噂話の真相
自身の種族名をバカにされたように感じ、騒ぎだした男に見かねて警備兵が数人雫の方に近づいてくる。
「おい。そんなに騒いでどうした…お、おいそこの女って人族じゃあないか。」
「本当かよ。何故ここに人族がいるんだ?」
「いやそんな疑問は後回しにしろ。ここに人族がいるというならやることは1つだろう。応援を呼べ、万が一でも逃がしてはならないからな。」
警備兵は雫が人族であると気づくとすぐに慌ただしく動き出す。それを見た雫は、
「なんか面倒なことになりそうです。」
嫌な予感を感じ逃走の構えをとるが、それを見越してか、
「待ってもらおうか。まず始めに聞いておこう。貴様は人族か?」
雫はその質問には答えず無言でわんこの上に飛び乗り逃げる体制を整える。
「その行動は肯定ととらせてもらおう。それならば貴様を逃がすわけにはいかない。「水縛」」
警備兵はすかさず魔法を発動する。するといきなり雫たちの目の前に水が現れて雫たちを捕縛しようとしてくる。
「本当に面倒なことになったです。「結界」」
雫は目の前に結界を張り水による捕縛を防ぐ。
このまま逃げようとするが運が悪いことに警備兵の応援が到着してしまう。
「さあ観念してもらおう。」
警備兵たちは雫たちの逃げ道を塞ぐべく完全に包囲する。この状態から逃げ出すことは不可能だと思っていた。しかし 突如として雫たちが消えてしまう。
「な、なに。どこに消えたんだ。」
包囲していた警備兵たちは呆然とさっきまで雫たちがいた場所を見ていた。
包囲していた警備兵を驚かすことに成功した雫だったがこちらはこちらで驚いていた。それは王都では通用したアンフェの認識阻害での逃走がここの警備兵には通用していないようで逃げても逃げても追ってくるのだ。
「なんで私たちの居場所が分かるです?」
ここは水の都よりも断然水路が多く、水路を使って追ってくる警備兵に苦戦を強いられているのだ。わんこ頼みの逃走なのだがわんこはここに来るために体力をすり減らしており、いつまで持つか判らない状態である。
「なんとかならんですかね。」
雫がそんなことを呟いてると、後ろから声がかかる。
「お前さん。こっちに来なさい。そこにいるとすぐに見つかるぞ。」
声の先には1人の老人が立っているのだった。
「お前さん、人族なんじゃろう。珍しいこともあるもんじゃ。ここに人族が来てくれるなんて、こりゃ明日は槍が降るのお、ほっほっほ」
老人が笑い声をあげながら話を続ける。
「それにしてもうちの若い衆が失礼した。少し気が立ってるんじゃよ。許してやってほしい。」
「別にいいです。それよりなんで私は追いかけられたです?」
「それはじゃな、水の都の歴史を話さなきゃならんから長くなるがの、簡単に言えばあの街を作ったのがわしらの先祖様での、あそこで人族と共に暮らしていたんじゃが人族の数が増えてしまってわしら水人族はあそこを追われてしまっのじゃよ。じゃからここも危ないんじゃないかと、若い衆はピリピリしとるんじゃ。」
その話を聞いて雫は1つ疑問に思った。
「それなら爺さんは私を捕まえないんです?」
「…この街や周辺の水の流れは全てわしらの先祖様が作られたんじゃ。それは海王様が統治されている海から引いてきた水じゃ。そして海水を人族が飲める水にろ過するのもわしら水人族の伝統的な仕事の1つなんじゃ。わしらがこんなことをしているのは海王様の存在を人族にも知らしめるためじゃ。本来は人族は歓迎しなきゃならんのじゃよ。」
老人の話では第6、第7の街や王都の住人が飲んでいる水のほとんどが水人族の手により流された水なのだそうだ。
「しかし若い衆はそれを蔑ろにしておる。お前さんが逃げても逃げても見つかったのは、侵入者を逃がさんように開発された索敵魔法じゃよ、水が流れている場所の周辺ならどこでも監視できるようじゃ。大方水路を使ってお前さんを追ってったんじゃろう。」
それを聞いた雫は顔をしかめる。ここら辺に水路が無いところは少ない。逃げるのはかなり面倒であろう。しかしそんな雫の表情を見た老人は、
「まあそんな顔をするでない。この先に第7の街の周辺まで繋がってる水路があるんじゃよ。その流れに乗ってけばいい。道中はこれを持っておけば安心じゃよ。」
と言い老人は御守りのような物を手渡してくる。そこには「水内安全」と書かれていた。
「消耗品じゃから次からは効果はないがそれを持っておれば人族でも安全に水中を行くことが出来る。」
難しいことはわからないが、これを持ってその水路に行けば良いことは理解した雫は水路に向かっていった。
雫は水路に入る前にこんなことを呟いた。
「あの人の話は難しくてよくわからんですけど今日1個学んだです。ゲームって槍が降って来るんですね。さすがゲームです。すごい怖いですし気を付けようです。」
その言葉を残して雫は水路に入っていくのだった。
王都と水の都。2つの場所で起きた騒動。雫は面倒だなーとしか感じていない案件であるがこの2つの騒動が後にもっと面倒なことに発展することを雫はまだ知らないのであった。




