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Peace Maker  作者: 那津
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-The good die young-



四章 -The good die young-





寮の中を二人並んで歩いていたシャルは、ふとカーサの抱えている本に目を留めた。

「ところで、それ何の本ですか?」

覗き込むと表紙に『魔法』と書かれていた。

「魔法?先輩魔法使えるんですか?」

彼は苦笑する。

「違う違う。単にお勉強するだけだ」

「魔法をですか?」

「まぁ、正確に言うと、魔法の仕組みを勉強するんだけどな」

「仕組み……?どうしてそんな難しそうなこと勉強するんですか?」

カーサはニッと笑う。

「奴との約束だ」

「え?」

「あ、俺この本部屋においてくるから先に食堂行っててくれ」

カーサは階段の方へ駆けて行った。

シャルは小さくなっていく彼の後ろ姿を見ながら小首を傾げたが、やがて食堂へ向かった。食堂では既に食事を始めている者も何人かいる。

レイマンはまだ来ていないようで、シャルはカウンターからシチューとサラダの乗っているトレーを取ると適当に空いている席に座った。

そしてシチューを一口食べようとした時だった。後ろの席から話し声が聞こえて来た。

「聞いたか?交通課のラウナル・イオン。地下で三日間謹慎だってよ」

「ああ、知ってるぜ。なんでも、スピード違反の車捕まえるために車がたくさん通ってる交差点を猛スピードで横切ったらしいじゃねぇか」

男達は鼻で笑った。

「やっぱり、昔殺人しかけた奴だから乱暴だな」

「全くだ。俺らも気をつけとかねぇといつ殴られるかわからねぇな」

彼らは声を上げて笑った。

シャルは思わず立ち上がった。そして、彼らのうちの一人の男の肩を掴むと、その男を振り向かせる。

「何だよ」

シャルは彼に怒鳴った。

「先輩は、今は心を入れ替えて警察官として頑張ってるんです。何も知らない人が先輩のことを悪く言わないでください!」

「は?新人が先輩に偉そうに吼えるなよ!」

彼は立ち上がってシャルを殴ろうとした。

しかし、その手が誰かによって止められる。

「落ち着け、二人とも」

レイマンだった。

「レイマン先輩……」

彼は男の手を下ろさせると静かに言った。

「たしか、ラウナル先輩は君達にとっても先輩だったと思うが、先輩の悪口を影で言うのは感心しないな」

「……」

レイマンはシャルを見る。

「シャルも、いきなり怒鳴ることはないだろう」

「……すみません」

何事かと今まで動きを止めていた周りの者達は、これで丸く収まったと食事を再開した。

ラウナルの悪口を言っていた男達は、シャルを睨むように見てトレーを持つと席を移動した。

レイマンはシャルを席に座らせ、自分はその隣に座る。そしてクスクス笑った。

「入署2日目にして早速先輩を敵に回したな。これからは何かと白い目で見られるかもしれないよ」

シャルは口を尖らせた。

「上等です」

レイマンは声を上げて笑った。

そこへカーサが血相を変えて走ってきた。

「おい、シャル。聞いたぜ。お前先輩に怒鳴ったんだって?」

シャルは呆気に取られた。

「情報早いですね……」

「さっきそこで聞いたんだよ。なんでも理由もなしにいきなり怒鳴ったとか?」

ついにシャルはポカンと口を開けた。

「噂ってこうやってひどくなっていくんですね」

「は?何言ってんだ?」

するとレイマンがカーサに言った。

「理由もなしに怒鳴ってなどいないさ。怒鳴られた男たちがラウナル先輩の悪口を言っていたんだよ」

「そうなのか?」

「はい。……乱暴だって」

カーサは舌打ちした。

「またか」

「また?」

「ああ。ラウナル先輩が昔、人を殺しかけたって話知ってるか?」

「はい。聞きました」

「ここの者でそれ知ってる奴は多くてよ。先輩はそのことでよく影でコソコソ言われたり怖がられたりしてるんだ」

シャルは眉間に皺を寄せる。

「先輩のこと何も知らないくせに」

そしてふてくされたような顔をした。

「警官にあるまじきことです」

するとカーサはふん、と鼻を鳴らした。

「警官が全員いいことする奴だなんて大きな間違いだぜ」

「え?」

そこでレイマンが二人の会話に割り込んだ。

「まぁまぁ。早く食事を済ませよう。せっかくのクリームシチューが冷めてしまうよ」

そしてカーサを座らせた。

カーサは目の前のブロッコリーのサラダを見るなり眉間に皺を寄せる。それを見たシャルはクスクス笑う。

「全部食べなきゃだめですよ」

「うるせぇな。わかってるよ」

「そうか。カーサはブロッコリーが苦手だったな」

「ったく。こんな小っせぇ木のどこがおいしいんだ」

「全部よ」

カーサの目の前の椅子が引かれて、そこへネアンが座った。

「ネアン」

レイマンは微笑んだ。

「ありがとう。今日のご飯も美味しいよ」

ネアンは嬉しそうに笑う。

「ありがとうございます」

そしてカーサの方を向いた。

「ちゃんとブロッコリー食べてね。シャル君とかレイマンさんにあげたらだめよ。ちゃんと栄養のバランスも考えてるんだから」

「はいはい。それよりいいのかよ。暇じゃねぇんだろ」

あっち行けとでも言うような彼の台詞にネアンは小さく舌を出した。

「いっつも『美味しい、ありがとう』って言ってくれるレイマンさんを見習ってほしいわ」

そしてふとシャルの方を見ると、軽くウインクをする。

「そうだ、シャル君。アレ、よろしくね」

シャルは笑って頷いた。

「わかってるよ」

すかさずカーサが突っ込んでくる。

「何だ?アレって」

ネアンは再び舌を突き出した。

「カーサには教えない」

「何だよそれ」

「じゃあ、俺には教えてくれるのか?」

背後から声が聞こえて、ネアンは振り向いた。

そこにいたのはトレーを持ったディーズだった。

「ディーズ……さん!」

ネアンの顔は見る見るうちに真っ赤になっていった。

「何?アレって」

首を傾げて尋ねるディーズに、ネアンはあたふたと言った。

「え……えっと……その。……そうです!今度、シャル君がお休みの時にお遣いを一緒に行ってもらおうと」

「へぇ、仲いいんだな」

「あ……はい」

ディーズはシャルの前に座った。そしてニヤニヤ笑って言った。

「好かれてんじゃねぇか、シャル」

「え……はぁ。まぁ……」

シャルはチラリとネアンを見た。落ち込んでいるような顔をしている。

ネアンは小さく『それでは、失礼します』と言ってその場を小走りに去った。

何か彼女を元気付ける方法はないかと思案したシャルは、早速あの質問をしてみることにした。だが、突然訊いても不自然なのでまずはカーサから訊いてみようと考えた。

「ところで、カーサ先輩ってどんな女性が好みなんですか?」

カーサは一瞬驚いたような顔をした。

「何お前、そんな話好きなわけ?」

「え……や、ちょっと、ふと思ったので」

「そうだなぁ……。俺はさっぱりした子が好きだな」

「へぇ……。レイマン先輩はどうですか?」

まさかそんなことを訊かれると思っていなかったレイマンは驚いていた。だが笑顔で質問に答えてくれる。

「私か?……私は、気の合う人ならどんな人でもいいな」

「そうなんですか。あ、先輩って結婚してます?」

彼は苦笑した。

「いいや。32歳だが独身だよ」

「恋人とかいないんですか?」

「いないよ」

シャルはニコリと笑う。

「いい出会いがあるといいですね」

「そうだな」

レイマンは笑ってくれているが、そこでカーサが低い声で言った。

「お前、それ余計なお世話だぜ」

「え!?あ、ごめんなさい。失礼しました」

レイマンは笑いながら手を振った。

「気にしてないさ」

ここでシャルは本題へ入った。

「あ、ディーズ先輩はどうですか?」

「俺?」

「はい。どんな人がタイプですか?」

「俺は……かわいい子だな」

「……顔で選ぶんですか?」

「顔もあるけど、やっぱ一番は性格的に見てもかわいい子がいいな」

「この署にいますか?」

ディーズはしばらく考えているようだったが、やがて肩をすくめた。

「さあな。ここは女子が少ないとはいえまだまだ知らねぇ子いっぱいいるし、ひとりくらいはいるんじゃないのか?」

「へぇ」

シャルは、頭の中でネアンの顔を思い浮かべた。かわいいと、自分は思う。それに、性格もいい。まだ知り合って間もないから詳しくはわからないが、きっと性格的にもかわいいだろう。

しかし、それは主観的に見ての話だ。ディーズはどうなのかわからない。一歩踏み出して『ネアンはかわいいですか?』と訊きたいところだが、それでは確実にわかってしまう。

シャルは踏みとどまって、シチューを口に入れた。

そこで、カーサが首を傾げる。

「お前はどうなんだよ?」

「え?」

驚いた顔をするシャルにカーサは更に問いかけた。

「シャルはどんな子が好みなんだよ?」

「自分ですか?……えっと」

シャルはしばらく考えた。

生まれて此の方17年、異性を好きになったことはなかったし、好かれたこともなかった。そもそも、女の子との交流が昔からあまりなかったのだ。

「……」

なかなか答えを出さないシャルに、カーサは目を細めた。

「なんだよ、話ふってきたのお前じゃん。それなのに自分に答えはないのか?」

何か怪しまれたかと思ったシャルは、あたふたと言葉を繋ぐ。

「いえ、あります!えっと……えっと……」

シャルは必死に考えた。

自分の好きなタイプ。

自分の好きな性格。

自分の好きな人。

自分の好きな―――。

シャルはもう混乱していて、わけもわからずハッキリと大声で言った。

「そう!子供です!」

一瞬その場が冬の真夜中のように静まり返った。

やがてカーサは真顔で返す。

「……ロリコン?」

シャルは顔を真っ赤にした。

「ばっ!……違います!」

「だってそうだろ?子供って」

「だから、そうじゃないんです。今のは間違いで」

カーサはケラケラと笑った。

「うっわぁー。聞いたか?シャルって顔に似合わずロリコンなんだぜぇ」

するとそれにディーズも乗ってきた。

「ルルが危ねぇな」

「あ、ほんとだ!危険だ!」

シャルは怒鳴った。

「先輩!」

そこでレイマンが口を開く。

「やめないか二人とも」

唯一味方になってくれた、とシャルは輝くような顔で彼を見る。しかし、レイマンは真剣に言った。

「別に良いではないか、ロリコンでも。危害さえ加えなければ」

「レイマン先輩まで……」

シャルは泣きたい気分だった。




「……ひどい目に遭った」

疲労感を感じながらシャルは風呂から上り、廊下を歩いている。濡れてボリュームのなくなった髪をタオルで乾かしながら、一階にある自動販売機で水を買った。それを飲んでいると、軽い足音が聞こえた。

「シャル君」

横を向くとネアンがいた。

「ネアン」

彼女は不安そうな、緊張したような顔をしながら尋ねた。

「ディーズ先輩に訊いてくれた?」

「うん。訊いたよ」

「何だって?」

シャルは微笑んだ。

「かわいい子がいいんだって」

それを聞くなりネアンは両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。

「だめだぁ……っ」

「え?何で!?」

シャルは目をまるくして、小さくなっている彼女を見た。

「だって……私かわいくないもん」

「そんなことないよ。それにディーズ先輩は性格的に見てもかわいい子がいいんだって」

「性格的に?」

ネアンが首を傾げながらシャルを見上げる。

「うん。さすがに『ネアンはどうですか?』とは訊けなかったけど、でも僕からしてみたらネアンは顔も性格もかわいいと思うよ」

「……お世辞?」

「違うよ。本気で」

ネアンは照れたように小さく笑う。

「ありがとう」

「それに、ちゃんとはわからなかったけど好きな人もいなさそうだったよ」

「本当!?」

「うん」

彼女は立ち上がるとシャルの手をぎゅっと握る。

「ありがとう!元気出た!」

シャルは笑った。

「どういたしまして」

そしてあることを思い出して彼女に尋ねる。

「そういえばさっき、僕が休みの時にお遣いに一緒に行ってもらおうと思ってて、ってディーズ先輩に言ってたけど?」

「本当は3食の食材は業者に発注して持ってきてもらうんだけど、時々発注ミスで食材の数が足りないことがあるの。そういう時私達ヘルパーは近くのお店に食材を買ってこなきゃいけないんだけど、人手が足りない時とかは仕事が休みの警察官数人に頼んで付き合ってもらうの」

「じゃあ」

シャルはニコリと微笑んだ。

「ディーズ先輩を誘ったらどう?」

「え!?」

「好きなんでしょ?いっぱい話したいんでしょ?」

「……でも、なかなか声かけられないし」

「大丈夫だよ。僕がネアンと買い物を付き合うことになってるんだから、僕が先輩を誘ってあげるよ」

「本当!?」

「うん。多分次の日曜、僕と先輩は休みだったはずだから頼んでおくよ。それで、買い物行ったら僕はさっさと別の所行くからさ」

彼女は本当に嬉しそうだ。

「ありがとう!ほんっとシャル君ていい人!」

「いいえ」

シャルはくすくす笑う。

恋している女の子は、かわいくてどうしても応援したくなる。

シャルは水を飲み干してネアンに手を振った。

「じゃあね、今日のシチュー美味しかったよ」

「うん。ありがとう」

ネアンも小さく手を振り返した。

シャルはそのまま部屋へ帰る。一歩入るとからかうような声が聞こえてきた。

「よう、ルルに手ぇ出すなよ」

カーサだ。ベッドに座って本をたくさん広げている。

「だから違います!!」

睨むとカーサはくすくす笑う。

「カーサ、いい加減にしないか」

自分のベッドに腰掛けていたレイマンが静かに言った。

「だってシャルってからかい甲斐があるからさ」

シャルはため息をつきながら二段ベッドの上へ上った。そこには大量の本が置かれていた。恐らくカーサのだろう。

梯子の上からカーサを振り返る。

「ここに本置かないでくださいよ」

「ああ、悪い悪い。物置の感覚がなかなか抜けなくてさ。こっち回してくれるか?」

「……ったく」

「それなら下へ回すといい。私が受け取ろう」

下のベッドからレイマンが言った。

「ありがとうございます」

シャルはベッドに上ると一冊ずつ、下から手を伸ばしているレイマンに手渡した。

見ると本は全て魔法に関係するものばかりだった。

ふと、最後の一冊のタイトルに目が留まった。

『魔法は禁忌』

赤く大きく書かれている。

シャルは思わずその固い表紙を開いた。表紙の裏側に、小さく何か書かれている。ゆっくりとそれを読んだ。



――世の道理


世の中に秩序を保ってそこにある万物を、この世の物ではない力で無理に変えてはいけない。


それがこの世の古今不変の掟。


それを破りし者は命を削り償うべし。


それがこの世の古今不変の罰――



「もう終わりかい?」

レイマンが下から覗き込んできた。

シャルは思わずベッドから飛び降りた。

「先輩、これって……」

突き出された本に書いてある文章を読んだレイマンはため息をつくとカーサを見た。

「あれほど注意しろと言ったのに。見つかってしまったではないか」

「……悪い」

カーサは申し訳なさそうだった。

レイマンは苦笑してシャルに言った。

「すまない。心配をかけないようにと黙っておくつもりだったんだが」

だがシャルはそんなことはどうでもいい。ずい、とレイマンに詰め寄った。

「これはどういう意味ですか?レイマン先輩は魔法使いなんですよね?この世の道理って」

「そのままの意味だよ」

静かにレイマンが言った。

「魔法はこの世の物ではない。魔界の力だ。呪文を唱えることにより魔界への扉を開きそこから我々が魔法と呼ぶ不思議な力を得る。それを行うのが魔法使いだ。だがこの世には古今不変の掟と罰がある。それが、その本に書いてあることだよ」

「じゃあ……命を削り償うべしって」

「そのままだ。魔法を使った者は、世の中に秩序を保ってそこにある万物を変えた力の大きさだけ、命が削られる」

シャルは愕然とした。

「……レイマン先輩は、今までどれだけの魔法を使ってきたんですか?」

「たくさん使ってきたよ。子供の頃から」

シャルは恐る恐る訊いた。

「じゃあ、あとどのくらい……なんですか?」

レイマンは首を横に振る。そして軽く苦笑した。

「残念ながら分からないんだ。あとちょっと魔法を使ったら死んでしまうかもしれないし、まだまだたくさん使えるかもしれない。命は自分の寿命から削られていく。私の寿命が元々どのくらいまであったのかがわからないし、どれだけの魔力でどれだけの命が削られるのかも解明されてはいない。だから、いつ死ぬかなんて誰も知らないんだ」

「皆は、この道理を知っているんですか?」

「ああ。魔法使いならもちろん、そうでなくてもここの警察署の者は大抵知っている」

「総監も?」

「ああ」

「ならどうして魔術課なんてものがあるんですか!?」

レイマンは微笑んでいる。

「確かに、魔法を使うことにリスクはある。そのため魔法使いは今では大分少なくなっている。だが、そんな魔法を使うことで多くの人々が助かることもまた事実。だから魔術課があるのだ」

「そんな……」

悲しそうな顔をするシャルに、レイマンは穏やかに問いかけた。

「シャル、どうしてラベル警察署がこんなにも細かく課を分けているのか、知っているかい?」

「え……?」

「それは、私たち魔術課のためでもあるんだ」

「魔術課のため?」

「課を細かく分けて、そこにそれぞれ得意分野を生かした人を配置する。そうすることによって、その課の仕事が徹底され、魔術課の出番は極限にまで少なくなる。例えば、爆弾は魔法で止めることができる。だがそれを次々としていけば魔法使いは次々と死んでいってしまう。だから爆発物処理課を作ったんだ。そしてクルのような爆弾処理の得意な人を置くことで、彼らが全力で爆弾を止めようとしてくれる。それでもどうすることもできなかったら、私たちが出るんだ。爆弾だけではない。カーサの仕事である捜査課でも、君の仕事である交通課でも同じことが言える。私たちはそんな君達のおかげで日頃頻繁に魔法を使わなくて済むんだよ」

「……でも、そんなのあんまりです」

「かまわないさ」

レイマンは優しく笑った。

「魔法を使うことによってリスクを負うのは、魔法を使った本人だけなのだから」

「そんな……」

「私たち魔法使いは、魔法使いであることに誇りを持っている。自分の命を削って人を救うことは本望だ」

まだ何か言いたそうなシャルに、後ろからカーサが言った。

「やめとけ」

シャルは彼を振り向いた。

カーサはゆっくりと顔を上げてシャルを見た。

「だってよ、レイマンって」

呆れたように笑う。

「お人好しバカだから」

そして小さく肩をすくめる。

「だから、何言っても無駄。俺も昔かなり説得したけどこの頑固おやじめ」

レイマンは声を上げて笑った。

シャルは思わず声を荒げる。

「笑い事じゃないでしょう!」

するとレイマンは一瞬キョトンとした後、すぐに微笑んだ。

「シャル、君は優しいんだね」

「え……」

何も言えないでいると、カーサが言った。

「心配すんなって。絶対俺が世の道理を覆してやるからよ」

「世の道理を覆す……?」

カーサを見ると、彼はニッと笑ってベッドに広げてある大量の本やノートを指差した。

「俺が何のためにお勉強してるかわかってんのか?」

「……あ」

「そ。世の道理を覆して、命削らずに魔法を使える方法をなんとしてでも見つけ出してやる」

「そんなことが、できるんですか?」

カーサは決意のこもった瞳を光らせた。

「やるんだよ」

世の道理を覆すなんて、ただの人間ができることとは到底思えない。しかし、彼はレイマンのために必死に道理と戦っているのだ。

その意志の強さを汲み取ったシャルは、カーサのベッドに手を付いて身を乗り出した。

「自分も手伝います!」

カーサはニヤリと笑う。

「足手まといになんなよ」

「もちろんです!」

後ろではレイマンが苦笑している。

「気持ちだけで十分なのだが……」

「いいえ、だめです。人を助けているのに命が削られるなんてあんまりです。絶対にこの世の道理を覆してみせます!」

レイマンは微笑んだ。

「ありがとう」

その夜、シャルはさっそくカーサと共に勉強を開始した。

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