した。さっきまでの方法では埒が明かないと考えたのかスライム特有の変幻自在に身体を変化させながらわんこに襲いかかろうとしてきていた。とはいえライムの方はあまり戦闘経験が無いようで、自身の持つ自己再生能力を駆使した持久戦を展開していた。
「本当はこの戦い方は『侵食』で自分の領域を増やしてからの方が効果が増すのだけど、あなた相手だとあの戦法が使えないものね。」
形をどんどん変えていくライム。もう魔人としての原型をとどめていない。ライムがそこまでして攻撃を仕掛けているにも関わらずそれでもわんこは、未だに1度もライムの攻撃を受けずに避け続けていた。
「しつこいわね。でもいくら強いあなたでも限界はあるはずよ。すぐに当たり始めるようになるわ。」
再生という絶対的アドバンテージが存在するライムは余裕の表情を崩さないのであった。
それらの戦闘を遠くから見ていた雫は、
「まずはあの女をどうにかすることが先です。というか正直、男の方は倒そうと思えばいつでも倒せそうです。さてどうするですかね。」
ライムがスライムであるためボムなどの通常攻撃は効果が薄い。そしてわんこの魔法も効いているのか分からない。
「うーん。本当ならボムを使ってドカーンってやりたいですけどダメですし。」
雫が考えている間にも戦闘はどんどん激しさを増していく。先に鬼人を倒してもまたライムが再生してしまうだろう。そのため最初にライムを戦闘不能にしなければならないのだ。
「そうです。残ってる物があるから再生しちゃうんです。跡形も無くなれば問題ないです。それならです。わんこ、鉄ちゃん。ちょっとこっち来るです。」
考えた末に何か思い付いたような雫は、戦闘中のわんこと鉄ちゃんを招集し、思い付いた作戦を伝える。
「それじゃあやるです。」
雫のもとから戻ってきたわんこたちを相手も警戒している様子だった。しかしわんこたちは、特に変わったことをやるわけでもなく先ほどまでと変わらずに戦闘を行っていた。
ある意味様子見のような戦闘が行われている。そしてそれを破ったのはわんこであった。わんこは「影縛り」を使いライムを影で縛り付け、動けないようにする。
「わんわん」
そして総攻撃を仕掛けようとする。しかし
「ふふふ。形のない私を縛れると本当に思ったの?」
とライム。わんこの「影縛り」から容易く抜け出し、攻撃準備で隙が生まれているわんこに飛びかかる。先程までなら難なく避けられたこの攻撃をわんこは避けられなかった。否、避けなかった。ライムがわんこに触れる、その瞬間わんこの身体が燃え始める。『焔化』を使用したのだ。
「シュワッ」
焔に包まれたわんこの身体に触れたライムの身体の一部が蒸発する。ライムは慌ててわんこから離れようとしたが何故か身体が動かない。これは「影縛り」の新なる効果であった。影で縛るのでなく影を縛っているのだ。形が不定でも影ならば縛れるのだった。
「動けない。熱い、熱いわ。」
隙をついたつもりが隙をつかれたライムは焔に焼かれてその身体をどんどん減らしていった。
それを見た鬼人は、
「おいライム。今助けてやるから待ってろ。」
と救出に向かおうとする。しかしそれをさせまいと鉄ちゃんが行く手を遮る。
「おい。邪魔だよ。すぐにそこをどけや。」
怒りによるパワーアップで今までにない速度の攻撃を放つ鬼人であった。しかし鉄ちゃんも負けてなかった。
「……………『眷属召喚』」
小鉄たちを召喚する。
「それがどうした。」
数が増えても全く恐れることなく突っ込んでくる鬼人。しかし鉄ちゃんの行動はまだ終わらない。せっかく召喚した小鉄たちが鉄ちゃんに吸収されていった。
「…………『鋼龍化』」
鋼龍になった鉄ちゃんのパワーアップは、鬼人の比ではない。鬼人の思いっきり振った金棒を片手で受けとめ。そしてとどめの一撃である、「鋼龍砲」を放つ。回避も出来ず、ろくに防御も間に合わなかった鬼人は胸にぽっかりと穴を開けてその場に倒れ込むのだった。
そしてそのすぐ後にライムの身体も全て蒸発しきってしまうのだった。蒸発しきった身体が再生してくることは、なかったのである。




