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気分屋

作者: 木山喬鳥

  


 初めましてと挨拶してからコイツは、うすら笑いを浮かべてずっとオレを見ている。

……囚人を観察すんのが楽しいのかよ。

 オレを値踏みしているのか、バカにしてんのか…………どちらにしても、気にいらない。


「怖い顔しないでくださいよ。ただの勧誘、仕事のお誘いなのですから。気色ばむことなんてありませんよ」

 面会室でオレの向かいに座る男は、上機嫌らしい。

 高価そうなスーツを着た、朗らかで人当たりの良い男。オレの直感はコイツが信用できないヤツだと告げているけどな。

「仕事?アンタここがどこで、なにを話してるかわかっているのか?刑務所だぞ。でオレは受刑者。働けるわけがないだろッふざけんなよ」

「ああ。規則とかそういう差し障りは、すべて解決していますから。アナタがその気になったら明日からでも働けますよ」

「……え、マジか?ほんとうならアンタの組織の権力、すげえよな。実は超法規的な権限がある政府の関係者とかなのか?」

「ウチの団体の人脈ですよ。秘密ですけれどね」

 話の趣旨がわからない。

 詐欺師のオレが言うのも何だが、コイツはそうとうに胡散うさん臭いヤツだ。

 

「ではこちらからも質問しますね。アナタは〝ちいさいオジサン〟という都市伝説を知っていますか?世の中には小人とか妖精とかが隠れて棲んでいるって内容の話です。ちまたでは周期的に流行る類の話なんですけどね」

「知らんね。堀の中にいると外の世間のことはうとくなるんでな」


 

 うなずいてやがる。さもわかっております、という仕草だ。そつがない。嫌だね、訳知り顔してるヤツには、ろくなのがいないもんだ。

「いえ、知らなくても問題ありませんよ」

 噂話に過ぎないですから、そう言って白い歯を見せる。

「いま言った都市伝説ですが……その原因の一つがこれなんですよ。ええ。どこの神社の社務所でも売っているようなありふれた品物です」

 男は机の上に、どこの神社でも手に入るような、ありふれたデザインのお守りを置いた。

「ただ中身に細工がされています。細工は他にも時計とかキィホルダーとか、人の身につけるものに仕込まれているのです」

 

 しかしさっきからよく喋るヤツだな。ますます信用できない印象だ。

「そりゃすげえな。お守りから小人や妖精が出てくるのかよ、賑やかな細工だな」

「残念ながら出ません。そんな機能はないのです」

「ん?じゃあどいつもこいつもなんで小さい人ってのを見ているんだよ?お守りから麻薬クスリでも吹き出してんのか」

「声を聴くのです」

「ん?」

「たとえば良心にそむく行いをすると自分を非難する声がする。良いことをすれば褒められる声がどこからか聞こえてくる。いつも誰かが自分を見て声をかけてくる気がする――この声が都市伝説を生んだ要素の一つなのです」

「それがまさに良心ってやつだろう?心の声でも聞いているんだろうよ」

「どうでしょうね。私たちは声にならない声を伝える機能をお守りに仕込みましたからね。良心としての心の声だとは考えにくいです」

「おい……ちょっと待て。心の声とか、お守りとか、もう止めてくれ。そんな噂話がこのオレに何の関係がある?早く用件を言えよ。見ての通り時間が自由になる身の上じゃないんだ。話があるなら手短に言ってくれッ」



 話の回りくどいヤツだ。イライラする。他人の都合に合わせるのは本当に嫌だ。

「まだ面会の予定時間はたっぷり残っていますよ?それにアナタは、刑務所から後五年は出られないんですよね?でも急ぐのでしたらええ、本題に入りますよ」

 その言い方も気にくわない。話が長いのは、オレのせいなのか?

「さてどうでしょう……いま就いてる所内労働より割の良い作業報奨金の出る作業をする気はないですか。二十倍は稼げるのですが」

「だからオレに何をさせたいんだ?具体的に言ってくれよッ」

 立ちあがり、椅子を蹴り倒す。

「あ、わかりました。わかりましたから、落ち着いて。気を静めてくださいよ。そんなに怒られると嬉しくなってしまいますよ」

 言っている言葉ほどには、うろたえてはいないな……コイツは冷静だ。落ち着いている。

「要件はですね、アナタにお守りの声を担当して欲しい、そう依頼に来たわけなのです」

「おいおい!囚人をからかうしか時間を潰す方法がないのか?きっとアンタの人生にはさぞや楽しみが少ないんだろうな」

「誤解ですよ。さきほど説明が途中でさえぎられましたからね。ともかく説明の続きを聞いてくださいよ」

 腰を浮かせ、席を立ちかけたオレに構わずに愛想笑いを貼り付けた顔で話を続けだした。

……嫌なヤツだ。見透かしていやがる。

「じゃあさっさと話を続けろよ」

 戻した椅子に腰を下ろし睨みつける。

 ああ確かに。オレはこの話に少しだけ興味を持ち始めているよ。


 

「はい、では中身の機械についてですが、これはある種の通信機なのです」

「へぇ、通信機ね」

 思わずお守りを手にとった。

「ずいぶんハイテクなんだな。こんなに軽くて小さい電話かよ」

「いや。電話じゃないんです。送受信するものは人間の音声じゃなくて、気分なのです」

「ん?気分?」

「ええ」

「おいおい、気分なんか伝え合ってどうする?誰かの機嫌なんて良くても悪くてもオレは気にしないし、知りたくもないがね」

「そうでしょうね。そういう人もいますね。だけど世間には周りの雰囲気に流される人間は割りと多いらしいのですよ。データもありますから。ほら同調現象とか言われている現象がそうでしょう?」

「……だから?」

 ほんとうにまどろっこしい。コイツの話運びは、いくらなんでもヘタすぎるだろ。


 

「だれだって不機嫌な人間の隣より機嫌のいい人の隣の方にいたいでしょう?場の雰囲気が良いでしょう」

「どちらも嫌だがね。オレは他人の隣にいたいなんて思ったことがないんでね」

「でもほら。人によっては楽しい雰囲気を味わいたくて、テーマパークに行く人だっていますよね?」

「知らんね。アンタの目にオレがテーマパークに行くような人間に見えるんなら、悪いことは言わねえから眼科に行くんだな」

「私のことはご心配なく。気分についての話に賛同いただけないようなので、それはそれとして……」

 話を戻しましょう、と言った男は咳払いをひとつして、説明を続けた。

「気分を伝えられると気分が変わる。人は人に影響を受けますよね。では気分を伝え合える機械が社会に行き渡ったら、どうなるでしょうか?」

 お喋りは、うんざりだとばかりに黙って先方をにらんだ。でも目の前のニコニコ男は気にするようすもなく話を継ぐ。

「より多くの人が感じた気持ちが社会の全体の気分や雰囲気になります。社会の世相や風潮、世情、世論が多数決で決まるようになりますよね」

「へぇ、嫌な世の中になるんだな。オレは誰かに自分の気分を操作されるなんて、ごめんだな。最近のヤツは他人に操られるのを気にしないのかね」

「そうですね。確かに真相を知れば多くの人が嫌がるでしょう。でも我々は自分の心の中から自然と湧き上がって来ていると皆に思わせているんです。自分の気分がどこかにいる誰か他の人間から伝わって来ているなんて、そんなの極秘ですよ」

「いや、極秘にしなくても誰もそんなこと思わないって」

 ジワジワ笑えてくる。コイツはやっぱりイカれてるらしい。

「かもしれませんが。用心の為に、誰が持っていても変じゃない品物、携帯電話、時計やお守りという形の通信機を作ってみたんですよ。しかし現代のITというものは素晴らしく便利ですね。充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないとはよく言ったものです」

「ああ確かにな。自分の感じている気分が他所の誰かから伝わって来てるなんてことを普通の人間は、まず考えないだろうさ」

――考えるのはアンタたちくらいだと言いさして、お守りをマジマジと見た。これに人の精神に干渉する仕組みが本当に入っているのなら、まさに魔法だ。

「ましてや、こんなお守りから声がするなんて、たいていのヤツは信じないよな……要するに、こういった秘密の通信機の声をオレがやると、たんまり給料が貰えるって……そういう話だよな」


 

 内容の真偽はともかく笑い話にしても、くだらない。

 とはいえ、金さえキチンともらえるのなら、オレは構わない。変人の持ってきた意味のない仕事だって金次第ではやるさ。

「まあ、そういうことです。でも喋る必要はないのですよ。したくても話はできないんです。そういう機能はありません。話すってあたりは、きっと噂が伝わる上で加わった誤情報ですね。たぶん」

「喋らない?じゃあオレは何をすればいいんだ?」

 さて、いよいよ怪しくなってきたぞ。オレにやらせたい本当の仕事は、なんなんだよ?

「アナタは、アナタの気分を伝えるだけです。つまりその、送られて来た気分に自分の分を上乗せして他の者に送る仕事――気分を扱う〝気分屋〟になって欲しいのです。しかし具体的にはなにもしなくて良いのですけどね」

「なにもしないで良いのか?そりゃますますやりたくなるな。気分屋ね。面白いかもな。ただ、言っておくがオレの中にあるのは嫌悪や怒りだぜ?いい気分じゃないんだが、そのまま他人に伝えても問題ないのか?」

「適材適所ですよ、ときには後ろ向きな気分だって必要ですから」

「適材適所?じゃあどうしてオレなんだ。取り立てて技能もない粗暴な詐欺師だぞ。おまけに良くも悪くもたいした犯罪者でもない。ありきたりな囚人のオレを誘う理由は何だ?」

「調査したらこの仕事にピッタリだったんです、アナタの性質が」

 大げさに手なんかひろげやがって、バカバカしい。調査なんて受けた覚えもない。隠れて調べたとか?囚人相手にか?そりゃ、ないな。

「ああ、そうかい。わかった引き受けた。やるよ、お守りを持ってなにもせずにいれば稼ぎは二十倍貰えるんだよな?」

「いえ、お守りは持たなくてもそばに置いてあればいいんです。それよりも……いいのですか。この説明だけでアナタは気分屋を引き受けてくれるのですか?」

「ああ。アンタに言われた通りにするよ。たとえこれが、本当は普通のお守りでも構わないね。オレは頑張って何もせずにいるだけさ」

「そうですか……うん。こちらの予想より随分と早い決断ですが、話が早いのは大歓迎です。なに、どうせ長い間じゃないのですから……」

「合意できたようだな。こっちも毎日毎日、同じ手順で紙袋の取手のヒモを作るなんてことに、うんざりしていたんでね。どうころんでもオレには悪い話じゃないんだしな」

「ええ、アナタにとって悪い話じゃないってことは、請け負いますよ」



「やることはやる。だから、ひとつ教えてくれアンタら。なぜ、こんなことをする?」

「なぜ?なぜとは、どういう意味ですか?」

「なんの得があるのかってことだ。こんなお守り作って、オレみたいなのを使って、どうやって儲けている?」

「いえ、私たちは金銭を得ていません。営利目的ではなく社会活動ですよ。魂の救済ですよ」

 ああスゴイな満面の笑みだ。

「へえ…………信心ね。信じないね」

「なんとも疑り深い方ですね、嬉しくなってしまいますよ」

 どうでもいいがさっきからコイツ、嬉しがり方が変わっているよな。嬉しくなる状況じゃないだろ、ここ。

「儲けるですかあ……じゃあ考えてください。そもそも利益とは何でしょうか?人は、なぜ利益を求めるのでしょうか?」

「本性じゃねえのか。得したいって欲があるのが、人の本性だろうよ」

「確かに、人は欲を満たそうとします。じゃあ、なぜに欲を満たしたいのか。それは満足したら心地いいからですよね。つまり突きつめれば、人が求めることは――心地いいか不快かです」

 人が求めるものときた。話がでかくて聞いちゃいられない。

 ん、なんだか目まで霞んできた…………

 よく見るとコイツはやけに小柄で痩せていて顔色なんて真っ青じゃねえか……上品な紳士なんてほど遠い。

 それに耳が長過ぎる。目つきも悪い、血走っている。どうしてオレはコイツを感じの良い印象の男だなんて思ったんだ。印象で言うならコイツはまるで……

 

「ただ純粋に良い気分になればいいだけなのに、回りくどく金や権力とか恋人やらを求めるのは、愚かなことですよねえ」

ああ、コイツの耳障りな声のせいで、ちっとも考えがまとまらない。

「…………ただ純粋に良い気分になるとか、ムリだろう?それこそ麻薬クスリでも使わなきゃ、できないだろ、そんなのは」

「麻薬の代わりがこの仕組みです。あともう一つこのシステムが広まれば社会の誰もが共通の心の声に従いますから、この世に犯罪も不正もなくなるでしょう。大金持ちの連中が資産を貯めこんでいることに嫌気がさして分けたくて仕方なくなったら、世の中の価値や富の生産や分配は随分と効率が良くなるはずです。その点でも良い思いは増えるわけです」

「不満が消えてなくなるか……気にしなくなるだけなんじゃないのか」

「違いがありますかね。消えるのと、気にしなくなることに」

 この男の言う、仕掛け入りのお守りを広めている集団というのは……コトによると効率的に社会全体を洗脳しようとしているのかも知れないな。

「それにしても、目的が世の中を良くすることとはね……話がでかいぜ。そんなたいそうなアンタ達がなんで最高でも四十一円九十銭しかない作業報奨金のたかだか二十倍しか出せないんだ?」

「規則で決められた額なんです。学術的な見地から決められたらしいですよ。報酬と目的の達成率に相関関係は、ないという話ですから」

「報酬と成果には関係はないと来たか……やりがいとか言いだす気じゃないだろうな……しかたない。納得なっとくはできないが、貰えるもので我慢するさ」

「ちなみにアナタがどう思っているかも、これまた仕事の成果には関係がないことなんです」

 まったく良く笑うヤツだ。本当になにがオカシイんだ?

 どうもコイツとは、仲良くできそうにはないな。

「でも本当ですよ?」

「ああ、きっとそうだろうよ」

 

 

――――仕事が始まった。

 本当に働けた。

 どうやらマジで、ニコニコ男の組織には大きな権力があるらしい。

 権力といえば……雑居房からオレ以外の受刑者がどこかへ移された。これもアイツらの指図だろう。なんとも、恐ろしい話だ。

 どんな秘密結社だよ。アイツの組織って。

 

 刑務作業の時間になると、オレだけが別に設えられた仕事場にいく。

 仕事部屋は明るいベージュの壁紙で六畳ほどの広さの個室。

 窓が二つ。ただしそこから見える景色は灰色のコンクリート塀だけだ。

 部屋には、曲名も知らないクラシック音楽が静かに流されている。

 調度品はイスと机だけ。机の上には例のお守りと、一台のありふれたノートPCが置いてあった。

 PCのモニターには、オレンジに光る点が多数と、少し離れて数個の紫の点が少し光っている。

 オレンジは上機嫌で紫は不機嫌を示していると聞いた。

 点の数と位置が社会の状況を表示しているのならば、現在は不機嫌の量が少なくなるように抑えられているらしい。

 

 これだけだ、他にはなにもない。誰もいない。

 指定の時間になると、オレは水のボトルと雑誌を持って部屋に入る。

 仕事部屋にしばらくいると、時たま「悪いことをした」とか罪悪感のような気持ちが湧いてくる。

 オレがそんなことを思うはずはない。

 伝わったんだろうな。誰がどんな状況で罪悪感を覚えたか、なんてことはわからないけどな。

 

――――それだけだ。

 

 オレはなにも思わないし、なにもしない。スイッチの類も押さない。PCには触らない。

 ただ座ったり居眠りしたりして、七時間ばかりをこの部屋で過ごす。

 もちろん暇だ。

 あり余る時間のなかで、この仕事の依頼主――――あのニコニコ男が言ったことをいつも考えている。なんでオレなんかを指名したんだってな。


 オレはただの詐欺師だ。成り行きで仕事仲間を大怪我させて、ここに来た普通の犯罪者だ。

 そんなオレを選んだ理由はなんだ?

 それとこれ。オレがやらされている仕事は何だ?

……ひょっとすると、服役囚の更生こうせいを促す新しい手法か?

 しかし囚人の更生が、アイツが言うような画期的なテクノロジーを使うほど値打ちがあることなのか。

 さっぱりわからない。


 もう一度、考えを整理すると――――

 PCとPCがインターネットを介して情報を同期したり共有するみたいに、人と人がお守りを介して気分を感化させ合って――――

 数の多い優勢な気分を皆が感じだすって、アイツは言っていたよな。社会全体の気分の多数決を行うんだとか……

 きっとあのニコニコ男たちの繋ぎ方次第で、お守りのある社会の気分は作られるんだろう。

 気分の統制だな。雰囲気の全体主義だ。面倒くさい話だ。

 

 それで時には、社会の気分の高揚を醒ますブレーキも効かせるわけだ。

 ブレーキ役――大勢に対してあえて逆らう役回り。

 どこだかの政治学者が言うところの「悪魔の代弁者」の役割をやれるのは、大勢が浮かれた気分の中でも頑なに不機嫌なヤツ。

 それは社会から切り離されて、望まずに抑圧されているヤツ――――つまり囚人だ。

 なかでも他人を何とも思ってない、場の気分に流されない、人間と関わるのが嫌いなヤツ。

 そうきたら控え目に言ってもオレは、かなり適任だろう。

 オレの性質が気分屋の仕事にピッタリだと言っていたのは、こういうことか?

 

 おそらく間違いないな。むしろオレみたいに罪悪感のない人間。善悪の感覚が世間と違う人間こそが重要なんだ。

 堀の外にだっていくらでもいる、気分屋のシステムに影響をうけないそんなイカれたヤツ。

 そんな人間こそ、放置できないんだ。気分の網目のほころび――――システムの穴に、なるからな。

 こんな場合の予防として、イレギュラーなヤツは……いっそ直接システムに組み込んでいくだろうな。オレみたいに……

 

 まてよ、それだったら……オレみたいなヤツばかりを気分屋のネットワークの要所に置いて――

 社会全体の気分を、絶望と憎悪に塗り込めることもできるわけだ。

 自ら死を選んだり、悪魔に魂を売るような犯罪に手を染めたりするヤツがわんさか出てくるような社会にだって……

 あのニコニコ男の組織は作れるんだよな。

 いやもう既に、そうなっているとしたら……もしも教えられていたオレンジと紫の点が表す気分が逆だったとしたら……

 

――――いいや、オレには関係ない。

 どうせ刑務所にいる限り、確かめようもない話だ。

 それに、このお守りだって本当は普通の布や紙の塊かもしれないんだ。

 すべては一つの確証もない、ただの推測だ。

 

 確かなことは金だけだ。

 そう賃金はキチンと貰えているんだ。だったらオレは、ちゃんと言われたことをするだけだ。刑務所の規則と同じに従うだけだ。そうすれば問題はない。

 考えてみろ。

 誰かに気分のハンドルを握られていたとしても、暮らしのなかで困ることが、具体的にあるのか?

 そうだ。悪いことはない。この仕事は楽だ。稼ぎも良い。

 だから毎日、こんなに気分がいいんだ――――

 このままで、いいんだ。

 

 


 

 

 

 



 今回の話は社会の「同調圧力」を題材にしているのですが。

 参考になりそうな事柄を調べていて、本筋と関係なく思ったことがあるのです――――

 

 同調を求める社会的圧力によって集団内の少数派が沈黙を余儀なくされていく過程について、

 ドイツの政治学者エリザベート・ノエレ=ノイマンが名付けた名称は――――

 

「沈黙の螺旋」


 いい感じです。カッコイイです。

 そして沈黙の螺旋を打ち破る存在――――

 多数派に対してあえて批判や反論をする人、

 またその役割の名称は――――

 

「悪魔の代弁者」

 

 というぐあいに、つけられた名称が、いちいちカッコイイのです。

 提唱者のエリザベート・ノエレ=ノイマンさん、

 きっとマントつけていましたね。絶対ね。

 女性ですけどね。

 

                  木山喬鳥

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