目的地へ……侵入・探索
「っきゃああああっっ! やったわっ! 倒したあぁっ!」
「うわわわっ、ノイズ苦しい苦しいっ」
一瞬の沈黙を破り、高音域での歓声を上げて、ノイズが僕にしがみついてくる。そのままがっくんがっくん揺さぶるものだから、僕としてはたまったものではない。
「やったぜクリスト! 俺たちの勝ちだっ!」
「そ、そのようですねリード、凄いですよっ!」
と、男二人も健闘を称え合い、驚きと嬉しさが混じった微妙な顔で喜んでいる。
僕たちはとんでもないことをやってのけたのだ。
伝説や記録などにも、悪魔族と戦い、勝利をおさめた者は数少ない、と記述されている。その数少ないパーティに、僕たちも名を連ねることになるのだから。いくら油断していたとはいえ、あの悪魔族に勝利した。それは僕たちに大きな自信を与えてくれた。生きるか死ぬかの勝負のとき、ちょっとした油断が命取り。今回の戦いはまさにそれだった。
僕たち冒険者は、いつ命を落とすとも知れない状況に身をおいているという時間が長い。
いくら冒険慣れしているとはいえ、油断するときはしてしまうのである。いや、慣れているからこそ、油断というやつがひょこひょこ現れるものなのだ。まして僕たちのようなまだまだヒヨッコで、経験なんてものは特に、他のパーティに比べると……………………いや……この話はあまりしたくないのだが、ここは一つ大人になって……。
改めて。僕たち四人がパーティを組んでの冒険はいくつかこなしている。が、それはその時の僕たちのレベルに合わせたクエストで、それでも何とかクリアしてきた程度だったんだけど……(しかもギリギリで)。
今回の冒険は、ほとんど情報もなく、挑んでいったパーティのそのことごとくが尻尾を巻いて逃げ帰るのがやっとだった、というとんでもないレベルの冒険だ。はっきり言って今の僕たちのレベルには到底無理なものだったんだ。まさに無謀。まあ……そんな冒険に出かけようとした時点で、身の程知らずを痛感しなきゃいけなかったんだけどね。
幸運なことに、何とか『迷いの森』を抜けることができた。いろいろなモンスターが襲ってきたし、クリストは致命傷に近い傷を負って、正直諦めかけたりもした。
最後には(いや、本当の冒険はこれからなんだけど)、悪魔族なんぞというとんでもないモンスターにも襲われ、やっとのことではあったけど、それさえも倒すことができた。
何度も同じことを思うんだけど、やっぱり、少しずつ……いや確実にレベルアップしている。ちなみに、僕たちの世界にはレベルをはっきりと数字で教えてくれるようなシステムはない。
自分のレベルを知る方法。それは個人によって違いはあるけど、僕の場合は、使える魔法が強力になった、とか消費する魔力が減ったとか、そういうもので何となく分かる。クリストも僕と同じようにみているようだ。リードの場合、始めからあまり変わっていないようだけど、剣の扱いについては最初の頃よりもずっと慣れてきているし、ノイズも、その華麗な体術に磨きがかかっているように見える。そして二人とも、驚くほどに体力が上がっている。さっきの悪魔族との直接対決のときのリードの判断は凄かった。型にハマった剣術ならば、確実によけられてしまうだろうけど、彼の動きは予測不可能。彼にとってみれば単なるその場の思いつきかもしれないけど、それでも戦士としての格は上がってきているんじゃないかな。
僕とクリストの当面の問題は、体力だ。僕たちは魔法を使う。そのための魔法は精神力を大幅に消費するので、魔法に関する精神力は問題ないだろう。欲を言えば、もう少し大きな術を持続させるための精神力が欲しいかな。だけど体力の面ではやっぱりあの格闘組の二人にはかなり劣る。担がれて運ばれるくらいなら、せめて自分の力で走りたい。
(このクエストが一段落したら、もっと体力つけなきゃね)
まだきゃあきゃあ騒いでいるノイズに揺さぶられながら、僕はふと決心した。
ひとしきり騒いだあと、僕たちは何となくその場に腰を下ろした。まだ興奮は冷めないが、やはり疲労は大きかった。
「うわきゃああああっ!」
「どうしたノイズ?」
いきなり悲鳴を上げたノイズに、全員の視線が集まる。その視線の前に、彼女は自分の右の拳を差し出した。悪魔族に繰り出したほうの手だ。手首ほどまでその体内に潜り込ませたその右手。当然のことながら、彼女のその拳には悪魔族特有のどす黒い血がこびりついていた。それを見てノイズは悲鳴を上げたのだ。
「あいつの傷口狙って打ったんだから、当然だよね」
言いながら僕は、水筒を取り出してノイズの右手についたどす黒い血を洗い流す。乾きかけていたので落とすのに苦労したが、右手そのものには傷らしい傷は見当たらない。クリストの魔法が、彼女の手を守ったのだろう。
「これでいいよ。傷もないし。あの悪魔族を相手にみんな怪我一つしてないんだから、よっぽど運があったんだね」
「そうですね……少し、疲れましたが……」
言いながら優しく微笑んでいるのはクリスト。彼も疲労の色が濃い。ほぼ最上級の魔法を立て続けに放ったのだから、それは僕も同じこと。魔力はほとんど残ってはいない。
体力と魔力の回復も兼ねて、目的の塔を目の前に僕たちはそこでキャンプをすることにした。
「しっかしすげえなお前ら……いつの間にこんな魔法使えるようになってたんだよ?」
感心したようにリードが言う。
「出発前にある程度準備していましたからね」
「それに僕たちは毎日鍛錬にいそしんでるし。ちょっとは見直した?」
冷たい地面に座り込んだまま、僕たちは交互に説明した。
僕が使った『聖』属性の魔法と、それを強化し支えたクリストの魔法。そして仲間に補助の魔法をかけて攻撃力と防御力をアップさせるもの。それぞれ実戦で使うのは、実はこれが初めてだったんだけど……結果良ければすべて良しってことで。
「でも二人もすごかったね。初めての悪魔族だったってのにさ」
「まあな」
「最初はそりゃ怖かったわよ……でもやらなきゃこっちが殺されてたわ、ねえ」
僕たちは改めて、お互いの健闘を称えあった。
「……で、本来の目的地なんだな? この塔が」
目の前にそびえ立つ古い塔を見上げ、リードが言う。
「うん。間違いないよ。上から見たのと方角は合ってるし、これ以外に塔なんて見えなかったしね」
僕が答える。すでに五芒星の結界を周囲に張り巡らせている。問うたリードも、枯れ枝を集めてキャンプの準備を始めていた。着地したときに荷物が辺りに散らばってしまったんだけど、どうやら壊れた物などはなかったようだ。一つ一つ点検しながら拾い集めているのはクリスト。ノイズは少し離れた場所に枯れ枝を集めに行っている。
時間はまだ昼頃だろう。が、これからどんな障害が待ち受けているか分からない未知の塔へと入っていくのだ。いつ脱出できるか分からない以上、比較的安全と思われるこの場所でキャンプを張り、次の朝を待って塔へと進むのが妥当。
この地が安全だろうと考えた理由は一つ。もしさっきのような悪魔族が他に潜んでいるのならば、あいつが倒れたあと、すぐにでも攻撃を仕掛けてくるはずだ。だがその襲撃はおろか、気配すら感じない。もしまだ悪魔族がどこかに潜んでいて、こちらの隙を窺っているのだとしても、塔の中に入ってしまえば逃げ場がなくなる。
どちらにせよ、この状況……四人ともにかなり消耗しているこの状況では、ここでそれぞれに回復を待つしかないのである。
「……どうやらあの悪魔族、この塔か、森の上空の見張り程度の奴だったみたいね」
薪を集めて戻ってきたノイズが、こんなことを口走った。
「何でそう思うの?」
「だってほら、あそこ」
と、ノイズが指差したのは塔の最上階付近に見える召喚用の魔法陣。魔法に疎いノイズが指差すそれは、紛れもなく悪魔族召喚のためのサークルだった。
悪魔族を召喚するにはそれなりの魔力と技術が必要で、とくに重要なのがあのサークル。人間の血を使って描くという物騒極まりないシロモノだ。サークル一陣につき召喚できる悪魔族は一体のみと言われている。
なるほど、と僕は納得した。これならば、夜間でもまた悪魔族に襲撃されるなんてことはまずないだろう。
僕たちが話している間にも、キャンプの準備は着々と進んでいた。
リードが薪を組み上げて少し大きめの焚き火を起こす。その隣で、クリストが保存食やら小麦粉やらを取り出して、料理を始めていた。昨日狩ってきた獲物の燻製の他にも、リードはすでに何匹か小動物を仕留めてきたようだ。
……毎日のように獲物を狩り、僕たちの食料にしているけど、そのほとんどはリードとノイズの胃袋におさまってしまう。余ったものは何とか確保して保存食にしているが、いつの間にか数が減っている。おそらくは、リードかノイズ、あるいは両者が僕に気づかれないようにくすねているのだろうが。まあ、このあたりは主戦力たる二人のこと、途中で空腹で動けないなんて状況になるよりはマシだと思って我慢している。
この森には凶悪なモンスターも数多く生息しているようだけど、幸いなことに食料となる小動物も多い。全員揃って餓死、ということはまず考えられない。
新鮮な獲物をクリストが器用にさばき、これもまたクリストが発見してきたのだろう香草などを挟んでいく。そして、小麦粉で作った簡易パンの中に包んで、焚き火の炎で火を通す。僕たちのキャンプの定番、包み焼きだ。
僕は残りの獲物を燻製にするべく、いつものように地面に穴を掘り、火をつけて獲物を吊るす。最近はようやく慣れてきて、焦がすことは少なくなった。……時々うっかりして焦がすこともあるけど。
周囲を五芒星の簡易結界が包み、その中には包み焼きの香ばしい匂いが漂い始めた。みんながみんな、疲労困憊のこの状況。今朝飛び立ってからそれほどの時間が経過したわけではないんだけど、もう丸一日が過ぎてしまったようだ。
焼きたての包み焼きをそれぞれに頬張り、しばらくリラックス。これから挑戦する塔を目前に、それぞれが無言のまま決意を固めているが、それも明日になれば分かること。
クリストと僕が地図を眺めたり魔法の調子を確認したりしている間、リードは趣味の剣の手入れ、ノイズは汚れた服を着替えて、身だしなみのチェックに余念がなかった。
明朝まではまだかなり間があるが、それまでには先程の戦闘での疲労も完全に回復しているだろう。
冒険はいよいよ佳境に迫ってきている。メンバーは、それぞれの期待と不安を胸に、束の間の休息を過ごしていた。
陽はまだ高いが、少しずつ、遠くの空の色が茜色に染まる。焚き火の炎を絶やさぬように、代わる代わる薪を追加していく。僕たちの本当の目的は、この塔の中にあるのだ。
眩しいほどの朝日が、木々の隙間を通り過ぎて僕たちの目に入る。……夜が明けた。
目的の塔は、改めて良く見るとかなり古いもので、周囲を気味の悪い蔦のような植物が這っている。その表面は石造りで、いくつもの亀裂が入っている。いつ崩れてもおかしくないほどに、老朽化が進んでいた。ここで大きな地震でも起こったら、あっという間に崩れ落ちてしまいそうだ。
建物は六階建て。それは各階についている窓を数えれば分かる。見た目から判断する限り、クリストが持ってきた図面と一致していた。
「……ってことは、入り口は裏手か……」
リードが塔の壁を調べながら言う。
僕たちがいるのは塔の正面側だと思っていたんだけど、肝心の入り口が見当たらない。リードとクリストが丹念に壁を調べていたが、隠し扉のようなものはなかったようだ。
「それじゃ、みんな準備はいいか?」
僕たちを見回し、リードが自分の装備を確認しなが言う。みんなそろって頷き、いよいよ出発だ。
「これか……」
ぐるりと塔を回りこむと、蔦にほとんど隠れていたけど、立派な装飾の施された両開きの大きな扉があった。扉の周囲を覆うように不思議な装飾文字が並んでいる。古代に消滅したという魔道文字だったんだけど、残念ながら蔦が邪魔をし、文字もかなりかすれて読み取れない。
「開けるぞ」
扉に両の手を当てて、確認するようにリードが言う。言いながら、すでに扉を押し開け始めている。
「気をつけてリード、何か罠があるかもしれませんから」
慎重な声で、クリスト。一つ大きく頷くと、リードは力いっぱい扉を押し開けた。絡まっていた蔦がちぎれる音と、軋んだ大きな音が辺りに響き、塔の入り口が開いた。
ごくり……
誰かが、あるいは僕自身が、息を呑む。外から覗き込んだ塔の内部は、真っ暗だった。
「真っ暗だね……窓あるのに……」
ぽつりと言った僕の言葉に、みんながこちらを向く。
確かに、一階にも窓はあったはずなのに、日の光は中に入ってきていないようだ。
「気味悪いわね……」
ノイズも中を覗き込んで呟く。
「ランタンをつけよう。……行くぞ」
荷物の中から、それぞれに小さなランタンを取り出して火をつけ、リードを先頭に、ゆっくりと、塔の中へと入っていく。無意識に、足音を立てないように。静かに進んでいく。
四人全員が中へ入った、その途端。
ぎぎぎいいぃぃぃっ……バタンッ!
「わっ!」
「何っ?」
「扉がっ!」
耳障りな軋んだ音と、やたらと派手な音を立てて、突然扉が閉まってしまった。当然、誰も扉には触れていない。
「……さっそく、一つ目のトラップってわけですね……」
緊張した声でクリストが言う。
辺りは、僕たちが灯したランタンの明かりで、何とか周囲を見渡せる程度に薄暗かった。
「何もないね」
ランタンで辺りを照らし、注意しながら部屋の中を歩き回って僕が言う。
塔の一階は、その言葉どおりに何もなかった。外から見えた窓も、中からは見えない。周囲の壁一面と天井、そして床が石造りになっていて、階段さえ見当たらなかった。ただの倉庫のような部屋だ。
「どうやって上まで行くのかしら……?」
何気なく天井を照らしながら、ノイズが言う。どうやら最初から行き詰ってしまった。
僕はクリストの傍に戻り、彼が持っている塔の見取り図を一緒に覗き込んだ。見取り図にはきちんと階段らしきものが書き込まれている。ついでに言うなら、窓もあるはずなのだが。
「おかしいですね……階段があるはずなんですが……」
クリストも頭を抱え込んでしまった。
「んー……考えても仕方ねーや、一回外に出よう」
ぽりぽりと頭を掻きながら、やはりランタンを片手に部屋を調べていたリードも、はや諦めかけた口調で提案する。どうしたらいいか、いい案もない僕たちもリードの提案に賛成して、入ってきた両開きの大きな扉に向かう。……が。
「あああっ?」
「嘘っ!」
「ない……」
扉があるはずの場所に戻って、僕たちは唖然とした。
たった今入ってきたはずの大きな扉が、忽然と消えていた。扉があった場所には、周囲の壁と同じような石が敷き詰められていた。
「とっ……閉じ込められた……?」
「どうすんのよっ?」
あまりのことに取り乱すリードとノイズ。僕とクリストは、内心かなり動揺しながらもランタンを照らし、扉があった場所を丹念に調べてみる。周囲の石造りの壁とほとんど変わらない壁があるだけだったけど、ひとつだけ、周囲のそれとは違うものがあった。
「クリスト、これ」
「ん……? これは……魔道文字?」
「うん、かすれてるけど……何とか読めるかも」
僕たちの声が届いていないのか、リードとノイズはまだ取り乱している。ランタンを振り回し、あたりの壁を所かまわず叩いたり蹴ったり。
そんな二人を尻目に、僕は必死になって魔道文字を読もうと記憶をたどっていた。
「…………夜明け……と、ともに……開く、天への扉……かな?」
「夜明けとともに開く……? 時間のことでしょうか?」
文字の解読は多分間違いない。ということは、クリストの言うとおり、夜が明ける時間に何かが起こるのだろうか。そうなると、僕たちはこの何もない空間でもう一夜を明かさなければならなくなるのだが……。
と、僕はその文字の横に不思議な記号を見つけた。
「クリスト、ここ見て。何か記号が書いてあるよ」
「これは?」
「うん、魔道文字の一つだ……方角を示すものだと思ったけど…………そっか!」
「えっ? 分かったんですか?」
その記号には見覚えがある。まだこの魔道文字が一般に使われていた時代に、地図などで方角を示すためのものだ。それと先程の魔道文字が意味する言葉をつなぎ合わせると、ふとある考えが浮かんできた。
不思議そうな顔で僕を見ているクリストに向かって人差し指を一本立てる。
「まあ見ててよ」
言って僕は、扉から見て左側の壁に向かう。手には、荷物の中から取り出したコンパス。コンパスが指し示す方向は、東。僕は迷わずコンパスの示す東側の壁に向かってランタンを照らす。僕もリードも調べた普通の、何の変哲もない石造りの壁。そこをもう一度、丹念に調べる。何のヒントもなくただ何かを探すのと、ヒントがあって調べる対象が分かっているということは、かなり違うものだ。
僕は間もなく目的の物を発見した。
それは他の壁に使われているのと大して変わらない石だが、微妙に形が違っていた。僕は迷わずそれを力いっぱい押してみる。
「何やってんだ?」
僕がなにやら壁に向かっているのに気付いて、リードが訝しげな顔をしながら近づいてきた。僕は答える代わりにちらりとリードに目をやり、さらに石を押し続ける。
「うぅ……りゃっ!」
ごぐんっ……
「うわっ!」
「をうっ?」
いきなり押していた石が鈍い音を立てて引っ込んだので、そのまま前につんのめってしまった。リードも慌てて数歩飛びのく。
「何だ?」
ごごごごぅうぅぅ……んっ!
やはり同じように鈍い音が、部屋全体に響いてくる。腹に直接届くような重い音。
「……やっぱり」
僕は勝ち誇った気分で一言呟いた。
音はまだ続いているけど、その音とともに天井からぱらぱらと石の小さな破片と埃とが一緒になって落ちてくる。そんななか、天井が大きく口を開け、そこからやはり石造りの階段がゆっくりと降りてきたのだ。ヒントがなければ一生この真っ暗な冷たい部屋に閉じ込められるところだった。
「何がやっぱりなんだよ?」
さっきから質問を繰り返しているリードが、痺れを切らしたように聞いてくる。ノイズもクリストも似たような表情。
「あのね、さっき扉があったところに魔道文字と記号があって」
「魔道文字?」
ノイズが口を挟む。
「うん。何とか読めたんだけど……」
「『夜明けとともに開く天への扉』、でしたっけ」
「そうそれ。夜明けってのは東から来るでしょ? 『天への扉』っていうのは、多分この階段のことで、その横にあった記号」
「記号?」
と、今度はリード。
「魔道文字と一緒に使われてた古いもので、方角を示すやつ。それが東を示してたんだ」
『夜明けとともに』とはスイッチのある方角を示すヒントで、東側の壁に隠すように埋め込まれていた石のスイッチ。『天への扉』は、言葉こそ大袈裟だが、要は上の階へと続く階段のことだったのだ。一昔前の魔法使いが好んで使いそうな言葉のヒントである。
「一応調べたのになぁ……そんなもん見つけられるわけねーわな」
ちょっと悔しそうに、僕が押した石をじっくりと眺めている。確かに、リードの言うとおり、普通に探していたんじゃそう簡単に見つかるものではないだろう。
その石は、周りとちょっとだけ形が違うだけに見える。だけどそれは、魔力をもたない人にとって、という部分に限られる。僕のような魔法使いや僧侶とか、それなりの魔力をもった人にしか分からないような、微弱な魔力が宿っていたのだ。リードが見つけられなくて当然だ。
とにかく、これで二階への通路が開いた。
「さぁて、行きましょ? とりあえず、上に」
服に付いた埃を払いながら、不敵な笑みを浮かべてノイズが言う。さっきまで取り乱して騒いでいたわりに、冷静だ。こういうところの切り替えの速さはさすがと言うべきなのか。
この部屋から出るための唯一の通路はこの階段しかない。
僕たちはまた一つ頷くと、今度はノイズを先頭にして、一列になって石段を登った。