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Peace Maker  作者: 那津
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-Fight evil with evil-



三章 -Fight evil with evil-




署内に短い音楽が流れた。

それを聞くや否や、キールは楽しそうに立ち上がる。

「お昼だぁ。もうあたしお腹ペコペコ」

ラウナルも、隣で書類を整理しているシャルに声をかけた。

「ほら、新人。あんたも行くで」

「お昼ですか?」

「せや。寮の食堂で食べるんや」

「わかりました」

シャルは本を閉じて立ち上がった。

だが、モカとディーズは仕事を止める気配がない。

「モカ先輩とディーズ先輩は行かないんですか?」

「二人は俺らの後や。昼食は交代で取んねん。部屋に誰もおらんなったらあかんやろ。ほら、はよ行くで。昼食取り終わったらそのままパトロールや」

「はい」

キールはニコニコとモカとディーズに手を振った。

「じゃあお二人さん。お先に失礼。おっいしーい昼食をお腹いっぱい食べてくるよ」

廊下を小走りで走っていく。

「……ものすごい嫌味ですね」

シャルが苦笑するとヴァウェルが無表情でドアに手をかけた。

「いつものことだ」

彼が出ると、ラウナルとシャルも後に続く。

「お先に失礼します」

「ああ、しっかり飯食っていけよ。けど、食いすぎには注意だ。あと、よく噛んで消化しとけよ」

「わかってますよ。子供じゃないんですから」

シャルが出て行くと、ディーズは意味ありげに笑う。

「人の忠告は素直に聞くもんだぜ」

モカも心配そうな表情を浮かべる。

「シャルさん、大丈夫でしょうか?」

「さあな」

「何事もなければいいのですが……」




食堂へ行くと、カーサとレイマンが長テーブルに座っていた。彼らは手を振ってシャルを呼んだ。

シャルが隣に座ると、カーサがニッと笑う。

「お前、交通課なんだな」

「え、どうして知ってるんですか?」

カーサはシャルの制服を指差した。

「ボタンだよ。制服のボタンの柄が課によって違うから、そこを見ただけで相手が何課なのかわかるようになってるんだ」

シャルはカーサの物と見比べてみた。確かに、デザインが全然違う。

「本当だ……」

「残念だったな、捜査課ではなくて」

レイマンがシャルのコップに水を注ぎながら言った。

「あ、ありがとうございます」

「で?交通課はどうなんだ?」

「なんていうか……」

シャルは苦笑する。

「個性的な人たちばかりですね」

「なんやそれ、褒め言葉か?」

シャルの向かいにラウナルが座る。

「ラウナル先輩」

「おう、カーサ。久しぶりやな」

「そっか。先輩確か交通課でしたね」

レイマンがラウナルに水を注いでやる。

「おおきに」

「いいえ」

「レイマンも久しぶりやな。元気にしてるか?」

「はい。おかげさまで」

カーサはシャルに尋ねた。

「ところで交通課って他に誰がいたっけ」

「えぇと……。班長がディーズ・レイト先輩。副班長がヴァウェル・オリント先輩、後はラウナル先輩とキール・エナ先輩とモカ・テキンソン先輩です」

カーサは一瞬目を丸くすると小さく笑いだした。

「それはまた、濃いメンバーだな」

「他の皆さんを知ってるんですか?」

「ああ。キール先輩は署じゃ結構有名だからな」

「そうなんですか?」

「だってあの性格だぜ?署内で名前を覚えられないくらいに大人しくしてると思うか?」

「……思いませんね」

「モカ先輩も一人じゃそうでもないけど、キール先輩とかラウナル先輩と一緒にいたら目立つからな」

「やっぱり、からかわれるからですか?」

「ああ。ディーズ先輩とヴァウェル先輩はレイマンと同期で三人は仲良いから結構知られてるぜ。昔からここにいるしな」

「え?三人とも昔からここにいるんですか?」

「ああ」

シャルは首を傾げる。

「じゃあ、すっごい大先輩なのにどうしてカーサ先輩はレイマン先輩に敬語を使わないんですか?」

カーサは肩をすくめて簡単に流した。

「ガキの頃から知り合いだしな。今更敬語なんて使えねぇよ」

するとラウナルが口を挟んできた。

「ほら、はよ食べてさっさと行くで。面倒くさい仕事はさっさと終わらせんと」

「あ、はい。すみません」

シャルは急いで飯をかき込んだ。

するとレイマンが首を傾げる。

「面倒くさい仕事とは、一体何をされるんですか?」

「パトロールや」

するとカーサが突然シャルの右手首を掴んで、手の動きを封じる。

「……どうしたんですか?」

カーサは真剣な顔で言った。

「よく噛んで、ちゃんと消化しとけ」

「へ?」

シャルは不思議そうな顔をした。

「それさっきディーズ先輩にも言われたんですけど、誰かがちゃんと噛まなくて何か大変なことになったんですか?」

「ああ。過去に何人もの奴が大変なことになったんだ」

「へ?」

カーサはサラダを食べているラウナルの顔をチラリと見る。そしてそっとささやいた。

「先輩がいるから詳しいことは言えねぇけど、とりあえず幸運を祈る」

「……?」

意味がわからなかったが、シャルはとりあえず言われた通りよく噛んで食べた。

食べ終わるとラウナルが立ち上がる。

「ほな行こか」

「はい」

「俺車回してくるさかい先に門の外で待っててや」

「わかりました」

シャルは外へ出た。

気持ちのよい秋晴れである。こんな日のパトロールは悪くはないかもしれない。そんなことを思いながら門を抜ける。

しばらく待っていると一台の車がシャルの前に止まった。ラウナルが窓を開ける。

「行くで」

「はい」

シャルは助手席に座る。

ゆっくりと車が動き出した。

「今日は大きい通りんとこ回るわ」

「わかりました」

「違反しとる車とか見つけたらすぐ言うんやで」

「はい」

しばらく走っていると、ラウナルが声をかけてきた。

「ところであんた、捜査課に入りたかったんやってな」

「はい」

「なんで捜査課がよかったんや?」

シャルは優しく微笑んだ。

「自分の父もラベル警察署の警察官だったんです。捜査課をやっていて、いつもすごい功績を残していたそうです。父は自分が幼い頃に亡くなってあまり思い出はないんですが、父を尊敬して自分も同じ警官になって捜査課に入るのがずっと夢でした」

「そーか。せやけど残念やなぁ。捜査課になれへんくて」

「最初はがっかりしましたけど、でも捜査課でも交通課でも市民の安全を守るという仕事には変わりないので、今は何とも思っていません」

「へぇ」

シャルはラウナルを見上げる。

「先輩はどうして警察官になったんですか?」

彼は苦笑した。

「俺は昔、刑務所にいたんや」

「え?」

「人殺しはしとらんけど、もう少しで殺してしまうところやった」

「……誰をですか?」

「全くの赤の他人や。名前も知らんし年も知らん。俺は若い頃はすぐにキレてまう奴やったんや。それで、その日もむしゃくしゃしてて通りすがりの他人刺してしもた。そん時丁度通りかかった警官に捕まって即行刑務所行きや。そんで出所した時には警官の助けもあって気持ちはすっかり入れ替わってた。そんで、俺も昔の俺みたいなアホな奴を救うために警官になったんや。せやからほんまは少年課に入りたかったんやけど、お前には説得力がない言われてもうてな」

ラウナルはケラケラ笑う。

「せやけど、少年課だけが昔の俺みたいな奴を救うんやないて分かってからは無性に交通課がおもしろうなったし、実際パトロール中に昔の俺みたいな奴を止めたこともあったから、結果オーライっちゅうこっちゃ」

「へぇ……。でも先輩みたいに、昔刑務所入ってて今は警官になってる人って珍しいんじゃないですか?」

「せやなぁ。結構長いこと署に勤めてるけど全然そんな話聞いたことないわ。せやけど、警官やのぉても、俺みたいに刑務所入っても出てきてちゃんと仕事しとる奴はぎょーさんおるで」

「そうなんですか?」

「ああ。皆刑務所入ってる時に警察官に助けられたんや」

シャルは目を輝かせた。

「やっぱり、警官ってすごいんですね」

だがラウナルは皮肉っぽく笑う。

「ま、その逆もおるけどな」

「え?」

「警官やった奴が犯罪しとるケースもぎょーさんあるっちゅうこっちゃ」

「そうなんですか?」

「結局、奴らも俺らも人間やからな。一生正しいこと出来る奴なんておらんのとちゃうか?」

「……」

大きな通りに出た。

少し遠くに見える信号が黄色になった。すると、角から突然赤いスポーツカーがシャル達の乗っているパトカーの前に出てきて、後ろにパトカーがあることを知らないのか、猛スピードで走る。そして赤色に変わった信号機の下をあっという間に通り過ぎた。

「あ、信号無視……とあれは多分スピード違反ですね」

シャルが呟く。

「先輩、ナンバープレート覚えてますか?」

返事がない。

「先輩?」

横を見ると、ラウナルはニヤリと笑っている。

「俺の目の前で違反するとはええ度胸しとるやないか」

「あの、せん」

「死にとぉなかったら黙っとき!!」

ラウナルは怒鳴ると、赤いスイッチを押した。パトランプがくるくると回りだし、大きなサイレンを鳴らす。そしてアクセルを一気に踏み込んだ。

「え、うわ!?」

パトカーは突如スピードを上げて赤いスポーツカーを追いかけはじめる。

「先輩!ぶつかる!!」

顔を真っ青にしてシャルが悲鳴を上げる。

目の前は交差点で、数々の車が横切っていた。だがラウナルはハンドルを上手い具合に操り、それらを見事に交わしながら交差点を渡り切った。

後ろでは交差点を渡ろうとしていた車が急ブレーキをかける音や、クラクションを鳴らす音が聞こえる。

しかしラウナルは気にも止めずに、前を走るスポーツカーだけを見ていた。

「逃がさへんで」

更にアクセルを踏みスピードを上げた。

スポーツカーが左に曲がる。

「俺をまこうなんて一万年早いっちゅうねん!」

ラウナルはハンドルをきりながらブレーキを踏んで角を曲がった。

思わずシャルは頭をぶつける。

「いった!」

だがラウナルはお構いなしにアクセルを踏み込む。スポーツカーとの距離は徐々に縮まっていく。

だが道が細いためシャルはぶつかりやしないかと冷や冷やしていた。

道を抜けたスポーツカーは右へ曲がった。

「おっしゃ。広い所に出よった」

ラウナルは巧みなハンドルさばきで角を右に曲がる。

広い道に出た。だが、対向車はない。目の前に赤色のコーンが立っている。どうやらこの先は工事中の道のようだ。だがスポーツカーはお構いなしにそのコーンを吹き飛ばして行った。

「ええ度胸や」

「ちょ……先輩危な」

一気にアクセルを踏む。

シャルは座席の背もたれに頭をぶつけた。

「いっ!」

「行くでぇ!」

あっという間にスポーツカーを追い抜いた。

ラウナルはハンドルを左にきって急ブレーキ。スポーツカーに立ちはだかるように横向きに止まる。

スポーツカーの運転手は慌ててブレーキを踏む。タイヤが悲鳴を上げた。だがなかなか止まらなく、こちらへ迫ってくる。シャルは思わず身をかがめた。スポーツカーはギリギリの所でピタリと止まる。

シャルは顔を真っ白にして荒い息をしていた。

「……死ぬかと思った」

今になってようやくディーズとカーサの言葉の意味が分かった。

『よく噛んでしっかり消化しておけ』

きっとラウナルの運転に倒れた人はたくさんいるのだろう。

いつの間にか彼は車を降りて、シャル同様蒼白な顔をしている運転手の所へ行っていた。ラウナルは運転席側の窓をノックするように軽く叩く。男は窓を開けた。ラウナルは勝ち誇った笑みを浮かべる。

「免許証、見してもらおか?」

「……」

男は黙っている。

「早う出さんかい」

「……」

ラウナルは目を細めてニタリと笑った。

「まさかあんた、免許不携帯とちゃうやろな?」

「……」

沈黙が、事実を物語った。




「ラウナル・イオン見事な功績を残して戻ったで」

ラウナルは勢いよく交通課の部屋のドアを開けた。

「おつかれぇ」

キールが笑いながら手を上げる。

するとモカが早速眉を潜めて彼に詰め寄った。

「また無茶な運転したらしいですね、ラウナル先輩」

「そうしなあいつに逃げられたんやで?結果オーライやんけ」

「ナンバープレートを覚えておくとかもっと他にも方法はあったでしょう?」

「そんな面倒くさいことしてられへんわ」

「ここに苦情が来てるんですよ!」

「なんや、勇敢にも犯人を捕まえた俺に苦情寄こすふとどき者がおるんか。最悪な奴やな」

「車がたくさん通ってる道を速度を落とさずに横切ったら誰だって苦情寄せますよ!危うく大惨事になりかけたそうじゃないですか」

キールはケラケラ笑う。

「あっはは!さすがラウナルだよね」

「笑い事じゃありません」

ラウナルは肩をすくめた。

「そんなん俺のプロフェッショナルなハンドルさばきのおかげで怪我人は一人もおらんかったんやからええやないか。終わりよければ全て良し」

するとヴァウェルが鼻で笑う。

「そうだな。……だが、お前だけは終わりは良くないぞ」

「は?」

彼は冷たい笑みを浮かべた。

「その多数の苦情が総監の耳にも入った。お前は三日間、地下で謹慎だ」

「なんやて!?」

ラウナルは目を丸くした。

「なんでや!俺は違反した奴捕まえたのになんでそないなことされなあかんねん!」

「確かに、お前のその見事なテクニックによって違反した男は捕まり、怪我人も一人も出なかった。それを評価されて本来一週間だったところを三日間に軽減された」

「ああ、そうか。そらよかったわ、ってそういう問題とちゃう!評価されたっちゅうのになんで謹慎なんてせなあかんねん」

「警察官ともあろう者が例え違反者を捕まえるためとはいえ、市民を危険にさらしてどうする」

ヴァウェルは鋭い目でラウナルを見た。

「さっさと地下へ行ってこい」

ラウナルは吐き捨てるように言った。

「やってられんわ」

そして乱暴にドアを開け、廊下を歩いて行った。

彼の後ろでずっと話を聞いていたシャルは小首を傾げる。

「あの……自分は一緒に行かなくていいんですか?」

ヴァウェルがシャルの方をチラリと見た。

シャルはおずおずと尋ねる。

「自分はラウナル先輩の運転する車の助手席に座っていました」

「運転したのはラウナルだ。お前まで責任を取る必要はない……と総監は言っていた。俺はそうは思わないがな」

「……」

するとキールが肩をすくめる。

「ラウナルは常習犯だからねぇ。悪いクセだよ。今まで罰はなかったんだけど、そろそろ厳しくして分からせておかなきゃここの信用にもかかわってくるって総監様も思ったんじゃないの?」

ヴァウェルは本を開いた。

「今回であいつも少しは懲りるだろう」

するとディーズがシャルをニヤリと見た。

「ところで、早くもあいつのすばらしきハンドルテクニックを体験したようだが、どうだった?」

シャルは苦笑する。

「先輩の言うことを聞いていて正解でした」

「だろ?」

モカは心配そうな顔をしている。

「今、体調はどうですか?」

シャルは笑った。

「平気ですよ。少し休んだら良くなりましたから」

「そうですか」

モカは安心したように微笑んだ。




六時に仕事を終えたシャルは受付へ走った。

そこで受付の女性に声を掛ける。

「すみません。シャル・レンダーですけど、射撃の練習の日時と教師の手続きをしてもらえますか?」

女性は微笑んだ。

「はい。少々お待ちください」

そして一冊のファイルをパラパラとめくる。すぐに顔を上げた。

「9月30日の夜9時に射撃場で行います。教師は爆発物処理課のクルさんです。クルさんに急用が入った場合は後ほど連絡します。もしシャル・レンダーさんに急用が入った場合はこちらまで連絡を入れてください」

「わかりました。ありがとうございます」

「いいえ。がんばってくださいね」

「はい」

シャルは受付を後にして寮へ向かった。

寮の外の庭にある一本の大木の下で、少女が背伸びをしているのが見えた。男子寮ヘルパーのネアンだ。

どうやら洗濯物が風に飛ばされたのだろう。木の枝に引っかかっているタオルを取ろうとしている。だが身長が足りないために届かないようだ。

シャルはネアンに近づくと、彼女の後ろからそのタオルを取ってやった。

「はい」

手渡すと彼女はニコリと笑った。

「ありがとう。お寝坊トリオさんの1人のシャル・レンダー君ね」

シャルは慌てて言った。

「その節は、ご迷惑をおかけしました」

彼女は微笑んだ。

「いいよ。だってシャル君朝ごはん残さず食べてくれたもの」

「え?」

「寝坊した人は時間がないからって朝ごはん残す人が多いの。私たちは毎日、一生懸命全員分のごはんを朝早くから起きて作ってるの。だから残されるとすごく悲しいのよ。でもシャル君もカーサもレイマンさんもちゃんと食べてくれたから」

「ありがとうございます」

ネアンは苦笑した。

「私こそごめんね。わざわざ洗濯物取ってもらったのにこんなこと言っちゃって。なんかシャル君の顔見たら思わず言いたくなっちゃって」

「いえ」

するとネアンは首を傾げる。

「ところでシャル君」

「なんですか?」

「何課に入ったの?」

「交通課です」

そう言うや否や彼女は突然顔を輝かせた。

「え?うそ!本当!?」

「はい」

ネアンはシャルの手をギュッと握る。

「お願いがあるの!」

「へ?」

ネアンは背伸びをするとシャルの耳に口を近づけた。そして小声でそっとささやく。

「ディーズ先輩の好きなタイプを聞き出してきて」

「え?」

ネアンは少し顔を赤らめている。

「……まさか」

「お願い!」

シャルはクスクス笑う。

かわいいなぁ……。

恋をしている女の子は、外見も中身もかわいく思える。そう思うと、応援したくなる。

シャルは頷いた。

「いいですよ。わかりました」

ネアンの顔いっぱいに笑顔が広がる。

「本当!?ありがとう」

「いいえ。毎日お世話になることですし。応援しますよ」

「ありがとう。本当にありがとう!」

「でも、知り合って間もない僕にそんなこと言ってしまっていいんですか?」

ネアンはかわいい笑顔を見せた。

「うん。シャル君は信用できるって、直感で思ったんだ」

その素直さにシャルは思わず微笑む。

すると彼女は思い出したかのように言った。

「あ、そう言えば自己紹介まだだったっけ?」

小さく苦笑する。

「なんか今更な感じだけど、ネアン・マーメル。年は十五。ご存知男子寮のヘルパーです。よろしくね」

「はい。シャル・レンダー。十七歳です。よろしくお願いします」

ネアンは頬を膨らました。

「敬語なんて堅苦しいから止めてよ」

そしてニコリと笑う。

「私は警察官じゃないから、先輩じゃないの。友達として付き合っていこ」

シャルは笑った。

「うん」

すると彼女は腕時計に目をやる。

「あ!もうこんな時間!?早く戻らなきゃ!洗濯物取ってくれてありがとね」

「いえ。また引っかかったら言ってください」

「うん」

彼女は寮の中へ入ろうとしたが、振り向くと手を振って笑顔で言った。

「今日の晩御飯はクリームシチューとブロッコリーのサラダだよ。全部食べてね」

「うん」

走り去る彼女を見送りながら、シャルは苦笑した。

「カーサ先輩、全部食べれるのかな」

「俺がどうしたって?」

背後に気配があって、振り向くと分厚い本をたくさん抱えているカーサがいた。

シャルはクスクス笑う。

「今日の晩御飯はクリームシチューとブロッコリーのサラダだそうですよ」

「げっ!マジかよ。最近ブロッコリー多いな」

「でもちゃんと全部食べなきゃネアンが怒りますよ」

カーサは渋い顔をした後、ふとシャルを見た。

「なんだ?もうネアンを呼び捨てするまでの仲になったのか?」

「はい。いい子ですね」

カーサはからかうように言う。

「惚れたか?」

シャルは笑った。

「無理ですよ。相手にされませんから」

そして寮の中へ入っていった。

「……なんで断言できるんだ?」

カーサは一人首を傾げた。

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