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ハイエルフと行く異世界の旅  作者: めたるぞんび
第7章:宮廷秘書官の探索と救出作戦の旅 [後篇]
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隠れ里での朝食と状況整理の旅(前篇)

「さぁて、ここが例の隠れ里よ!」


 瑛斗を連れ立つハイエルフ一行は、名も無き隠れ里にある入口の質素な門をくぐる。

 探索隊一行が発見したこの里は、瑛斗が末期試験の最中であったため、まだ見たことのない土地柄である。生涯を最期に迎えるまで住みたくなる、いわゆる終の棲家であろうか。

 物見遊山がてらな瑛斗が里の概観をぐるりと眺めると、静寂漂う谷間と峻厳なる渓流豊かな里は、長閑(のどか)溢るる谷あいの景勝地であろうと見てとれた。

 踏み締めた石畳や石段を眺め見るに、里の人々がそれぞれ個々が手作りしてあったのだろう。個性的であるも質実剛健ながら、堅実さを感じさせる。民家の家並みはぽつぽつと(まば)らだが、程よく配置した里の様子は、まるで描かれたかの古き良き水郷であった。


「ム、こっちに来るみたいだぞ。おおう、コイツらだ。おおーい!」


 どうやらドラッセルが気付いた様子で、遠くから手を振る大男たちを手招きする。

 朱が色褪せた素朴な門柱の傍の、趣がある立番のような屯所から現れた二人組は、正規の金属の部分甲冑を小慣れた様子で着込んでいた。すぐに騎士だと分かる風貌だ。


「ああ、彼らが……」

「そうだ、コイツらがオレの仲間なんだ」


 胸甲に『銀の皿騎士団』の紋章を象った彼らは、ドラッセルの後輩であり部下である。二人とも一九〇センチを超える長身巨漢で、腕周りも申し分なく胸板も厚い。

 小彼らに挟まれた小さな瑛斗から見れば、まるで高層ビルに聳えるツインタワーのようである。いやドラッセルを含めると、トリニティタワーであろうか。

 小柄な瑛斗曰く「俺が埋もれてしまうなぁ」とは、彼視点であり余談である。


「こいつは、オルソンとマルティンだ」

「ウッス」

「どうも、久しぶりッス」


 若き大型騎士が共に、まずは瑛斗に挨拶して握手を交わす。

 それを目にしたアーデライードが、表情に疑問を浮かべて首を捻る。


「久しぶりって、エイト、この子たちの知り合いなの?」

「そう。実は『丸太祭り』で一緒だったんだ」


 瑛斗が笑いながらそう言いって、オルソンとマルティンを紹介する。

 丸太祭り――と言えば、テトラトルテの待宵祭の祭事として有名である。


「あー、思い出したぁ。最前線に立ってたデカブツ組だぁ!」

「ウッス」

「そうッス」


 華奢で小柄なハイエルフは、巨体の騎士二人を挟まりながらしげしげと見上げる。

 先月の丸太祭りの最中に、観客席でビール片手に小躍りしたのを思い出したようだ。


「あなたたち、先頭切って立ちまわってた子たちよね?」

「ウッス、自分は丸太の操縦を任されただけなんで」

「それを指示するのは、ドラッセル隊長だけッス」

「やだわ、あなたたちって忠実(マメ)ねぇ」

「自分ら、前に出るしかないッスから。ウッス」


 先月の激闘で興味を示したアーデライードは、小気味よくコロコロと喉で笑う。

 そんな中でソフィアが、瑛斗の耳元でこそこそと呟く。


「あのね、彼らは私よりも一学年上なのよ」

「そうなんだ」

「でもね、彼らは先輩後輩を隔てないから、凄くいい先輩なの」

「ふぅん……」


 瑛斗としては「年齢や権力には関係なく敬語を使わないように!」と、冒険者の師匠であるハイエルフに口酸っぱく教えられたから、これ以上は言うまい。

 理由までは聞いていないが、異世界では敬語が存在しなかったからだそうだ。


「じゃあ折角だし、一緒に朝食するかしら?」

「えっ? いいッスか?」

「もちろんよ」

「では、お言葉に甘えて」

「そうね、それじゃまたね」


 そう言って手を振ると、取り急ぎ別れることになった。

 どうやら瑛斗のために、既に朝食の用意が整っていたようである。



「むー、それにしても遅いわね……」


 仮宿舎の前にある小広場は、アーデライードら女性陣との待ち合わせである。

 つい最近になって民家の空き家を改装し、公国用の仮宿舎として利用している。


「ごめん、少し遅くなった」

「あら、二人とも着替えてるじゃない」


 ハイエルフの呟きに反応したかのように、瑛斗とドラッセルは仮宿舎から姿を出した。どうやら二人とも、そこの更衣室をお借りして服を着替えたようだ。

 夏でも高原の朝は気温が低く肌寒いが、かなりの運動量となってはそうもいかない。少なくとも上半身の服を脱いで、湧き水で濡らしたタオルを使って清拭したようだ。


「そうだね。さすがに決闘で汗をかいたからさ」

「それで決闘……うん、模擬決闘ね、模擬決闘だから」


 アーデライードは焦りを押さえつつ、冷静にして言葉尻を修正する。


「それよりも聞いてくれよ、アデリィ」

「なによ?」

「ドラの身体が凄いんだ。まるで筋肉の塊だった」


 瑛斗がほんの少しだけ上気気味になって、頬が緩んだ。


「なんだよ! エイトこそ細身の割に、引き締まってんじゃないか!」


 お世辞まじりのドラッセルが、豪傑のように高らかに笑う。


「鍛錬を怠らないなんて、この半年で大したもんだ」

「ドラにも負けないように、もっと努力しなきゃね」

「ワハハ! こりゃあウカウカしてらンねぇなぁ!」


 瑛斗の背中をバンバンと叩くドラッセルの行為は、ほぼ通常運転となりつつある。

 早朝での出来事はどこへやら。二人を見れば険のあった表情は消し去って、とっくに笑顔が溢れていた。鬱憤や怒りは雲散霧消し、清々しさだけが残っているようだ。


「あのね、アデルさん」

「なによ?」


 こっそりと割り込んだソフィアが、アーデライードに聞きたいことがあった。


「私、男の人のカラダとか、見たことがないんだけれど」

「そうね」

「少しくらいは見たけれど実際、面と向かって見たことがないの」

「……そうね」

「それって、どう思う?」

「そ、そんなの分かんないわよっ!」


 若輩者のソフィアは今の今まで、男の全身までは見たことがない。

 騎士学校では『男女七歳にして席を同じうせず』とまではいかないまでも、校則に従って生活上の施設や学生寮などは、男女別にきっちりと分かれていたからだ。


「でも汗を拭い取る時、二人とも上半身は脱ぐじゃない?」

「それは、そうよ」

「そういう時って、やっぱりハダカの付き合いよね?」

「当たり前でしょ……多分」

「ハダカの見せ合いっことか、そういうのしてるのかしら?」

「だから、そんなの知らないわよっ! もうっ!」


 配慮や遠慮がちのソフィアは、同性の裸をお互いに見せ合うことがなかった。なのに男性同士があっけらかんと身体を見せ合うことに、ふと疑問が沸いてしまったようだ。

 片や、若かりし頃のアーデライードは、男女問わず、興味や関心も示さず。考えたことなど微塵もない。だからと言ってはなんだが、どうしても気になったことがある。


「うーん……あそこって、どういうのかしら?」

「え、何か言いました?」

「い、言ってない! 言ってないわよっ!」


 見たことがあるともないとも、言っていいはずがない。乙女心を上回る羞恥心が桜満開となってしまったハイエルフであった。

 だが無理も承知で羞恥心を丸ごと消し去ると、その疑問が一つだけ唐突に浮かび上がる。


「あ、そういえば……エイトが『ドラ』って呼ぶようになったわね」


 ドラッセルの愛称である『ドラ』が、瑛斗の内緒に定着しているようである。

 本当に仲良くなっているのは、対人訓練ううん、模擬決闘が原因ではなかろうか。若かりし頃の男の子って、喧嘩が好きなのかしら。それとも別の、何かがあるの?

 そういえば昭和という時代では、いがみ合った若者らが河原で殴り合って、お互いに大の字になって、「オマエやるな」「オマエもな」とか、徐々に仲直りになっていって、より信頼感や結束力が固まったことがあるって、ゴトーがゆってたっけ――などと、色々と問い詰めてみたくなるくらい、頭の中がこんがらがって絡まったハイエルフである。



「お帰りなさい、ご主人さま~」

「朝食できたわよ、ごしゅじん!」


 天高く澄み渡る朝の挨拶は、元気良いライカとカルラは他になし。

 甲高くも愛くるしい声色に、朝も早よから疲れが吹き飛んでしまいそうだ。


「お料理は、ぜーんぶ焼きたてなのです!」

「みんな、どうぞなのだわ!」


 宿屋の前に大きなテーブルが置いてあり、オープンテラスになっていた。

 白いテーブルクロスの上に、料理とともに取り皿やカラトリーも人数とも丁寧に並べてある。並べているのは、恐らくサクラなのだろう。こういう時に限って下手に出るサクラは、こまめであり器用貧乏である。


「オッス、ご相伴に預かりました」

「お世話になります、オッス」


 後からまもなく、若手の大柄騎士・オルソンとマルティンもやってきた。

 折角の清容を整えねば心許ないと、着替えなどをしてきた様である。


「おー! 朝からにして、なかなかに豪勢だな!」


 朝食は、竈を借りた焼きたてのパン。水菜やラディッシュなどの新鮮なサラダ。

 そしてメインディッシュは、川魚ときのこのムニエルである。


「美味そうな料理だ。全部喰い尽くしちまうぞ、こりゃ」


 食いしん坊なドラッセルは、腹が減ったかぺろりと舌を出す。


「ご遠慮なく! 今日は大量に仕入れましたから!」

「だって、ごしゅじんがお帰りになったから、ねー?」


 ライカとカルラは「ねー?」に、いつも通りに掛け声を合わせた。どうやら久々の瑛斗のご帰還に嬉しくなって舞い上がったか、どうしても仕方がないご様子である。

 客人らに席をお通しすると、各席の前にある料理の素材をサクラが説明し始めた。


「これ、あたしが朝に魚釣って、カルラがキノコを採ったんだ」

「そうよ! 里の人々がキノコの穴場まで教えてくれたの!」

「そうそう、あたしも釣りの穴場まで、教えてくれたのさね」


 そう言うと得意満面なサクラとライカが、ぱちんとハイタッチした。


「ここ数日でだいぶ上達したんだね。サクラ」

「前に住んでた小屋の前に小川があってねぇ、魚釣りは趣味みたいなもんさ」


 テレテレと照れ隠しもしない、ざっくばらんなサクラである。

 風の吹くまま気の向くまま。のほほんと釣りをする、サクラの姿が目に浮かぶ。


「ま、私が朝どれのキノコを採っただけなんだけどねっ!」

「朝早くから採っただけでも大したもんだよ、カルラ」

「おかげさまで、私は調理するだけなんですけど、です」

「川魚のムニエルまで作れるなんて上達したね、ライカ」


 ライカとカルラは、頭を掻きながら「えへへ~」と恥ずかしそうに顔を綻ばせた。

 どうやらアーデライードの見立てによると、瑛斗は後輩を褒めて伸ばすタイプのようである。まだ幼くてメイド見習いであるが、資質は元より確実に上達しているのだ。


「むぅ、そういう方針も、あるにはあるわね」

「……むぅ」


 などと、勇者見習いの方針転換に策謀を巡らして、ほくそ笑むハイエルフ。

 その隣に座わすは、必ずやお褒めに預かりたい、膨れっ面のダークエルフである。


「それじゃ、朝食をいただこうか」

「はーい! いただきまーす!」


 瑛斗とエルフ二名、騎士四名に獣人族三名と、合計十名の大所帯である。

 ここ水郷にて和やかにも慎ましやかに、美味しく楽しい朝食会となった。

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