表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイエルフと行く異世界の旅  作者: めたるぞんび
第7章:宮廷秘書官の探索と救出作戦の旅 [後篇]
88/89

隠れ里での朝食と状況整理の旅(後篇)

「謎解き?」


 全員が全員、きょとんとした顔をする――瑛斗を除いては。

 その周りを見たアーデライードは、得意げに二つの指を立てて示す。


「そう。謎解きの裏付けには、根拠が二つあるの」


 推理に関しては、読書が大好物なアーデライードの得意分野だ。

 活字中毒の彼女にとって、異世界中でも推理小説においては右に出ない。その理由は、ゴトーが現実世界の書物を持ち込んで、暇そうな彼女に与えていたから――余談である。

 さておき、それを理解している瑛斗は、推理の真意をじっと見守ることにした。


「その根拠とは?」

「その一つ目は、誤誘導(ミスリード)ってこと」

「みすりーど?」


 ドラッセルとソフィアが同時に首を捻った。共通語(コモン)は、誰しもが知っていたものの、外来語まではご存じないようだ。

 共通語は日本語であり、外来語は英語である――とまでは、言えない瑛斗である。


「そう。ミスリードとは誤誘導、単純明快で簡単なものなのよ」


 ミスリードとは、人の誤解を招いたり、判断を誤らせる手法だ。いわゆる推理小説やサスペンス作品など、常套手段として用いられる。

 例えば、間違えた犯人を誘導したり、当然だと思い込んだ事実をひっくり返すなど、相手側を惑わせてどんでん返しとして演出する、そういう仕掛けである。


「ミスリードというものはね、んー、例えばなんだけど」


 ウエストポーチから羊皮紙を取り出すと、テーブル上に広げてペンを滑らせ始めた。若手を相手に分かりやすいよう、図を加えて工夫をこらせてあげているようだ。


「こんな感じで、嘘の証言を演じて真相から目を逸らさせる、とか、時系列を意図的にずらして事件発生の順番を誤認させる、とかね。誤った情報を誘導するっていうやり方は、時間や場所など、手段やら布石やらなんやら多種多様あるのよ」


 教鞭を受けた明晰なソフィアは、こめかみに指を差しながら考える。


「なるほど……例えば、関係ない状況を勝手に改竄して誤認させる、とか?」

「そ。例えば、重要に見せかけて、実は関係のない場所へ目を逸らせる、とかね」

「重要な場所へ目を逸らせる……」

「例えば、人の匂いを消すと見せかけて誘導させ……或いは、錯覚させるとか」


 今ここで錯覚させる場所と言われれば、誰しもが一箇所しかなかった。

 隠れ里――となれば、里の奥まったところにある、蔦の絡まった件の洋館である。


「ここの里であり、長と呼ばれる者……仮だけれどね」

「里の長と言えば、チッ、あの頑固な爺さんか」


 何かにつけてドラッセルは、舌打ちをして悪態をつく。

 流石に見かねたアーデライードが不機嫌になって、高い声色がさらに尖る。


「あのね、ついでだけれどアンタ、この隠れ里で最も魔力(オド)の許容量を持ち、能力が一番高い魔法使い(キャスター)は、誰だと思ってんの?」

「そ、それは……ご察しの通り、この里の長だろうな」


 かの洋館の内部には魔力(オド)が密集し、複雑な魔術回路や無数の複合魔術までをも仕込まれていた。これらを駆使した人物となれば、恐らくこの世に数少ない傑物であろう。


「……ぷーぅ」


 しかしながら頬を膨らませたレイシャは、不満顔である。

 不本意にも魔法使いとして「この里で一番じゃない」と認識されたからである。


「もちろん、世界一の精霊使い(シャーマン)に相応しいのは、この私だけど!」


 そりゃそうだ、誰しもが知ってる――と、全員が全員そう思ってる。

 こんな状況でもドヤ顔でふんぞり返るのは、アーデライードしかおるまい。おかげで全員の表情が「スン」と無表情になる。話の腰をへし折ったせいである。


「まぁまぁ……アデリィ、里の長の社会的地位(ステータス)が判明したんだね?」


 話の折れた腰を整復すべく、理解者である瑛斗が助け舟を出す。


「そうよ、その通り! この里の長といわれた魔法使い(キャスター)……いいえ、高位魔法使い(ハイ・ウィザード)と呼ぶべきかしら」

「! そこまで知っていたんですか、アデルさん!」


 頭の回転がいいソフィアは、高位職の言葉にすぐさま反応する。

 その魔法使い(キャスター)よりも上位魔法使い(ウィザード)よりも上――高位魔法使い(ハイ・ウィザード)となれば、その素性が誰なのか絞られてくるはずだ。


「それ以前にドラッセルは、魔法の裏付けを見過ごしたんじゃないか?」


 代弁した瑛斗が尋問すれば、さらにアーデライードが追い打ちをかける。


「そうよ! そもそもアンタは、魔法感知能力は皆無なのでしょう?」

「いや、まぁ、そりゃそうだが……」


 魔法感知となると機転が利かないドラッセルが、まごまごと戸惑う。

 当然ながら、騎士としては有能だが、魔法に関して専門外である。


「でもね、追跡中に魔力(オド)を残すほど精鋭な暗殺者は、目を逸らさない」


 このアーデライードの一言で、その場の空気が一瞬で張り詰める。


「だからこそ、目標を逸らす誤誘導(ミスリード)が必要になる」

「うう、説明してくれ……どういうことなんだ?」


 混乱しかけたドラッセルが、ツンツン頭を掻きむしる。


「要するに、罠を使って、敵を(おび)き寄せる算段ってこと」


 アーデライードの返事は、いつもながらに大雑把である。

 まとめ役の瑛斗が切り返すべく、すかさず通訳するように模範解答する。


「つまり、罠である屋敵を注目させて、敵の意識をずらす……誤誘導だったんだな」

「ご名答! さっすがエイト、分かってるぅ!」


 険があったアーデライードの態度はどこへやら。喜びに満ち溢れているようだ。

 何故か瑛斗にだけ孫のように甘くする。どちらが敵か味方か。ツンデレに暇はなし。


「結論だけど、その屋敷とともに自らを囮として敵を誘導していたのよ」


 種明かしとなれば、実に簡単である。

 膨大な魔力を用いて疑似餌として撒いて、目立たせただけであった。


「先程の複雑な魔術回路やら、無数の複合魔術やらは、どこに……」

「魔法感知が皆無なアンタにとっては、無駄な努力ね」


 そう言われたドラッセルは、がっかりと肩を落とした。


「けれど、敵にとっては垂涎の的で、目が眩むほど国宝級の代物だわ」


 彼と同じく魔法感知能力を持たない者は、無関係で素っ気なく見向きもしないだろう。だが、エルヴィーラ暗殺の現場に残した魔力の痕跡を示した者は、どうだろうか。

 魔法感知を持っていて、且つ、殺意を抱いた犯人は、少なくとも反応するはずだ。


「い、いやまだだ、お香の話があっただろ、お香が。それはどうなるんだよ!」


 慌てたドラッセルを、アーデライードは、いとも容易くいなす。


「それは、エルヴィーラが倒れていた川岸から洋館までの距離なんて、魔法感知能力持ちでも遠過ぎるでしょ。洋館までの道順を莫迦でも分かるように仕向けたのよ、きっと」


 素っ気なく対応しつつ別のことを熟考する、アーデライードである。

 どうやら香に関する考察は、まだ別の余地がありそうだ。


「ええっと、あのぅ、あの屋敷を罠に誘き寄せたってことは……」


 おずおずと手を挙げたライカが、頭の中でほわわんと描いたように呟いた。


「まるで『エサに釣られた川魚』みたいなのです?」

「へー、上手いこと言うじゃない、ライカ!」


 朝食の調理を思い出し、朝釣りの川魚にも思いを馳せているようである。

 嫌味の表情なソフィアは、出たとこ勝負なドラッセルを辛辣に揶揄う。


「あーらら、『エサに釣られたドラッセル』みたい」

「いちいちうるせぇなぁ、もぅ……」


 それに乗ったハイエルフは、無様な男を横目に見てニヨニヨと嘲笑う。

 今回に限っては、ストレスを溜め込んだ元凶であったドラッセルを駆逐すべく、破竹の勢いで吐け口を向ける。不躾な大男には、憂さ晴らし炸裂の女性陣である。

 それを見て苦笑いを浮かべながらも、瑛斗は自身の見解をこう述べた。


「ともあれ――この地へ向かう犯人は、魔法感知能力に長けた人物であり、エルヴィーラを執拗に付け狙う暗殺者……かな」


 今日に免じて収拾すべく、リーダーシップを如何なく発揮する瑛斗であった。


「だがな、まだまだ聞きたいことは山ほどあるぜ?」

「なによ?」


 疑問が収まらない不満顔のドラッセルが割り込んできた。


「あの頑固な爺さんが、誤誘導ってのに拘るのか、だ」

「ああ、そうね。そこからが二つ目の根拠よ、このデカブツ」

「いや、あの……また今朝から、デカブツ、デカブツって……」

「あら、デカブツがダメなら、独活の大木というべきかしら?」


 寄ってたかった蠅のように、シッシッと払いながら嫌味をするハイエルフ、暴れ馬のハイエルフを抑えようと「どうどう」と(なだ)めるは、瑛斗。


「とにかくあなたは、全ッ然分からないでしょうけれど!」


 そう鬱憤を吐き散らかせながら、アーデライードは話題を切り替える。


「では改めて……二つ目の根拠を教えてあげるわ」

「その根拠とは?」

「それは、お爺様の素性についてよ」

「……ッ! なにいッ!?」


 机から乗り出そうとせっつくドラッセルに、ソフィアは腕を掴んで抑えかける。


「おっ、落ち着きなさいよ、このバカドラッセル!」

「いいや、教えてくれ! そいつは一体何者なんだ?!」


 声を荒らげたドラッセルに、アーデライードは一蹴して切り捨てた。


「誤誘導で屋敷を向けさせて、敵の機先を削ぐ理由は、ただひとつ」

「ムッ……それは?」

「それは、自ら犠牲を払ってでもエルヴィーラを守るため、よ」


 自らの名を隠して律してまで、盾のようにする覚悟があったのは、何故か。

 いよいよ真相を迫る佳境へと、差し掛かっているようだ。


「いや……いやいや待て、まさかあの頑固な爺さんが――」

「ちょっとお黙りなさい。あなた、いい加減に怒るわよ?」


 流石に見かねたか、静かに怒気を帯びたアーデライードが話を遮る。


「な、なんだよ、改まって……」

「そう? ならば――さらにもう一つ付け加えてよろしくて?」


 先程のやり取りに引け目を感じたドラッセルが、強気を奮い立たせて打って出た。


「そうかい、ではその素性やら何やらってモンを、是非とも教えて貰おうか」

「そんなことじゃ、あなたは『後悔先に立たず』になるわよ?」


 煽るように流し目のアーデライードが、色気を持って意地悪そうにほくそ笑む。

 いつもは豪放磊落なドラッセルも、またもや嫌な予感を感じてたじろぐ。


「なんなんだ……これ以上、なんも出ないぞ?」

「それじゃ、あなたにハッキリ言わせてもらうけれど――」


 その言葉は、のちのドラッセルを完膚なきまでに黙らせることとなる。


「そのお爺様はね、先の内務大臣であり――エルヴィーラのお爺様よ」

「……ッッ!?」


 その一言で、ドラッセルの頭の中に雷撃が轟き、真っ白になって声を失う。

 全身にも稲妻に落ちたかのように背筋まで震え上がり、芯の底から凍り付いた。


「え……なっ……!」


 ソフィアまでも同じように声が詰まった。部下の騎士たちまでもが沈黙する。

 ついにドラッセルは、二の句が継げなくなっていた。


「もう約二十年前なんだから、あなたたちは知らないだろうけれど」


 内務大臣を辞して二十数年前――ドラッセルらが生まれる前の話だ。

 瑛斗がおまけに「たぶんエルヴィーラのお爺様は、アデリィよりもかなり年下だろうね」と、ボソッと呟く。こほんと咳払いしたアーデライードは「言わなくてよろしい」と釘を打つ。その隣のついでに悪い目つきで「ぷっ」と嘲笑うレイシャである。


「辞職後に公都を離れて人里もない、辺境の地へと隠居なされたそうよ」


 しかし連れ添った一部の部下や人格に惚れた民衆たちが集まって、やがて小さな集落が形成していったそうだ。よって公国内では地図には名も無い、小さな隠れ里である。


「なっ、なんで、いとも簡単に経歴まで判明したのですっ!?」


 ようやくソフィアが声を上げた。前に話した通り、高位魔法使い(ハイ・ウィザード)とともに経歴までも一致すれば、確実に真相がより一層明らかとなってくる根拠だ。


「あら? だってうちのメイドたちって気さくで素直だもの」


 何の気なしに口にするアーデライードは、小さな舌でぺろりと口元を舐める。

 喋りすぎて喉が乾いたのか、いつの間にかテーブル上に添えてあった蜂蜜酒(ミード)に手を出して嗜んだようだ。食前酒が一口ほどでは、まだもの足りなかったらしい。

 それを見た瑛斗は「あ、またやったな」と呆れた顔をしている。もう朝食後なのに。


「その証言は、ここにあるから」

「そそそ、その証言って、一体……?」

「ではここにあるメイドたちよ、単純明快に述べなさい」

「はいっ、わかりましたーっ」


 ソフィアら騎士たちは、元気よく返事した獣人族の方へと顔を向ける。


「それはですね、お爺様の素性をお聞きできたのです」

「ええっ?!」


 驚愕寸前なソフィアに対してライカがニコリと微笑むと、カルラとともに次々と証言をし始めた。


「里の皆さんは、ご存じなのでしたよ?」

「そうそう。ついでにあの方は、里の長ですか? って聞いたの!」

「そしたら、里の方々が口を揃えて『ナイムコー』って言ってたのです」


 楽しそうなライカとカルラが、無邪気な笑みを浮かべて会話する。


「ナ……ナイムコー?」

「そうよ、だから『ナイムコ―』さま! 私も最初は、そう思っていたわ!」

「だから私たちも『ナイムコー』さまって、呼んでいたなのです」


 次から次へと聞いたことがない言葉や音調に、ソフィアは困惑するしかない。

 それでもライカとカルラは、波のように畳みかけてそう口を揃える。


「え、いや、まさか……」


 聡明で勘が良いソフィアは、蒼褪めながら額から冷や汗を垂らした。


「そしたらね、みんなが苦笑いしながら、耳元でこう教えてくれたの!」

「それはね、『内務大臣公の略称で、里が勝手に決めた愛称なんだよ』って」


 ナイムコーとは、内務省大臣の略称であり、公は尊称――内務公であった。

 愛嬌たっぷりで打ち解けやすい獣人族らの相乗効果が相まって、隠れ里の情報取集としても有能である。里の人々までもが波及効果で、情報交換を気さくに応じるとは露知らず。


「里の皆さん、すっごく優しいよねーっ!」

「ねーっ!」


 それはそうだ。里の人々は、親切に接して色々と教えて貰っていた。例えば、ライカとカルラは山菜やキノコの見つけ方を。サクラは川魚の釣りのやり方や穴場など。すんなりと懇切丁寧に手伝ってくれたのだ。

 陽気で純粋な獣人族こそが、里の人々とのふれあいが重要である。心の繋がり方は、縁だ。縁こそが、ここの最良の選択の決め手となったのだ、とアーデライードは言う。


「内務公の経歴を結び付ければ、結果として素性へと辿り着いたわ」


 人見知りのライカは、料理上手でのんびり屋さんで心優しい。

 興味津々のカルラは、奇麗好きで人懐っこくて愛嬌たっぷり。

 楽天主義のサクラは、包容力豊かで気風(きっぷ)がよくて器用よし。


「ま、彼女たちならでは、勝利の鍵よね!」


 細やかな気配りも自然体で、まるで生まれつきの才能のように器用に物事をこなす。その笑顔には裏表がなく、けれどどこか天然みを持った巧みさを感じられるのだから。

 よって知ってか知らずか、いつの間にか里との信頼関係の構築を、たった二週間の間で円滑化できたのだった――だがただ一つだけ、瑛斗には気になる点があった。


「ところで、ライカとカルラ」

「なんですか、ごじゅじん」


 今日は鋭くて勘のいい瑛斗は、彼女らの近くに寄って耳元に囁いた。


「里の人々に、アデリィの本性について話した?」

「それなら『さるお方が研究中でご逗留です』って、言いましたです」

「……あっ、『ハイエルフのごしゅじんさま』って、言っちゃたわ!」

「えっ、あれって、まずかったなのです? なのです?」


 さるお方でハイエルフと言えば、ここにいて数少ない人物しかない。しかも宿を借りている以上、誰しもが知っている有名人だろう。

 なので瑛斗は笑いを堪えながら、まごまごし始めたライカとカルラの頭を撫でた。


「大丈夫、大丈夫。もう心配いらないよ。こういう人だからね」


 隠し里とハイエルフと結びつけば、そうお目に掛かれない。里の人々でもご高名を誰しもが知れば、腹を割ってくれるはずだ。その名を以て、さらに信頼を勝ち得たに違いない。

 隠れ里の人々と、獣人族と、ハイエルフ――共生と結びつけるとは、実に稀有であろう。


「そもそもね、あなたたちに一つ言わせて貰うけれど」


 それを知らずにアーデライードが、目の前の騎士たちをジト目をする。


「威圧的で大柄な騎士が突然に現れたら、里に方々も身構えるわ」

「ううっ……そ、それは……」


 確かに――騎士たちは全員が全員、それはそうだと納得した顔で頷いた。

 突然の訪問ならば当然、金属鎧を身に包まれた大柄で屈強な騎士が現れるとなると、俄然に話が違う。里の住人だって、みんな身構えてしまうだろう。


「まずは、身軽な平民服に変装しておくべきだわ。旅装にも兼ねてね」

「はい……肝に銘じます……」


 ドラッセルの代理であるソフィアが、しおらしく謝罪する。

 代理となったのは、顔面蒼白で茫然自失なドラッセルが未だに動けなくなったからだ。

 勢い余って出たとこ勝負に打って出たものの、出鼻を挫けた場面を切々と思い出せば、気まずさを越えて輪を掛けた恥辱さが、走馬灯のようにグルグルと駆け巡る。

 今回の惨憺たるや、もはや完全にドラッセルのしくじりでしかない。それを横目にアーデライードは「調子に乗ってたからよ」と、忌々しそうに鼻を鳴らす。


「さっ、これで謎解きは、おしまい」


 いつも通りのアーデライードは、あっさりと話を断ち切った。


「誤誘導……そうか、ミスリード……」


 自失に震えるドラッセルは、やっとの思いで弱弱しく口を零した。

 何というマヌケなのか――と、右手で額を押さえて天を仰ぐ。


「だからだったんだな、アデリィがドラに向かって怒っていたのは」

「だってそうじゃない? エルヴィーラのお爺様に喧嘩を吹っかけといて、あろうことか屋敷に突撃まで仕掛けようとしたのよ、あの莫迦。しかも無知にも『頑固な爺さん』だなんて、失礼にも程があるわ……そりゃ腹に据えかねないじゃない!」


 そうなると困り顔の瑛斗は、言葉を掛けるにも居たたまれず難しくなる。


「うーん、元気出せよ、ドラッセル」

「ううあ……穴があったら入りたい……」


 憔悴しきったドラッセルは、ついに両手で顔を隠してしまった。

 精神的に打ちひしがれて、暫くの間は立ち上がれそうになさそうだ。


「では謎解きはここまでとして、現在の状況を確認して整理しよう」


 進行役のドラッセルから引き継ぐように、瑛斗の出番となった。

 ここからは『立て板に水』のように、すいすいと進行が進んでいく。


「まず、お爺様の情勢や計略はどうかな?」

「里周辺の情勢は確認済み、けれど……」

「けれど?」

「その前にお爺様はね、屋敷から外に出られなかったワケが“ある”のよ」


 幾つかの選択肢はあるが、その中で最も重要な点があった。


「いや……もう“あった”というべきかしら?」


 そう呟くと、表情から見てアーデライードは、策を巡らし始めた。

 時と場所と運は有益であり、流動的であり、しかし限定的なものもあるのだ。


「ん、お爺様は機を熟したのでしょう。だから今は屋敷から出払っているわ」


 どうやら精霊使いの能力を総動員して、再確認しているのだろう。

 まだ準備段階の様子で、隠し里の人々や場所などは明かせないようだ。


「洋館を出られなかったお爺様の行動制限を、解除した理由は?」

「それなら簡単だわ、ここに私が存在してるから!」


 アーデライードが底意地の悪い小悪魔のような顔で「んふふ」と笑う。


「……確かに、アデリィなら秘密兵器として最適かな」


 それはそうだ。いざ味方となっては、全てを凌駕する途轍もない秘密兵器なのだから。いや、秘密兵器どころか難攻不落か、はたまた天下無双か。全く底が見えない。


「さて、と。そのデカい二人のついでに頼みがあるんだけれど」

「ハッ、ご用命ならば」

「我らにお任せを、ウッス」


 新たに気を引き締めたオルソンとマルティンは、挙手敬礼とともに背筋を伸ばす。


「あなたたちは、腕っぷしと目利きは良いわよね?」

「ウス、自分らの通常任務は、警備と護衛であります」

「戦時では、斥候・索敵なので、視力が良いッス」

「ん、よろしい」


 信用を得たオルソンとマルティンに手紙を渡し、簡単な説明を伝える。

 普段は無口な二人だが、手紙の封蝋を瞬時に見て驚いた様子であった。


「じゃあ覚悟を決めて、絶対に死守しなさんな」

「ウッス、了解しました」

「じゃ、サクラたちもいつもの通りにお願いね」

「分かりましたよ、姐さん」


 サクラには、馬車や荷物などの見張り役を。ライカとカルラには、念のためにと今朝のメイド服から冒険服へと着替え、宿へ留守番をさせるように命じた。


「さて、と。朝食はもう済んだわね。それじゃ行きますか」

「何処へ行くんだ、アデリィ?」


 毅然とテーブル上に広げた地図に指差すは、約一里ほどある小高い丘を越えた場所である。


「もっちろん、エルヴィーラに会いに、ね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ